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異世界における他殺死ガイド27

 

 珊瑚や海星が彩る岩が並ぶ海底。岩の間、いくつもの大きな球体が重なり合っている。


 重なり合った球体の内、最も大きな球体の中、体に海豚のような特徴を持つ水棲亜人の男性が椅子に座っている。


「アウロラはまだ見つからんのか?」


 男性の前に立つ、同じく水棲亜人の男性が頭を下げたまま答える。


「部下に探させていますが、未だに連絡はありません」


「アウロラよ、一体どこへいってしまったのだ。もうお前の顔を見ることは出来ないというのか……」


「ロドルフ様、お嬢様はきっと生きています。希望を捨ててはいけません」


「バチーノ……。そうだな、希望を捨ててはならぬ、引き続き捜索を頼む」


「わかりました」


 バチーノと呼ばれた男が球体に空いた穴から外へ出ていく。


「アウロラ、無事でいてくれ。そしてまた、おかしなテンションで笑顔を見せておくれ……」


 ロドルフが球体に空いた穴から外を眺めると、小魚の群れが移動しているのが見えた。他の球体を見れば中には水棲亜人達が暮らしている。ここは水棲亜人達のコロニーであった。


 上を見れば大きな緑色の立方体が光り、コロニー全体を照らしている。内部の魔石から照射された光は水を浄化し、穢れた水を寄せ付けない。緑色の立方体は魔物除けの役割も果たしていた。







 バチーノは部下にアウロラ捜索命令を出した後、球体の中で石の板に書かれた文字を読んでいた。


 球体に空いた穴から蛸の触手が覗く。ヌルリと中に入ってきたのは赤と紫の禍々しい肌の色をした蛸のような特徴を持った水棲亜人の女性であった。


「アハハ、捜索なんて無駄なのに、まだ続けているのね」


 バチーノは石板から目を離さない。


「ラチェル、ここに来て良いとは言っていない。すぐに出ていけ」


「大丈夫よ、誰にも見られてないわ。ほらこうして」


 ラチェルの体の色が変わり、球体の壁の色となる。そうして壁に張り付けば、多少違和感はあるものの、ただの壁にしか見えなくなった。


 バチーノは石板から目を離し、壁に向かって言う。


「とにかく二度とここへは来るんじゃない。コロニーの掌握はまだ済んでいない。また詰まらないところでボロを出すわけにはいかないだろう」


「フフ、長の娘も運が無いわね。たまたまあんたとイゴルの密会の現場に居合わせてしまうなんて」


「……」


「あの娘、あんな辺鄙な場所で何をやっていたのかしらね。家で大人しくしていれば、魔物の餌になることもなかったでしょうに」


「……昔からやや奇行の目立つ方だった」


「そうなの」


「要件はなんだ」


「せっかちね。コロニーの西に、鬼哭鮫の群れを用意したわ」


「わかった。もう戻れ。誰にも見つからぬように」


「エビの一匹でも出しなさいよ。まったく」


 ヌルリ


 ラチェルは擬態したまま球体から出ていった。


「もう少しで浄化灯を無効化する準備が整う。お許しください、長……」


 バチーノは石板に目を戻した。








 水棲亜人達のコロニーから遠く離れた海底谷。槍を持ち、武装した水棲亜人達が何かを探している。


「隊長もう戻りましょう。アウロラさんの捜索はバチーノ様の部下達が続けてくれています。私たちはコロニーの守備をせねば」


「お前たちは戻れ。私はもう少し探してみる」


 隊長と呼ばれた男の額には角があり、両手の肘の先は突き出ており、鋸のようにギザギザになっていた。鋸鮫の特徴を持つ水棲亜人である。


「しかし隊長、最近の魔物の動きは不穏過ぎます。アウロラさんのことが心配だというのはわかりますが、今この時にコロニーが襲われてしまうかもしれない。そこにあなたが居なければどうなるか」


「……わかった」


 水棲亜人達がコロニーに戻っていく。


「……! 待て!」


「隊長?」


「この声は……間違いない、アウロラ様だ」


 水棲亜人達の隊長はコロニーに戻ろうとしていた体を反転させ、海底谷へと潜っていく。他の水棲亜人もそれに続いた。







 水棲亜人の女性が海底谷の底で動き回り、何かを呼んでいる。


武零怒ブレイド! どこだ武零怒ブレイド!」


 そこへ水棲亜人達が泳ぎ着き、隊長が女性に向かって叫んだ。


「アウロラ様!」


 女性が振り返る。


「ああん? なんだ、エルネストか」


「ご無事だったのですね。いったい今までどこに?」


「色々あったんだよ、んなことより武零怒を探せ」


「武零怒とは?」


「俺様の愛玩動物だ」


 エルネストはため息をついた。泡が上に昇っていく。


「また金星蟹の幼生でも捕まえたのですか? まさかそのために行方不明に?」


「ちげーよ、金星蟹じゃねーよ。兇亀だよ、兇亀の武零怒だ」


「またまたご冗談を。さあ、コロニーに戻りましょう」


「あ、信じてねえな? 俺様が呼ぶと来るんだよ。おーい、武零怒ー!!」


「いいから行きましょう。長が心配しておいでです。失礼」


 エルネストがアウロラのお腹を捕まえて抱えた。


「あ、離せエロネスト! 俺様が居なくなったら武零怒が寂しがるだろうが!」


 アウロラがポカポカとエルネストの背中を叩く。


「長はもっと寂しがっておいでです。寿命が縮まれたらどうするのです」


「うぐ……、わかった」


 アウロラが大人しくなり、エルネスト達はコロニーへと戻ろうとした。


 ドス!


 エルネスト達の近くの地面に槍が刺さる。


「何!? 敵か!?」


 エルネスト達が上を見るとそこには手綱を付けた小鬼鮫に跨る水棲亜人の姿があった。その亜人達の頭には渦を巻いた大きな貝が付いている。アンモナイトの特徴を持つ水棲亜人である。


 アウロラが叫ぶ。


「何だこいつら!?」


 アンモナイトが手に持った槍をエルネスト達に向け、触手で隠れた口の中から声を出す。


「グロロロ、その女を置いていケ」


「できぬ相談だ」


 エルネストがアウロラを抱えたまま槍を構える。


「グオロロロロ!」


 アンモナイトが頭を振り回して叫ぶ。すると小鬼鮫にのったアンモナイトが集まってくる。


「殺セ!」


 アンモナイト達がエルネスト達へ襲い掛かった。


 ガキン ガギギ!


 エルネストの部下達が応戦する。


「エルネスト様! アウロラ様をコロニーへ!ここは我々が引き受けます!」


「頼んだぞお前達!」


 エルネストがアウロラを抱えたまま海底谷の上へ向かって泳ぎ出した。エルネストの背中からアウロラが叫ぶ。


「エルネスト! 俺様にも槍を寄越せ!」


「敵の正体が知れません! 一度コロニーへ戻って部隊を編成せねば!」


 エルネストのヒレが光る。


 バシュオオオ!


 凄まじい速度でエルネストの体が上昇していく。


「喋ると舌を噛みますよ!」


「おひょい!」(遅い!)


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