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異世界における他殺死ガイド30

 

 シュルル ガッ!


 アウロラに絡みつくラチェルの体に、返しのついた針が刺さる。


「!?」


 グイッ!


 針につけられた糸が張り、ラチェルの体が引っ張られる。


「痛あ!」


 痛みに驚き、ラチェルはアウロラを放してしまった。糸を引く相手を見れば、それはバチーノであった。


「アウロラ様!」


 すかさずエルネストがアウロラを引き寄せる。ラチェルは針を振り払い、バチーノに向き合った。


「私の肌に傷がついたじゃない、酷いわ。」


「海老が良かったか?」


「ハハッ、あんた冗談言えたんだ?」


 シュバ!


 ラチェルは触手を広げ、水を掻き、バックダッシュしたかと思えば体の色を背景に溶け込ませ、消えた。


「無事ですか!アウロラ様!」


 アウロラは肋骨を押さえて俯き、震えている。


「痛むのですか?見せてください。」


「大丈夫だエロネスト、たいしたことは無い。それよりも…」


 アウロラはキッと兇亀を睨む。


「武・霊・怒ォォォォ~!」


 アウロラは怒り心頭、兇亀はヒエーといった顔である。


「なんですぐに助けないんだコラ!」


 ポカポカポカ


 アウロラが兇亀の鼻を拳で叩く。叩かれるたびに少し兇亀の首が引っ込み、まるで飼い主に怒られている子犬である。


「なんか兇亀の顔、恍惚としてないか?」「してるな。」「あ、今ゾクゾクッてしただろアレ。」



 そこでラチェルが作った絶好の攻撃機会をポカンとしてみていたイゴルがハッとして叫ぶ。


「ヴハッ、総攻撃だ!あの兇亀を少しでも足止めしろ!」


 まだ残っているアンモナイト達と、鬼哭鮫が兇亀へと向かう。


「むっ、お仕置きは後だ武零怒、ゆくぞ!」


 シュバッ


 アウロラが兇亀の首に乗った。手に持った槍を前に構え、アウロラが叫ぶ。


「突貫!」


 兇亀が鬼哭鮫の群れに突っ込む。


「シャアアアク!」ブシャアアア!


 兇亀が通った場所の鬼哭鮫達が切り裂かれていく。


「俺達も行くぞ!」「お嬢に続け!」「応!」


 エルネストと守備隊がアンモナイト達を相手に戦い出す。


「グロロロアア!」「ウオオオオ!」



 バチーノはロドルフの元へと泳いだ。


「ロドルフ様、申し訳ありません。私が愚かでした。」


「今その話は置いておけ、それよりも浄化灯の復旧を頼めるか?」


「お任せください、命に代えても!」


 バチーノはコロニーへと泳いでいく。ロドルフが上を見れば、もう残り少なくなった鬼哭鮫を相手に、兇亀の首の上からアウロラが槍を振り回していた。


「まだくるか!」


 アウロラが掌を前に出し、見得を切った。そこへ鬼背負いが突進してくる。


 鬼背負いの背中にある、毛や甲殻の色で構成された鬼の顔ような模様の中、鬼の目の部分が光る。


「ゴモモモ!」


 鬼背負いは大きな鋏を振りかぶり、兇亀の甲羅を叩いた。


 ドギャ!


 が、兇亀の甲羅はびくともしない。



「お前、イゴルとか言ったか?俺様に酷いことをした報いを受けろ!」


「ヴハハ、まさか兇亀仲間にして戻ってくるたあな。驚いたぜ。だがこいつさえ居なけりゃお前らは終わりだ。」


 ブゥゥン


 イゴルの右手が紫に怪しく光る。


「なんだそれは!?」


「遅えぜ。」


 ブゥゥゥゥン


 イゴルが右手を兇亀に向けると、紫の怪しい光が放たれ、兇亀を包んだ。


「支配されろ。」


「武零怒!大丈夫か!?」


 アウロラが兇亀を心配し、目を覗き込む。だが特に変わったところは無いようだ。


「ヴハア、まったく効かねえか!鬼背負い!」


 鬼背負いが大きな鋏を振りかぶる。それを察知して素早く距離を取る兇亀。


「イゴルって奴、何かしようとしたな?すぐに決着をつける、アレをやるぞ武零怒!」


 ゴバアーッ!


 アウロラと兇亀が遥か上へと昇って行く。


「おい、上を見ろ!」「お嬢が何かする気だ。」「一体なんだ?」



 アウロラが兇亀の頭の上に腕を組み、仁王立ちしながら叫ぶ。


「ゆくぞ武零怒!必殺技だ!」


「必殺技だって?」「必ず殺すの?」「怖い!」



 ダッ!


 アウロラが兇亀の頭の上から飛び立つ。そのまま体を丸め、クルクルと回転する。


 すると兇亀は首や手足を甲羅に引っ込める。


 ガガガガガシュン!


 兇亀の甲羅から水平方向に360度、いくつもの刃が飛び出した。そして水平に体を回し始める。


 ギュンギュンギュン



 回転を止め、体を開いたアウロラは、片足を突き出し、落下していく。


「うおおおおおっ!雷堕蹴りぃぃぃぃぃ!!」


 それを合図にしてか、兇亀が鬼背負いに向かって突進した。


「ゴウアアア!」


 ギュルルルル!


 突進してくる兇亀を鬼背負いはその大きな鋏で受け止めようとした。


 ギュバアアア!


 無残。突き出した鋏は砕かれ、鬼背負いの体は切り裂かれた。


「ヴハアアアア!」


 イゴルが吹き飛ぶ。


「イゴル!」


 シュバ!


 そこを擬態から姿を現したラチェルが受け止め、バックダッシュで逃げて行った。



 スト。



 片足を下に突き出した格好のままアウロラが地面に降り立った。


「見たか!」


 再び腰に手をつき、アウロラは仁王立ちとなった。


「や、やったぞ!」「お嬢がやった!奴らを倒したんだ!」「可愛い!」


 守備隊が勝利を喜んでいる。もはや敵は守備隊だけでも問題なく対処できる数にまで減っていた。



 ロドルフが呟く。


「…奴らの正体を知る必要があるな。」


 コロニーを見れば浄化灯が復旧し、コロニー全体を明るく照らし始めていた。









 ロドルフの治めるコロニーから遠くはなれ、ラチェルとイゴルが岩の陰に身を寄せて休憩している。


「ヴ、ヴハア…」


 イゴルの甲殻に亀裂が入っており、中から体液が漏れ出している。


「イゴル、大丈夫?」


「だ、大丈夫だ、少し休めば直る…。」


 だが明らかにイゴルの再起は遠そうである。


「はあ、折角用意した鬼哭鮫の群れが全滅とはね。まったくの予想外。ジャブア様になんて言い訳しようかしら?下手したら殺されるかも。」


「ヴハハア…どこか遠くへ逃げるか?」


「無駄ね。」


「無駄か。」


「知らなかった?魔王からは逃げられないのよ。」




 ***




 ロドルフの治めるコロニーにある最も大きな球体、そこでロドルフとエルネストが見守る中、バチーノが粛清されようとしていた。


 敵と通じていた。コロニーの浄化灯を無効化し、住民を危険に陥らせた。そして何より、アウロラを見殺しにしようとした。これらが裁かれるべきバチーノの罪である。バチーノはアウロラを助け、最終的に浄化灯を復旧させたが、全ての罪が帳消しになるわけではない。たとえそれがコロニー住民のためを思っての行動であったとしてもである。


 バチーノは後ろ手に縛られ、床に膝を突いていた。ロドルフが尋ねる。


「バチーノ、覚悟は出来たか?」


「はい、どのような罰であろうとも、受け入れます。」


「よーし、いい覚悟だ。」


 ドカッ


「ううっ!」


 バチーノを蹴り倒したのはアウロラであった。


「アウロラ様、いくら罪人とはいえもう少し丁寧に扱…」


「ああん?文句あんのかエルネスト。こいつは俺様を見殺しにしたも同然なんだぞ?許せねえ、許せねえよなあー?」


「あ、ハイ。」


「おらあっ!」


 ドゲシッ!


「あうっ!」


 アウロラがバチーノの顔を踏みつけた。そのままグリグリと躙る。


「アウロラ様御免なさいと言え。」


「はい?」


「アウロラ様御免なさいと言えっつったんだよおー!」


 グリグリグリ


「あああっ、アウロラ様御免なさい!アウロラ様御免なさいィー!」


 その時、バチーノの顔に朱が差したのをエルネストは見た。


「…バチーノ様、なんだか喜んでいませんか?」


 バチーノはハッとした顔になる。


「い、いえっ!めっそうもない!」


「バチーノ貴様!」


 ロドルフが憤る。


「あああ、ロドルフ様、違うのです!これは、これは…!」


 グリグリグリ


「ああぁぁぁあっ!」


 バチーノの声が上ずる。


 グリン!


「あうっ」


 アウロラがバチーノの顔から足を離した。


「お前の尊厳は破壊した。だが、これからが本番だぜ。」


 パチン


 アウロラが指を鳴らすと、召使いらしき水棲亜人が小さな箱を持ってきた。


「よしよし、雅羅手亜ガラテア、出ておいで。」


 アウロラが箱を開け、手を近づけると、中から小さな生物が出てきた。


 それは三角形の形状をしており、赤くて小さいが顔は凶悪、そして二つの鋏を持つ、金星蟹の幼生であった。


「そ、それはっ…。」


「金星蟹の雅羅手亜だ。可愛いだろ?」


 バチーノの顔が蒼白となる。


「ま、まさかそれを私の…!」


「そう、そのまさかだぜ。」


 アウロラはバチーノの顔に金星蟹の幼生を近づけていく。


「う、ううっ!うああああ!」


 バチーノの顔が恐怖に歪む。



 バチィ!



 金星蟹の鋏がバチーノの鼻の穴の縁を掴んだ。


「あぎゃああああああああ!!」


 バチーノの粛清は完了した。


 ※身の毛もよだつ、鼻ザリガニの刑!



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