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異世界における他殺死ガイド25

 

 ゴポッ


 俺の鼻から泡が出て、上の方へと昇っていく。それを目で追えば上から指す光が散乱し、青くなっているのが見える。下を見れば何が潜むのかわからない暗闇だけがある。


 海中である。


 俺は小さい頃、暗くて見えないところに大きな何かが潜んでいるのではないかと想像してしまい、海でも川でも暗いところがあると入っていくことができなかった。この恐怖を例えるならばマリオ64のウツボだろうか。


 つまり俺は今、恐怖している。下に広がる暗闇が怖いのだ。


 海洋恐怖症と言うのか、その暗闇から巨大生物など出て来ようものなら卒倒する自信がある。


 そんなことを考えていると俺の下にある暗闇から縦長の顔が覗いた。


「ゴ、ゴボアアア!」


「!?」


 シュッ!


 驚いて思わず声を上げたら相手の方が驚いて逃げていった。マンボウか何かだったろうか? でかかった。


 マンボウなど、別に凶悪な顔をしているというわけでもないのに、むしろ眠そうな目のボケっとした顔をしているというのに、同じ水中に居て、でかいというだけで言い知れない恐怖が襲ってくる。


 そのマンボウはどうも俺から危険を感じて逃げていった風である。そうだった。今は俺こそが巨大生物なのであった。


 現在の俺の状況を確認する。


 俺はザトーから鰐に乗り移った後、貨物船に纏わりついた烏賊を引き剥がしにかかった。だが烏賊に返り討ちにされ、あっけなく死んだ俺は◆烏賊に乗り移った。その後船の上のジオが心配になり、戻ってみたら今度は船を狙ってでかい亀とでかい海蛇が出てきた。その二匹とくんずほぐれつしてる間に船はどこかへ行き、下からでかい口が俺達三匹を飲み込んだ。烏賊だった俺は死に、◆今度はでかい口の持ち主に乗り移った。そしたら飲み込まれて死んだかと思った亀が生きていて、甲羅から鋭い刃を出して回転し、俺の腹を掻っ捌いて出てきた。◆


 そんなわけで俺は今でかい亀だ。


 亀になった俺は暫く貨物船を捜して泳ぎまわった。だが貨物船を見つけることはできなかった。ジオが船員に見つかっていかがわしい目にでも合わされていないか心配だ。


 船の行先はなんという町だったか。どっちへ進めばその町に辿り着けるのかも分からない。今はジオの無事を祈るばかりである。


 それにしても泳ぎ回ったせいか腹が減った。餓死は俺の能力の天敵だ。空腹でいてはいけない。俺は食料の確保に取り掛かった。



 気配察知を海中で使ってみた。どうやら問題なく使えるようで、下の暗闇に向けて使ってみれば魚達が何匹も泳いでいるのがわかる。


 なんだ、こうすれば暗闇からの恐怖も無くなるじゃないか。そうだ、暗闇には何も居ないのだ。怖がることは無い。


 ……いや居る。俺よりでかい生物がウヨウヨと。


 鯨やら鮫やらの見知った形をした生物はまだ良い。球体に八本足のついた謎生物や、人間と同じような手を持った上半身だけの巨人のような生物や、どんな生態なのかまったく分からないただのでかい幕のような生物やら。


 食料の確保、できるだろうか……。




 ***




 海底に見つけた洞窟の中、俺は捕まえた魚をパクついている。慣れれば海底も住みやすいところである。


 この世界の海底は確かに巨大生物がウヨウヨしている恐ろしいところだが、俺が乗り移った亀が中々強い存在だったようで、見るからにヤバそうなのに近づかないようにすれば特に問題なく食料は手に入った。


 メシメシ パリッミキッ


 魚の生食である。抵抗はあったがこれも慣れれば美味い。このまま海底で暮らすというのもいいかもしれない。


 いや待て、俺の能力の天敵には老衰もある。死ぬ寸前の老体に乗り移っていたらまずい。亀は長生きというが、この体は後何年生きるだろう?現状体調は特に悪くないが、今俺は何歳位なのだろうか?


 そんなことを考えながら洞窟入り口から周りを見回す。大き目の生物は居ない。俺がこの洞窟に住み着いたことで、大半が逃げ出してしまったようだ。


 魚は平らげてしまった。まだ足りない。腹を満たせる体積を持った生物を見つけるには洞窟からやや遠出する必要がある。


 ……?


 何か聞こえた。悲鳴のような高い音が。海底で悲鳴とか、聞くものだろうか。


 気配察知を広げてみれば、小さい魚を追っている鯱っぽい魔物が見えた。小さい魚と表現したが、俺がでかいからサイズの間隔が狂っている。追っている魚もそれなりにでかいのだろうと思う。


 鯱は獲物に追いつき、体当たりしたかと思うと少し離れ、獲物を自由にしてやり、また追いついて体当たりした。


 鯱のような頭の良い生物は弱者をいたぶって遊ぶことがあるらしい。これもそれなのだろうか?


 自然界は残酷だというが、そこには純粋さがあり、純粋であるからこそ残酷さを受け入れられる。しかし、これはどうだろう。果たして純粋と言えるだろうか?勿論、鯱の考えることなどわからないので、何か理由があっていたぶっているのかもしれない。


 ……んん?


 追われている魚を見てみたら、なんだか人の形に見える。海には水棲生物の特徴を持った亜人達が住んでいると聞いた事がある。あれがそうなのだろうか?


 とりあえず可哀想で見ていられないので、俺は鯱を追い払ってやることにした。


 ドッ!


 鯱が亜人らしき魚に体当たりする。


「キュウ!」


 当たりどころが悪かったのか、亜人は気絶したようだ。


「ガアア!」


「!?」


 ズバババ!


 俺が威嚇すると、鯱はあっという間にどこかへ行ってしまった。気絶している亜人を見ると出血している。このままここに放置したら鮫の餌であろう。仕方が無いので洞窟に運ぶことにした。





 洞窟に着き、俺は頭から亜人を降ろした。


 亜人の体を観察する。


 体の色は青、白、黒の3色。四肢があり、人の形をしているが、その肌はイルカのような質感。触ったらキュッキュッて音がなりそうだ。


 頭には人間のように髪の毛があるように見えるが、毛ではなくそういう形の頭で、耳の上に垂らした髪のようなものも、黒いヒレであるようだ。


 顔を見ればちゃんと人間の顔をしている。やや丸い印象はあるが、非常に整った顔で美形である。


 胸を見れば人間の女性と同じ乳房の部分にふくらみがあり、女性だと思われる。乳房の下、肋骨の部分に横長の穴が並んでいる。ここからエラ呼吸みたいに呼吸しているのだろうか?



 亜人の女性はまだ起きない。さらに観察すると脚に傷がある。少量だが出血があるようだ。


 脚や腕は水の抵抗を減らすためか、流線型であり、乳房からお腹、背中から脚と見ていくと滑らかな曲線が美しい。


 明らかに陸で暮らす人間とは違う体をしているというのに、その体は扇情的であった。


 特に乳房と腰のあたりが……。


 美味そう。


 いや、下品な言い方をしたわけではなく、率直に、美味しそう。


 ……いやいやいや、いや?


 あっ! この血か。亜人の女性の出血した血が俺の味覚受容体を刺激したようだ。俺は今腹も減っているし、美味しそうに見えたって、仕方ない。……かな?


 ※カニバリズム ダメ、絶対。


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