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異世界における他殺死ガイド3

 

 記憶の混濁がある。


 どうやら俺は乗り移った相手の記憶の一部を受け入れてしまうようだ。


 俺は誰だったか…俺は俺だ。




 ヴィクターの仲間達は、金で雇われたただのゴロツキだった。


 そしてヴィクターに乗り移った時、アリエスとの関係が分かった。



 アリエスはヴィクターと他数名でパーティを組み、冒険者ギルドからの依頼をこなしていた。


 パーティのリーダーであるヴィクターが、危険度の高い依頼を請けようとし、不服に思ったアリエスがパーティを抜けた。ヴィクターはアリエスを何度も引きとめようとしたが、アリエスはそれを受け入れなかった。


 ヴィクターは黒ローブの男と通じており、危険な依頼を請け、依頼遂行中の事故としてアリエスを殺すつもりでいた。


 何故黒ローブがアリエスを殺そうとしていたのかは分からない。


 黒ローブに乗り移れていたら分かったかもしれないが、もうそいつは殺してしまった。






 アリエスの方を向く。



「うう……!」



 アリエスはこちらに剣を向けている。


 下手に近づいて攻撃されて、俺が致命傷を負ったらまずい。



 俺はその場に座り込み、頭を垂れ、耳も垂らした。



「……?」



 アリエスは事態が飲み込めていない。当然だ。


 俺は立ち上がり、クロの死体まで歩いた。


 スンスンと鼻を鳴らし、クロの匂いを嗅いだ後、アリエスを見る。



「……?」



 アリエスはまだ変な表情だ。



「ガアウ」



 俺の鳴き声にアリエスは竦んだ。


 俺は「にゃー」と鳴いたつもりだった。


 アリエスの警戒は未だ解けない。



 仕方が無い。危険だが、わかってもらうためだ。


 俺はアリエスにゆっくりと近づき、体を擦り付けた。



「!?……」



 アリエスは切りつけてこなかった。



「お前……クロ、なのか?」



「グルルル」



 アリエスは竦んだ。


 俺は「ゴロゴロ」と喉を鳴らしたつもりだった。



 ***



 乗り移った相手によって、俺の性格にも多少の変化がある。


 例えば蜘蛛は陽気だったし、トカゲは臆病だった。今乗り移っている鉄爪狼だが、ややボケッとしているというか、のーてんきというか、そんな感じだ。



 ヴィクターに乗り移った時はどうだったか。


 彼はアリエスをとても気に入っていた。


 劣情、邪な思いを抱いていたというか…アリエスはとても美人だし、無理も無い。


 これ以上は故人の名誉のために止めておこう。





 黒ローブの他にも怪しい奴がいないか辺りを探ったが、とりあえず見当たらなかった。


 鉄爪狼は広範囲の気配察知が出来る。


 木や草に隠れて視覚では捉えていないのに、小動物の動く姿が見えるのだ。不思議だ。




 アリエスに俺がクロだと分かってもらったところ、アリエスは泣いて喜び、俺に抱きついて顔をすりつけてきた。


 何故クロが鉄爪狼になったのかは、深く考えないことにしたようだ。


 そしてシロを檻から出してやり、クロの死体を埋めた。


 シロは俺に対して威嚇してきたが、アリエスがなだめたらおとなしくなった。


 ちなみにシロはアリエスが贔屓にしている宿屋の飼い猫のようだ。そんな存在を守るために命を捨てられるとは、アリエスは生粋の猫好きのようだ。敵から見たらちょろすぎる。彼女の今後が心配だ。




 ヴィクター達の死体から金目のものを探そうと、死体に顔を近づけてフガフガしていたら、アリエスに止められた。


 俺に人を食べて欲しくないそうだ。


 違うんだ。食べようとしてたわけじゃないんだ。


 俺は耳を下げて項垂れた。


 アリエスが緩んだ顔で俺の頭を撫でてきた。アリエスは猫好きだが、犬好きでもあるようだ。





 しかし、これから俺はどうするべきか。


 鉄爪狼は大きい。頭から尻尾の先の長さはアリエスの身長の3倍はあるだろう。良く食べそうだ。


 アリエスに付いていくとしたら、食い物はどうする? 寝床は?


 近くの森で槌猪でも狩って食べて、寝床も森の中で良さそうだが、アリエスの近くにいないと凶悪な魔物としてその辺の高ランク冒険者に退治されてしまうかもしれない。


 あ、そうなったら俺は今度は高ランク冒険者として……って、それは駄目だ。




 食費などでアリエスに迷惑は掛けたくないし、ここで別れるのが良いと思える。


 しかし、アリエスは命を狙われている。刺客はヴィクターや黒ローブで終わりではないだろう。


 放っておけない。




 というわけで、俺は今度は黒ローブの遺体をフガフガしだす。


 アリエスを狙う者の正体を突き止めねばならない。




「コラ、止めないか、クロ」


 アリエスが手でぐいぐい押してくるが、効かない。




 黒ローブの遺体から、怪しげな薬品や書筒、金貨の入った袋などが出てきた。


 金貨の入った袋を咥えてアリエスに突き出すと、アリエスは死体を漁るのは良く無いと、俺を叱ってきた。


 しかし、黒ローブをフガフガする俺を見て、俺の食費に気づいたのか、逡巡の後、懐にしまってくれた。


 世の中、背に腹は変えられないことは多々あるのだ。





 そして、怪しげな書筒が問題である。


 アリエスは書筒を手に取り、読み始める。


 アリエスの表情が険しくなる。



「まさか、兄上が……」



 黒幕はアリエスの兄か。


 アリエスは黒ローブにお嬢様とか呼ばれていたし、仕草も冒険者にしては上品だ。


 アリエスはどこかの領主のお嬢さんで、襲われたのは後継者争いというやつなのではないか。


 悪人ぽい奴を倒して、ハイ終わり、というわけにはいかなそうだ。


 誰が敵なのか、見極める必要がある。


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