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異世界における他殺死ガイド20

 

 サア……サア……


 波の音が聞こえる。


 俺は無事にポルトに着いた。御者に礼を言い、馬車を降りる。


「じゃあな、ザトー。また会えるといいな」


「ああ」


 ダルトと別れた。再開を願われたが、もう会うことはあるまい。ザトーとしては。




 町を見回すと果物や魚を売っている店がある。旨そうだが船探しが優先である。


 船着き場に船がいくつもつけられていて、肩に大きな荷物を持った男が船にかけられた足場を渡っていく。雑に置かれた貨物の近くで商人らしき男が船乗りと何か話している。


 活気のある港町のようだ。




 別の大陸まで行く船がないか探したところ、意外と早く見つかった。


 船長の男が言う。


「いいぜ、乗せてやる。金さえ払えばな」


 金はある。ザトーの金だが、使わせてもらおう。




 船長の船はポルトを出た後、こことは別の大陸にあるカルトアという港町を経由し、コーリニという町を目指すのだという。


 俺としては別の大陸に行けさえすればそれで良い。一刻も早くジオから逃れたいのだ。


 明日の分の貨物を運び入れたら出発だというので、俺は宿に泊まることにした。




 次の日、約束の時間に船に向かう。


 陸から船を眺める。大きい船だ。しかし、船の上は貨物でいっぱいでマストが無い。これは帆船ではなく、魔石から推進力を得る船のようだ。


 周りを見れば帆のある船もオールで漕ぐような船もある。推進力の得方は様々だ。




 船に次々と貨物が載せられている。


 大きな木箱を抱えた二人がこちらに向かって歩いてきた。


 前を持つ大男が言う。


「全く重てえな、何が入ってんだァ?」


 後ろを持つ男が上司であるようで、大男に怒鳴る。


「つべこべ言わずにつべこべぇ!」



 ドカ!


 木箱は船へと運ばれ、貨物の中に埋もれた。





 足場を渡り、船に乗り込み、船長に挨拶する。


「おー、あんたか。おい、案内してやれ」


「了解」


 船員に船を案内される。貨物を置いておく部屋の一つが俺の居ても良い場所のようだ。既にいくつか貨物が置いてある。快適とは言い難いが、贅沢は言うまい。




 ザザ……


 出発の時間だ。船が陸を離れていく。


 船員に船の動力について聞いたら、やはり魔石を推進力としているようだった。この船に使われている魔石は魔力を与えると水流を発生させるのだそうだ。


 船の後ろに歩いていき、下を見るとなんだかギュルギュルと渦が巻いている。なにがどう推進力になっているのかわからない。まあ、なんでもよい。進むなら。




 なんとなく甲板を歩く。水平線が見える。


「ん? なんだ、あんたもこの船に乗ったのか」


 聞いた事のある声が聞こえた。


「……早い再開だな」


 ダルトだった。




 ***




 もう日が暮れようとしている。


 ダルトに誘われ、船員たちと一緒に食事を摂った。コミュ強め。俺は別に、誘われて嬉しくなんかないんだからな。 ※ツン



 俺は貨物部屋で寝る準備をしていた。


 ふと、妙な音がすることに気付く。スウ、スウと、寝息のような。



 嫌な予感がする。俺は気配察知の精度を上げ、外に出て周りを探る。


 見つけた。船に乗り込む前、男二人が運び込んでいた木箱だ。



 恐る恐る木箱に近づき、蓋を開けてみる。


 ガコ


「スウ……スウ……」


 木箱の中でジオが寝ていた。


 俺は片手を額に当て、天を仰いだ。



 何故気配察知にかからなかった?そういえばスクラの森でも殺気で気づいた。気配を消すのが上手いのか。


 ジオは既に追いついていた。船の上なら俺が逃げられないと考えたのだろう。気配を消して近づき、俺が乗る船を確認し、木箱に入って船に潜入した。だが眠ってしまったために気配がバレバレになったと。ドジっ子か。


 どうする?どうすればいい?ここはもう遥か海の上だ。陸地は遠く、泳いで辿り着くのは無理だろう。海に放り出すことはできない。


 俺は周りを見回す。人は居ないようだ。


 止むを得ない。


 シュルル


 俺は魔力の糸を出すと、まずはジオの口を塞いだ。そして体にもゆっくりと糸を巻き付かせて拘束する。


 ジオは俺に会うと必ず拘束されている気がする。癖にならないか心配だ。


「むぐむぐ」


 それでも起きないジオ。


 狸寝入りではないかと頬を突いてみた。


 ツンツン


「んん……」


 起きない。暗黒面が溢れ出す前に止めよう。


 ギシッ


 箱から担ぎ出し、貨物部屋へと運ぶ。誰にも見られないように慎重に。



「ング!? ングムっ! ンンー!?」



 貨物部屋まであと少しというところでジオが起きた。急いで貨物部屋に飛び込む。


「ンン!」


 暴れるジオを抑えながら手頃な貨物を探し、椅子代わりにジオを座らせた。




 ジオは暴れるのを止め、こちらを睨んでいる。何か言いたそうだ。


「口の拘束を外すぞ、あまりうるさくするなよ」


 ジオの口から糸を取ってやる。


「……」


 折角口の拘束を解いたのに、ジオは何も言わない。こちらを睨んだままである。


 素直に疑問をぶつけてみる。


「……何故、眠っていた?」


 お前はドジっ子なのかと。


「……し、仕方ないだろ、夜通し走って疲れたんだ」


 ジオは目をそらした。


 夜通し俺を追って走っていたのか。一体どうやって俺の居場所を察知している?



「次は無いと言ったぞ」


 ジオの目を見て言う。


「ふん、ここは海の上だ、もう逃げられないぞ」


 逃げられなくて危ないのはお前だ。ここに野獣が居るのだ。



 グゥゥ



 腹の虫が鳴った。俺のではない。ジオの。


「……」


 ジオは顔を赤くして俯いた。止めろ。蠱惑するんじゃない。



 仕方が無い。俺は荷物から食い物を取り出そうとジオから目を離した。



 パラリ シュザ!



 ジオが自力で拘束を解き、ナイフで切りかかってくる。


 ギィン!


 俺はそれを見ずに鉄の爪で弾いた。


「くそ!」


 ギギィン!ギィン!


 繰り出されるナイフをはじき続ける。やがて


 ギャリイン!カッ!


 弾かれてジオの手を離れたナイフは壁に刺さった。


「ハア……ハア……」


 ジオは床に膝をつき、肩で息をしている。


「完全に虚を突いたはずだ、どうしてあんたに、届かない!」


 虚は突かれていない。ジオのことは見ている。俺の中のザトーが。



「どうして、俺を、捨てた……」


 ジオは目を見ずに聞いてくる。


「……」


 俺は答えない。



 ジオは立ち上がると後ろを向いた。


「あんたが、俺を捨てた理由はこれだろう?」


 ジオは上着を上げ、尻を見せた。


 え、いやそんな。バレてる? バレてたのこれ? ザトーさん?



 ジオの来ている服は、黒フードを除けば明るめの色で構成されている。


 男色系の、いや暖色系のシャツ。ぴちっとしたズボン、そのお尻、尾てい骨のあたりにポーチがある。


 綺麗なお尻のラインを見たいのに。邪魔だなあと思っていた。いや思っていない。



 ジオがポーチを除けると、そこには短く、丸く、黒い尻尾があった。


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