異世界における他殺死ガイド28
水棲亜人達のコロニーの守備隊が見回りをしていると、物凄い速さでコロニーへと接近する影を捉えた。
「な、なんだ?」
「あれは……エルネスト様だ!」
「アウロラ様を連れているぞ!」
「急いで長にお伝えしろ!」
水棲亜人達のコロニーの長であるロドルフが椅子に座って俯いていると、そこへ守備隊の一人が飛び込んで来る。
「ロドルフ様!」
ロドルフは顔を上げた。
「アウロラが見つかったか!?」
「はい! エルネスト様に連れられてこちらに向かっています!」
「まことか!」
ロドルフが椅子から立ち上がり、球体に開けられた穴に近づく。
シュオオオオオ
近づくのが早いか、エルネストがアウロラを抱えたまま球体へと入ってきて、アウロラを肩から降ろした。
「おおアウロラ、無事であったか!」
「おー、親父、久しぶり!」
ロドルフとアウロラが抱き合う。
「長、アウロラ様を保護した直後、何者かに襲われました。私の部下が応戦しています。すぐに戦闘部隊の編成指令を!」
「なんと、それはまことかエルネスト。こうしてはおれん、部隊を編成し、不埒な輩共を皆殺しにしてくれる!」
ロドルフは守備隊に部隊編成の指令を出した。
「してエルネストよ、敵の情報は?」
「敵は小鬼鮫に乗り、槍で攻撃してきました。貝頭種のようでしたが、詳細は不明です。アウロラ様、あの者達に心当たりは無いのですか?」
「んあ? 無ーよ」
「では今まで何処におられたのですか?」
「海底谷の中にある洞窟で武零怒と暮らしてた」
「こんな時に冗談は……では行方不明になる前、アウロラ様の身に何があったのです?」
「んー、何してたっけな? ああ、金星蟹の幼生を探して海底谷の方に行ってたな」
「やっぱり金星蟹じゃないですか」
「いやちげーよ! あ、そうだ、そこで妙な奴を見たんだ」
「妙な奴?」
「髭の長い大きな黒い目の虫っぽい顔の奴。そいつとバチーノが話してたんだけど、興味無かったから金星蟹探しに戻った」
「……バチーノ?」
「んで金星蟹探してちょっと海底谷の奥の方まで行ってみたらそこで嗜虐鯱に襲われたんだ」
「嗜虐鯱に? よく無事でしたね」
「ああ、ありゃあ危なかった。流石の俺様も死を覚悟したね」
「だ、大丈夫なのかアウロラ? 怪我などしていないか?」
「ああ、大丈夫だ親父。武零怒が助けてくれたからな!」
「?」
「それよりも、バチーノ様に話を聞くのが先決のようです」
「そうだ、バチーノは今どこに?」
そこへ部隊編成に向かった守備隊の一人が飛び込んでくる。
「ロ、ロドルフ様!敵襲です!」
「なんだと!?」
球体内の全員が穴から外へ出て周りを見回すと、海底谷の方向から無数の影が近づいているのが見えた。
「エルネスト、奴らか?」
「恐らく」
海底谷に残した部下たちの身を案じ、エルネストは拳を握った。
そこへ守備隊が呼び寄せた戦闘部隊が集まってくる。戦闘部隊の者達は、貝や骨で作られた鎧を着て、何かの角に柄を付けた槍を持っている。
アウロラが前に出て、戦闘部隊の者たちに語り掛ける。
「おめーら! 戦争だぞ!」
「お嬢!」「アウロラ様!」「生きておられると信じてました!」
「俺様の槍はどこだ!」
「へえ、ここに」
戦闘部隊の一人がアウロラに槍を渡す。それを見てエルネストが渋い顔をする。
「いや、アウロラ様は安全な所で……」
「嫌だね」
コロニーへと近づく者達の姿がだんだんとはっきりしてくる。その者達は海底谷でエルネスト達を襲ったアンモナイトの頭をした亜人だった。先頭を除いて。先頭には髭の長い大きな黒い目の虫っぽい顔の奴。具足虫の特徴を持つ亜人が集団を率いていた。
コロニーの外、エルネスト達は陣形を組み、敵を迎え撃つ準備は万全である。そこへ具足虫率いる集団が到着し、睨み合いの形となった。
ロドルフが集団に問いかける。
「お前達は何者だ。何用でこのコロニーへと参った。返答次第では許さぬぞ」
具足虫が口を開く。
「俺の名はイゴル。用件は一つ。コロニー丸ごと、俺達の支配化に入れ」
「何?」
ギリリ
ロドルフ他、戦闘部隊の殺気が増した。
さらにイゴルはアウロラに向かって言った。
「嗜虐鯱から逃れるとは、中々やるな。長の娘」
「あん? あ、てめえ、バチーノと話してたやつじゃねーか。まさか俺様が嗜虐鯱に殺されそうになったのはてめえの所為か?」
「ヴハハ、そうだ、俺がけしかけたんだ。お前が虐め殺されるように」
「者どもかかれい!」
ロドルフが戦闘開始の指示を出した。
ドシュ! ガギィ!
「グロロロ!」「ウオオオ!」「グロアア!」
二つの部隊がぶつかり、剣戟が舞う。
エルネストの槍が敵亜人を貫く。そのままイゴルへと向かって突っ込んだ。
ガキン!
イゴルもまた、その手に持った槍でエルネストの槍を防いでいた。
鼓舞
アウロラの喉が振動する。アウロラの歌は聞いたものの能力を引き上げる力を持つ。振動は部隊全体に行き渡り、一時的に戦闘能力を倍化させた。
「オオ!」「オオオ!」「オオ!」
鼓舞を受けた者達は筋肉が隆起し、目から赤い光を放つ。
そこからは一方的な蹂躙が始まった。
「グロアアアアア!」「グロアア!」
アンモナイト達が倒れていく。乗り手が居なくなった小鬼鮫は逃げていく。
ガギン!ギン!
鼓舞を受けたエルネストの槍をイゴルは防いでいた。
「ヴハハ! こりゃやべえな!」
イゴルの体が下がっていく。
もう一突きでイゴルの槍を弾き飛ばせる、というところでコロニーに異変が起こった。
コロニー全体を照らしていた光が消えていく。コロニーの上に浮かんでいた大きな緑色の立方体がドス黒く変色している。
「浄化灯が……!?」
「なんだと!? まさか……バチーノ!」
ロドルフの顔が歪む。
「待ってたぜ」
イゴルがニヤリと笑う。
ギン!
イゴルはエルネストの槍を跳ね上げ、距離を取った。
「遊びの時間は終わりだ」
コロニーの周りにいくつもの影が映る。
「な、なんだこれは?」「鬼哭鮫の群れだと!?」
それはコロニーを覆いつくすかの如く、凄まじい数の鬼哭鮫の群れであった。
「こいつらは穢れが無いところは苦手でな。支配が難しくなっちまうもんだから、浄化灯の無効化が必要だった」
イゴルの足元の地面が揺れる。
「そしてこいつは特に、穢れが無いところには絶対に行かない」
ボゴアッ!
地面から大きな鋏が覗く。
ボゴボゴゴ
姿を現したのは巨大な蟹だった。
「お、鬼背負い……」
絶望的な状況に呆然とするエルネスト達。
そこへバチーノが姿を現すと、ロドルフに向かって言った。
「ロドルフ様、兵を引いてください」
「バチーノ貴様、何をした」
「浄化灯を停止させました」
「何故だ、何故貴様が裏切る」
「奴らの軍は強大です。抵抗すれば無駄に命が失われるだけ。イゴルは抵抗しなければ無駄な殺しはしないと約束してくれました。ですが貴方は戦おうとするでしょう。ですから抵抗が無駄だと分かる形を作ったのです」
「バチーノ……愚かな……」
イゴルが鬼背負いの上からバチーノを見下ろして言う。
「ご苦労だったなあ、バチーノ」
「イゴル、約束は果たした。今度はそちらが約束を守る番だ」
「何の話だ?」
「……! 貴様!」
「ヴハハハ! 皆殺しだあ!」




