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異世界における他殺死ガイド34

 

 谷の底に蠢く人の死体を見てジークが呟く。


「…なんだこれは?」


「この数、まさか、魔物に襲われた村の…、王に報告しなくては。」


 ジュレスの顔が険しくなる。


「それより早く俺につかまってくれ。」


「ああ、悪い。」


 ジュレスがジークの体にしがみつこうとして体を回す。そこでジュレスはジークが裸であることに気づいた。


「んなっ!?なんで裸なんだ!」



 ここで、何故ジークが裸となったのかを説明する。


 ジークが最強装備と唱えると、現在収納している装備から、防御力、攻撃力を参考に選ばれた最強装備が自動的に装着される。


 召喚の失敗により、ジークの体はGと融合し、ザ・コックローチと化した。その身体能力は凄まじく、自分に向かって振り下ろされた剣を見てから避ける。受けるよりも避けたほうが強い、回避特化型のジークにとって、自分の体を重くする防具など、邪魔なだけであった。ジークにとっての最強装備とは、WIZの高レベル忍者のごとく、裸である。


 そして、最強装備になる工程、これは0.05秒で行なわれる。


 では最強装備に至る工程をもう一度見てみよう!


 1. 足を肩幅に開いて右拳を上に突き出し左拳は腋に、「最強装備!」と宣言。

 2. 右拳を回して左拳と同じように脇に持ってくる。

 3. 両手を突き出す。

 4. ジークの体がブレ始める。

 5. 体に装備されていた胸当てや脛当てが次々と粒子となって消える。

 6. 何故か空中から股間に向け、サアッと謎の光が指す。

 7. パッと両手両足を広げる。謎の光が太くなる。

 8. 装備が消えた時の粒子が舞い、キラキラと綺麗。

 9. 完全に裸となったジークが左手に拳を作って引き、右手を開いて前に突き出す。

 10.片足を曲げてかっこいいポーズを決めながら、魔物目掛けて「宇宙勇者ジーク!」と名乗りを上げる。


 ※蒸着か。いや、蒸脱か。



「いいからつかまれ、まだ上には敵が居るんだ。」


 崖の上に注意を払えば、槌猪と戦っているのだろう、ジュレスの部下達の声が聞こえる。


「あ、ううっ…。」


 真剣な顔のジークに押し込まれ、ジュレスはジークの体につかまった。


 ガキッ!


 ジークがGの手を崖に引っ掛ける。


「よし、上れそうだ。」


 ジークは慎重に崖を上っていく。


「……。」


 ジュレスはジークの胸につかまりながら、真剣な顔で上を向いているジークの顔を見た。


「っ!」


 ジュレスの体温が上昇する。


 裸ではあるが、ジークは眉目秀麗な男子である。そして、うら若き男女が薄着(片方は全裸だが)で抱き合っているというこの状況。ジュレスが顔を赤くし、手に汗を滲ませたとしても、それは仕方の無いことであった。


 ズルッ


 ジュレスの手が汗で滑った。


「あ。」


 グッ!


 ジュレスはつかまる力を強めたが既に遅く、ジークの体をずり落ちていく。


 ズルル


「あっ!ああっ!」


 ガシッ!


 ジークの腰に腕が引っかかり、ジュレスはそれ以上ずり落ちなくなった。だがジュレスの目の前にはジークの股間がある。


 そして、勇者はフルチ(略


 勇者はフルチ(略


「あ…、ああ…、あーーっ!」


 手で目を覆うことも出来ず、ジュレスが叫び声をあげた。


「ジュレス、しっかりつかまれ。一気に上るぞ。」


 ジークが上るのを速める。二人の体が大きく揺れる。


「待っ!当たっ!あっ…!あああああー!」


 ガガガガッ!シュパーン!


 ジーク達の体が崖上に飛び出した。


 シュウウウウン


 ジークは紳士である。崖上に出てすぐ、ジュレスに鎧を装備させた。だがジュレスは放心していた。


 ジークはジュレスを崖から離れた場所に生えていた木にもたれかからせると、未だジュレスの部下と戦っている槌猪へと駆け出す。


「うおおおおっ!」


 ガガガッ!


「ブシュウウッ!?」


 ジークは槌猪の体を駆け上り、宙へと舞った。


 シュウン


 飛び上がった頂点で収納から取り出されたのはジークの背丈より大きな剣。ジークはその剣を握り、剣の重さに任せ、槌猪へと振り下ろす。


 ドグシャアアア!


「ブシュウウウウウ!」


 槌猪は大きな剣に体を斬り潰されて絶命した。


 シュウン


 ジークは大きな剣を収納して呟いた。


「これなら非力も補えそうだな。」







 ジークの初の実戦は勝利で終わった。そして、レイゲラ峡谷で起きていた惨状を王に報告するため、ジーク達は城に帰る事になった。


 ゴトゴトゴト


 馬車の中、ジュレスとジークが二人きりで対面していた。放心しているジュレスを心配し、部下が馬車に押し込めたのだ。ジュレスの部下達に苦言を呈され、現在のジークはちゃんと服を着ている。


 ジュレスは馬車の背もたれに体を預け、ぐったりとしていた。


「……。」


「大丈夫かジュレス?」


 ジークと目が合い、ジュレスはハッとした。顔の温度が上がるのを自覚したのだ。


「ほ、ほうっておいてくれ!」


 ジュレスは俯き、ジークと目を合わせない。合わせられない。


「誰にでも油断はあるさ。気にすることは無い。それよりジュレス、気分はどうだ?」


「……。」


「そうか。俺はなんだか変な感じなんだ。」


「…?」


「あんなことがあった後じゃあ仕方が無い。」


 ジュレスが顔を上げた。


「…お前もなのか?」


「ああそうだ。」


 ジークとジュレスは見つめ合った。見詰め合っていた時間は数刻か、数瞬か。


「これがレベルアップだな。」


「え。」


「被召喚者は鍛えると全能力が飛躍的に向上すると言っていただろう?そして仲間であるジュレスもレベルアップできるはずだ。能力が向上した感じはないか?気分が高揚すると言うか…。」


「あ、ああそう、これが…。確かになんだか力が漲ってくる気がする。今なら何でも出来そうだ。」


 ジュレスは自分の手を閉じたり開いたりしている。


「さて、後は帰るだけだし、俺はファストトラベル使わせてもらうけど、ジュレスはどうする?」


「…ああ、私はこの状態を調べてみたいから、お前だけ使え。」


「分かった。」


 スン


 ジークの顔が無表情となる。歩き出したりはせず、座ったままだ。


「……。」


 馬車には幌がかけてある。前後の入り口も布で覆われ、前からも後ろからも中は見えない。


 サッサッ


 ジュレスはジークの目の前で手を振るが、ジークの反応は無い。


「誰にでも油断はある…。」


 ジュレスは立ち上がると、ジークの隣に座った。


 ギシ


 ジュレスはジークのすぐ横に手を置き、ジークの横顔を覗き込んだ。


「…何でも出来そうだ。」


 ※怖い。


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