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異世界における他殺死ガイド21

 

 ジオのお尻に小さな尻尾がピコピコしている。蠱惑するなと言うのに。


 あれは熊の尻尾か?


 熊のような特徴を持つガブロン種。ガブロン種のお尻には熊のような尻尾がある。また、頭にも熊のような小さく丸い耳のようなものがある。ジオはガブロン種(亜人)とエスポラ種(人間)の混血なのだろう。


 ジオの頭には丸い耳は無い。亜人と人間のクオーターは亜人としての特徴が出るのが遅い、かつ部分的に特徴が出たりして、全ての特徴が出ないこともある。


 ジオは今のところ頭の特徴は出ず、尻尾の特徴だけ出た状態のようだ。


 しかし、熊か。


 熊は犬より嗅覚が鋭いと聞いた事がある。俺に追いつけたのは匂いを辿ったか。



「ぐ……」


 ザトーの記憶が流れ込む。



 ジオの父はザトーの部下だった。ザトーはその部下の妻のことも知っている。家にお呼ばれして食事したこともある。理想の上司か。


 ある時、不幸な事故でその部下が死亡した。ザトーは部下の妻の相談に乗り、ジオを預かった。


 ジオの父母二人とも亜人ではない。


 つまり、ジオはザトーの部下の子ではない。


 ジオの尻尾は、部下が妻に裏切られていたという証である。



「……」


 ジオはお尻の尻尾をピコピコさせながら(勝手に動くのか?)こちらを見ている。蠱惑するなと言うのに。



 違うんだといってやりたいが、本当の理由を言うわけにはいかない。


「捨ててなどいない。俺から教えることが無くなっただけだ」


「嘘だ……。俺があんたの部下の子じゃなかったから!」


「嘘じゃない。ゾースからは俺より学ぶところが多かっただろう」


 ザトーはジオをただ放置したわけではない。別のギルド員にジオの指導をお願いしていた。


「ゾースさん、あの人確かに強いけど、潜入時に必要だからって俺に女装ばっかりさせるんだ」


 人員の選択を誤っとるじゃないか。


 いや間違ってないのか。長所を伸ばすのは大事なことだ。将来熊耳の特徴が出て女装したジオを想像、してはならない。



「俺はあんたに」



 ガン!



 船が揺れた。



 ギィィィ



 船が傾く。


「うわっ!?」「む!?」


 二人とも倒れこみ、俺がジオに覆いかぶさる状態になった。倒れてきた貨物からジオを守る。


「大丈夫か?」


「は、離れろ!」


 ジオはジタバタしている。


 外が騒がしい、何かあったようだ。


「ここに居ろ」


 ジオは船に忍び込んだことが船員達にバレたらおそらく樽に入れられてドボンだ。


 状況確認のため、俺は部屋を出て甲板に行く。



「うわあああ!」「貨物を守れ!」「いいから下がってろ!」



 船員たちは混乱しているようだ。おそらく船が魔物に襲われたのだろう。



「ギシャアアア!」


 ドガァ!


 夜の海に浮かぶ船の上、一人の男が魔物と戦っている。


 魔物は大海蛇、鳥の嘴のようにとがった口の中には鋭い牙が並ぶ。ヒレがあり、そのヒレは油膜のため虹色で、ヒレの端は棘棘している。全長はこの船と同じくらいか。でかい。


 男の獲物は槍のようだ。その槍は黒く、捻じれた角のような形状をしている。


「シャアア!」


 ガッ!


 大海蛇の噛みつきを男は槍でいなす。


「おらあ!」


 この声はダルトか。


 ドシュ!


 ダルトが槍で大海蛇を突きさす。が、浅い。


「フシュルル」


 大海蛇が様子見に入った。



 その隙にダルトの近くへ駆け寄る。


「ダルト、助けが欲しいか?」


「ザトーか、これは俺の仕事だ。邪魔をするな、と言いたいところだが、頼む」


 ダルトはこの船に護衛として雇われていたようだ。



 ドゴッ!ドドォン!



 大海蛇が体を船の上にのたくらせ、俺達を潰そうとしてくる。


 ザシュ!


 鉄の爪で大海蛇の体を切り裂こうとするが、皮膚が固く、浅い傷しかつけられない。


 どこか弱点を狙う必要がありそうだ。


「うわぁっ!」


 ジオが転がってくる。


「ジオ! 何故出てきた! 下がれ!」


「どこへ下がれって言うんだ。こいつを倒さなきゃ船が危ないんだから、俺も戦う」


 夜の船の上、ジオを守りながら大海蛇と戦闘か。


「ザトー! あいつの注意を引いてくれ!」


 ダルトが槍を右手に持って後ろに引き、左手を大海蛇の体に向けている。ガトチュゼロスタイルみたいな構えだ。


 コォォォォ


 ダルトの体から蒸気のようなものが立ち上る。溜め技か。


「任せろ」


 鉄爪狼の鉄爪をすらものともしない、ザトーの部下守り術を見せてやる。


「シャアアア!」


 ダルトを狙った大海蛇の噛みつきだ。


 ギャリイン!


 鉄の爪で弾く。



 大海蛇のヒレが迫る。


 ギャリイン!


 鉄の爪で弾く。



「す、すげえ……」


 ジオが見惚れている。



「ザトー! 十分だ!」


 ダルトの呼びかけと同時にダルトの前から退避する。


「くらえ! 鉄貫!」


 ダルトが右手の槍を突き出す。


 ズシャア!


 大海蛇の体に風穴が空いた。と同時に衝撃波が発生し、少し風に押された。凄い威力だ。


「ジャアアァァァ……」


 大海蛇が倒れていく。


「やったな、ザトー。」


 ダルトと腕を突き合わせ、勝利の喜びを分かち合った。 ※デレ


「むぅ……」


 ジオがジトっとした目で見てきた。 ※ジェラ




「お、終わった、か?」


 船長が甲板に出てきた。


 まずい、ジオを隠さなくては。



 その時、大海蛇の体が動いた。


「まだ動くのか!」


 ダルトが槍を構える。


 だが大海蛇の様子がおかしい。口から血を流し、まるで生気が感じられないのに、首をブンブンと振っている。まるで、何かに体を揺すられているような……。


 ゴドン!


 再び船が揺れた。


 ズルッ! ズルルッ!


 大海蛇の体が海へ引きずり込まれていく。


 何かが大海蛇の体を食っている。




 バシャア! バシャア! バシャア!


 いくつも水柱が立ったかと思うと、水柱の中から白い触手が姿を現した。


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