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異世界における他殺死ガイド31

 - ヌベトシュ城 兵士達の訓練場 -


 ドシュ!ドカ!


 幾人もの兵士が藁で出来た人形に向かって武器を振るっている。その片隅で上級騎士ジュレスが古ぼけた書物を開き、ジークに向かって語り掛けていた。脇にはジュレスの部下が控えている。


「古文書によると、被召喚者は異能を使えるとある。お前の異能はお前が言っていた被回復魔法の永続化だろう。」


「うん。」


「被召喚者は最初から強いわけではなく、訓練させて徐々に強くしてやる必要があるとも書いてある。お前は最初からまあまあ強いが、それでも高ランクの魔物に勝つのは厳しいだろう。それらを統べる存在が相手なのだから、今のまま探索に行っても危険なだけだ。」


「うん。」


「サーリア様のご期待に沿えるよう、お前にはこれから私が付いて戦闘の指導をしてやる。」


「よろしくお願いします。」


「やけに素直だな。王の間であんな大立ち回りを演じた奴とは思えん。」


「サーリアのためならなんでもするさ。彼女は俺の天使だ。」


「…まあ良い。この古文書には他にも被召喚者の事について書かれている。訓練の前に確認しておくぞ。」


 ジュレスが古文書に書かれた内容を説明しだした。




 ・自動翻訳




「被召喚者はそれまで聞いた事の無かった言語を何の学習もせずに操ることができる。」


「まあ、今話せているものな。」


「異能もそうだが、この世界に存在するあらゆる言語を自動的に翻訳する力をやんごとない存在から授かっているとのことだ。我々との意思疎通はもちろんの事、別の言語を扱う者達に話を聞く時に役立つだろう。部下が別大陸の出身の者と知り合いでな。少しだが、別の言語を話せる。試しに聞いてみてくれ。」


 ジュレスの後ろに控えていた部下の一人が前に出て言う。


「準備は良いですかジーク殿、いきますよ?」


「ああ。」


「ジュレス様、私に今履いている靴下を下さい。」


「うん?」


「ジュレス様、私に今履いている靴下を下さい。」


「うん。」


 ジュレスが尋ねる。


「何と言ったかわかったか?私にはまったくわからないのだが。」


「うーん。自動翻訳にちょっと意訳が入っているのかもしれないな。他の言葉にしないか?」


 ジュレスが部下の方を見る。


「ジュレス様、申し訳ありません。少し喋れると言いましたが、私は友人からこの言葉しか教えてもらっていないのです。」


「そうか。まあいい、それで、何と言っていたのだ?」


 ジュレスがジークを見る。


「ああ多分、ジュレス様は素晴らしい方だと言っているんじゃないかな。」


「それであっています。友人はもし自分の故郷に来ることがあったら、ジュレス様を紹介する時に使うように言っていました。」


「う、うむ、ちゃんと機能しているみたいだな。」


 ジュレスは照れている。


「やはり、持つべきものは友だな。」


 ジークはうんうんと頷いた。




 ・状態表示




「状態表示と言って見ろ。」


「何で?」


「いいから、そう書いてあるんだ。」


「状態表示。おおっ?」


 ジークは自分の目の前の何もない空中を見て驚いている。


「被召喚者は状態表示と言うことで自分の体の状態を見ることができるとあるが、表示されたか?」


「ああ、された。俺は生命力と素早さ特化みたいだな。装備は上質な服ってなってる。大分情報が省略された表示だ。」


「後は…、仲間の状態もわかるとある。私の状態がわかるか?」


「いや、表示されていない。多分、まだ仲間じゃないからじゃないか?」


「お前が私を敵と見ているということか?」


「いや、こういうのは手順があるんだ。」


「手順?」


「俺のことを仲間になりたそうな目で見てくれ。」


「どういう意味だ?」


「そのままの意味だ。仲間になりたそうな目で、俺を見るんだ。」


「意味がわからん。」


「いいからほら、試してみてくれ。」


「…こうか?」


 ジィッ


 ジュレスがジークを見つめる。


「駄目だな。そうじゃない。もっと上目遣いで、捨てられた子犬のような目で俺を見るんだ。」


「なんでそんなことをしなければならん!」


「俺の能力の確認なんだから、協力してくれないと。」


「くっ、本当に必要な手順なんだろうな…。こ、こうか?」


 ジュレスがジークを上目遣いで見る。部下の手前、恥ずかしいのであろう、ジュレスは顔を赤くした。


「ああ、いい感じだ。次は、そうだな…、もっと目を潤ませるんだ。」


「……。」


 ジュレスが顔をしかめてジークを睨む。


「違うなあ、そんな目つきじゃなくて、もっと媚を売るような目で、ほら、早く。」


「こ、媚だと!?ぬううっ!」


 ジュレスの顔が屈辱に歪む。


「ジュレス様、ここはジーク殿の言うとおりに。」「能力の確認のためです。割り切らねば。」


「き、貴様らっ!?」


 部下の裏切りを受け、ジュレスが涙目になる。


「ああ、そうだ。そんな目で俺を見るんだ。さあ。」


「う…。」


 ジュレスは目に涙を潤ませ、上目遣いでジークを見つめた。


「あ、選択肢が出た。はい、と。」


 ーーー。


「…終わったのか?」


「ああ、これでジュレスは俺の仲間だ。」


 ジュレスは上目遣いを止め、姿勢を正した。


「ゴホン、それで、どうなんだ私の状態は?」


「見えているぞ。生命力や攻撃力などの能力値は突出したものは無いがバランスの良い配分、装備は上級騎士の鎧と剣。」


「本当に見えているのか?誰でも答えられそうな内容ではないか。」


「独身で年齢は19。3サイズは87、58、80。好きなものは苺。趣味は剣の手入れ。」


「待て。」


「最近の悩みは胸及び尻の大きさが鎧に合っていなくて苦しいので仕立て直ししたいが、それには時間もお金もかかるので先延ばしにしていること。後、俺への好感度は5だな。最大で10だから、結構高い。」


「待てえ!」


「誰でも答えられそうに無い項目を読み上げただけだ。」


「うぐ…。」


 ジュレスが再び涙目になっている。


「涙目はもういいぞ?」


「貴様ああ!」


 殴りかかろうとするジュレスを部下が止めた。


「ジュレス様、ジーク殿は悪くありません。」「鎧の仕立て直しは宰相様に相談してみましょう。それにしても、言ってくだされば良かったのに。」


「う、うわああああ!」


 ジュレスは部下の腕を振り切り、その場から逃げ出した。


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