異世界における他殺死ガイド24
「自分にかけられた回復魔法の永続化、俺が召喚された時に授かった能力だ。多分ね」
ジークは首をさする。
「首を切っても死なないのは召喚時に融合した相手の生命力だな」
カツッ
ジークは輪っかを蹴り飛ばす。
「痛みも、召喚された後の苦しみでどこか頭の中のネジが飛んだらしい。ほとんど感じない」
ジークは剣をクロマに向けて言う。
「さあ、俺を拘束する手段は無くなったぞ。どうする?」
クロマが騎士たちに命ずる。
「奴を捕らえろ!」
一斉に部屋内の騎士たちが剣を抜き、ジークへと襲い掛かる。
ミヂ ブシャ!
ジークの手足から虫の手脚が飛び出したかと思えばジークの姿が消える。
シャカカカ!
「どこへ行った!」「消えたぞ!」「上だ!」
騎士達が上を見れば、荘厳な王の間の天井に描かれた美しい絵、そこにジークが張り付いていた。虫の手脚を天井に引っ掛けている。さながらそれは4Kのテレビ画面に張り付いたGである。
「俺を捕らえられると思うなよ」
バシュ!
ジークの姿が消える。
ドガガ!
「ぐわあ!」「ぬわーっ!」
数人の騎士が吹き飛ぶ。吹き飛んだ跡には頭から血を流したジークが居た。Gダッシュによる凄まじい速度の体当たりだ。
「ははは!」
その顔には狂気が見える。想像を絶する痛みと苦しみが、この男に狂気を植え付けたのだ。
クロマがなにやら呪文を唱え出す。
「クロマ! 一発殴らせろ!」
ジークがクロマに向けて構えた。クロマが詠唱を終えると、クロマの周りの地面が歪みだす。
「うらあああ!」
ジークがクロマに向けて突っ込んだ。
ビタア!
「んなぁ!?」
ジークの体はクロマの体に届く前に床に貼り付けられた。その姿はまさにGホイホイにかかったGであった。
「こんなこともあろうかと、地面を粘着質にする魔法を開発していたのだ」
「なんでそんなピンポイントに俺の弱点の魔法を!?」
「命令に従わないのであれば用は無い。ここで死ぬがいい」
クロマがジークに手を向ける。
ゴオアッ!
クロマの手から炎が噴き出し、ジークを包む。
「ぐああ! 高熱もダメだあああ!」
ジークの体が燃えていく。
「嫌ぁ! ジーク様! コマキ、お願い!」「承知しました!」
サーリアの近くに居たメイドがジークに手を向けて何やら唱える。
ブシャアア
メイドの手から水が噴き出し、ジークの体の炎を鎮火していく。
ブスブスブス
「ジーク様!」
サーリアがジークへと駆け寄ろうとするが、上級騎士に止められる。金色の綺麗な髪が揺れる。上級騎士は女性であった。
「ジュレス離して!」
「姫! 危険です!」
ジークの体が光り出す。
サアアアア
その光はサーリアの再生の光と同じ。黒焦げになったジークの体が再生していく。
再生が終わった時、そこには服を失った勇者の姿があった。そして当然、
勇者はフルチンであった。
勇者はフルチンであったのだ。
※勇者のフルチン。なんだか「お尻を出した子一等賞」みたいな印象を受けますね。
「「きゃああ!」」
サーリア、上級騎士ジュレス、メイドのコマキは手で目を覆った。だが指の間から見ていた。勇者のフルチンを。
指の間から勇者のフルチンを見ているジュレスとコマキを見たサーリアは叫んだ。
「み、見てはダメです!」
サーリアの心を独占欲が支配していた。尊い者の特別でありたいと思うのは誰でも同じである。サーリアは思ったのだ。勇者のフルチンをまじまじと見たのは、私だけであったのに、と。
「クロマアアア!」
ジークの目に狂気が浮かぶ。
ミヂ! バシャ!
ジークの背中から羽が生える。茶色く透けた、Gの羽だ。
バサバサバサ!
ジークの体が空中へと浮き上がる。荘厳な王の間に、狂気のフルチンが舞う。
バサーッ!
ジークがクロマに向けて飛びかかった。さながらそれはGのカミカゼアタックであった。
勇者のフルチンカミカゼアタックである。 ※もう何もかもを投げ出したような攻撃名ですね。
ドガア!
「ぐわあああ!」
クロマが吹き飛ばされて壁にぶつかり、動かなくなった。
「ハア、ハア、ざまみろだ……」
ジークは肩で息をしている。
「ジーク様! 大丈夫ですか!」
ジュレスが手で目を覆ったため、手を離されて自由になったサーリアがジークへと駆け寄る。
「サーリア、また助けてくれたんだね。ありがとう」
「ジーク様……」
眉目秀麗な男子であるジークの綺麗な目で見つめられ、サーリアは顔を赤くした。
「ジーク様、私達はあなたに酷いことをしてしまいました。償えるものなら償います。何でもします。ですからどうか、私達を救ってはいただけないでしょうか?」
「いいよ」
「え?」
「いいよ。サーリアの頼み事ならなんでも聞いちゃう」
「あ、ありがとうございます」
顔を赤くし、俯いたサーリアの目線は勇者の股間に固定された。
「……終わったか?」
グロツ王が小さく呟いた。
「そのようですな」
宰相の男が返事をする。
「ゴホン。ジークよ、魔王の存在の調査を命ずる。存在が確認できたならそれを討伐せよ。これはサーリアの願いである」
ジークはグロツ王の方を見た後、サーリアに尋ねる。
「本当にサーリアの願いか?」
「はい、ジーク様、お願い致します」
「わかったよサーリア。魔王討伐、確かに承った。任せてくれ」
「……ジークよ、サーリアも年頃の娘だ。余り強い刺激を与えんでやってくれ」
「……? 何が?」
狂気は勇者から羞恥心を奪い去っていったのだ。
そこへジュレスが近づいてくる。手には布を持っている。
「いいから、これを羽織れ」
ジュレスは顔を赤くしたまま布をジークへと手渡す。
「ああ、ありがとう。あんたもいい人みたいだな」
「ふん」
こうして、勇者は魔王討伐の命を受け、旅立つこととなったのだ。




