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異世界における他殺死ガイド35

 

 - 海底 行方不明だったアウロラがエルネスト達に保護される少し前 -


 俺は岩陰に隠れてキューを見ている。


「キュウーキュウー」


 キューが鳴いて俺を探している。


 悲しそうな顔だ。傍に行ってやりたい。だが既に気配察知でキューの仲間らしき水棲亜人の姿を捉えている。俺がキューの近くに居たりしたら大騒ぎだろう。


 俺はそのまま岩陰に隠れてキューを見守り、キューが仲間と合流したのを確認してすぐにその場を離れた。


 寂しいが、これでキューとはお別れだ。



 ゴポ…ゴポ…



 この辺りに来たのは初めてだ。海底洞窟からはやや上に向かって移動してきたが、まだ相当深いはずだ。だが明るい。これは日の光が届いているわけではなく、海底の砂の中で何かが発光しているようだ。何が発光しているのかは不明だ。


 周りには見たことのない魚が泳いでいる。海底洞窟近くの生物は黒かったり灰色だったり、暗い色が多かった。ここの生物は赤青黄色の魚、ピンク色の珊瑚に白く大きな貝。なんとも色彩豊かである。


 こちらの世界に来てから生きるのに必死で、綺麗なものを観賞する余裕など無かった。俺は折角なので楽しんでから洞窟に帰ることにした。


 コポポ…


 ゆっくりと泳いで魚達を観賞する。綺麗だが、俺に気付くとすぐに隠れてしまう。気配を、気配を消すのだ…。


 ところで俺は今亀であり、肺呼吸が必要なのだが、俺が海上に上がって呼吸をすることは無い。何故ならこの亀はどうやら水中呼吸のマテリア、ゲフン、酸素供給の魔石の持ち主のようであり、海上に上がって呼吸する必要が無いのだ。エラ呼吸ではないのに深海にいる魔物は皆そうなのかもしれない。



 ザワリ



 なんだ…?突然、毛など無いのに全身が総毛立ったような。


 周りに怪しい気配は無い。だが何か危険な存在が近くに居る気がする。ここはキューと別れた場所から既に大分遠いが、万が一、キュー達が襲われたりしたら大変だ。正体を突き止めて、可能であれば排除しなくてはならない。俺は気配察知を頼りに辺りを探すことにした。



 ゴポゴポ



 暫く泳いでいると、視界が悪くなってきた。水が濁る。これはおそらく瘴気だ。この近くには強力な魔物が多く生息していると思われる。危険な存在が居るとしたらこの辺りか。



 ピコーン



 気配察知に反応があった。反応のあった方を探ると人影らしきものが見えた。


 これは…水棲亜人か?こんなところで何をしている?俺は岩陰に身を隠しながら水棲亜人らしき反応に近づいた。すると独り言らしい声が聞こえてきた。


「まったく、ゾロメの奴め、こんなところにまで産み付けにこんでもいいじゃろうに。」


 聞いた声だ…。声の主を肉眼で捉えた。水棲亜人ではない。水着を着た女性が泳いでいる。


「ん?」


 水着の女性が振り返る。目は三白眼に、並ぶ歯列はギザギザ。白く長い脚は美しい。


 げぇっ!ザラメ!?


 なんでこんなところに?ここ海底だぞ?呼吸は?水中呼吸のマテリゲフン?いや、あの人ひょっとして鮫型の水棲亜人だったのか?歯がギザギザでそれっぽいし。いかん、予想外の再開に俺は混乱している。


「んん?」


 まずい。ザラメがこっちを見ている。ここにアリエスは居ない。俺を守ってくれる存在は居ないのだ。


 逃げる。すぐに。俺は後ろに振り返った。


「……。」


 ザラメの三白眼と目が合った。


「ゴウアアアア!」


 声が出てしまった。いつの間に回り込まれた?


「亀、お主、どこかで会ったかのう…?」


 会ってない。この姿では一度も会ってない。俺は首を振って否定した。


 ザラメが拳でもう一方の掌を叩いた。


「おお、あの時の犬ころか。」


 何故分かった!?


「また会えるとはのう。しかも今度は亀の中とは。面白い。」


 ザラメがにやりと笑い、ギザギザの歯列が剥き出しになる。


 駄目だ。一刻も早く逃げなくては。捕まったら何をされるか分からない。


 ジリ…


 いつでも逃げられるように体を準備させ、全神経を集中させてザラメの隙を伺う。


「……。」


 ザラメは俺が逃げようとしているのを察知してか、腕を組み、黙ってこちらを見ている。水の中なのでわからないが、今俺は多分汗だくだ。



 ピコ-ン



 気配察知が何かを捉えた。何かはこちらへ近づいてくる。んええい、このくそ忙しいときに。いや、これは逃げ出す良い機会かもしれない。


 ゴボボボッ!


「キシャアアア!」


 こちらへ一直線に向かってきた何かは体より大きな口を持つ、巨大なアンコウのような魔物だった。


 アンコウは大きな口を開け、ザラメへと迫る。危ない。


「ゴウアアッ!」


 逃げる良い機会であったのに、体が勝手に動いた。


 ガギン!


 アンコウの歯が甲羅に当たる。俺は甲羅を盾にしてザラメを守ったのだ。


「おお、お主、わしを助けてくれたのか?」


 いいや違うね。このまま逃げる。


 ガガガガシュン!グサッ!


「キシャアア!」


 甲羅から刃を出し、アンコウを攻撃。そしてそのままアンコウを押すように水を掻いた。


 ムンズ


「ゴウッ?」


 ザラメに尻尾をつかまれた。


「では、これが初めての共同作業じゃな。」


 なに言ってんだこの人。


 ゴッバアッ!グオオオオン!


 視界が回転する。


「ゴアアアアアアッ!?」


 どうやらザラメが俺の体を振り回しているようだ。どんな怪力だ。俺は泣きそうになった。


 グオン!グオン!グオン!


 幾度かの回転の後、ついに俺の体はアンコウに向かって振り下ろされた。


 ズギャアアッ!


「ギッ!ギシャアアアア!」


 アンコウの体は俺の甲羅の刃によってズタズタに切り裂かれた。アンコウは絶命した。


「ゴッ、ゴアァァァ…。」


 俺は泣いていた。


「おお、スマン、魔物であればこのくらいは問題ないと思ったのじゃが、次からは気をつけるゆえ、許してくれ。」


 次など無いっ。


 ガボッガボッガボッ


 俺は水を掻いてザラメから逃れようとする。だがザラメに尻尾をつかまれている。


「やあ待て待て、別にとって喰おうという訳ではない。ちょっと中身に興味があるだけじゃ。」


 か、解剖だ。解剖する気だ。脳に細い棒突っ込まれてクチュクチュしてアッアッだ。



 キュピーン



 天敵に尻尾をつかまれているというこの状況が、俺の本能を呼び覚ます。


 モワワワ


 俺の体の周りから黒い墨が溢れ出し、周囲を黒く染め始める。それは烏賊の墨だ。この世界の烏賊の墨は魔法だった。


「うん?なんじゃこの黒いのは?」


 今だ!


 ブチィ!


「ぬおっ!?済まぬ!尻尾が切れてしもうた!」


 いいや、ワザと切った。自らの尻尾を一時的に切れやすい状態にし、切れた後は再生力を高める。蜥蜴の尻尾切りもまた、魔法だったのだ。


 ザラメが切れた尻尾を持ってわたわたしている間に、俺はさらに墨を出し、全速力で逃げ出した。



 ***



 …どのくらい逃げ続けただろうか?まだそれほど離れては居ないと思うので、油断は出来ない。


 だがザラメはどうやら目に頼ってこちらを探していたようなので、撒けたことは撒けたと思う。


 ボゴゴッ


 ふーっ、と一息つけばどうも下の方が騒がしい。


 見れば鮫の魔物がうじゃうじゃと集まっているではないか。これは一体何事か。


 俺は事態の確認のため、ゆっくりと鮫の群れへと近づいていった。


 ※この後は29話に続きます。


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