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異世界における他殺死ガイド16

 

 ザトーの暗黒面を知ってしまった俺は一刻も早くジオから逃げることにした。


 これ以上キラキラした記憶が解放されたら万が一ということもあろう。(何があるというのか)


 魔力の糸をジオの後ろから首に這わせる。


 その綺麗なうなじに糸が巻き付いていく様は色っぽい。おい。


 ギュッ!


 ジオの首に糸が巻き付いた。もう片方を建物に絡ませる。


「うっ!? これは!」


 ジオは首に巻き付いた糸をナイフで切ろうとするが、魔力の糸は頑丈である。暫くは保つだろう。その隙に俺はジオの反対方向へと走り出す。


「ザトー! あんたは俺が、俺が殺す!」


 ジオに殺されるわけにはいかない。俺は振り返らずに路地裏の壁を飛び越え、逃走した。




 ***




 ザッザッザッ


 俺は今、スクラの森の中である。


 ドーツの町で購入した地図に記された瘴気だまりの中心に向かって歩いている。



 それにしてもザトーめ、俺になんという記憶を植え付けてくれた。


 目覚めたらどうする、目覚めたらどーする!


 ザトーがジオを遠ざけた理由は非常に良くわかる。ジオは無自覚に蠱惑的である。芽生えてしまった感情を、知られたくなかったのだ。ザトーは自分の中の暗黒面が暴走する前に、ジオを安全圏へと逃がした。



 戦っていて思ったが、あの引き締まった流線型の尻が切れ良く動くさまはもはや美の暴力である。


 ……いやいや違う違う。ザトーめ! 許さんぞ!






 スクラの森に入ってから大分歩いた。が、魔物が居ない。綿鼠ですら、一体も居ない。


 これはどういうことだろうか。


 瘴気だまりが消滅すれば中心にいた魔物たちが外側に出てくるので、いつもより魔物が多いと聞いた。


 いや、そもそも瘴気だまりが消滅した時にそこへ向かうなど、噂話が正しければ自殺行為に他ならないのだから、実行したことなどない。これが初めてである。だからこれが通常なのか異常なのかもわからない。魔物達はとっとと別の瘴気だまりへと移ってしまい、以外と遭遇しないものなのかもしれない。


 俺はこのまま瘴気だまりへと向かってみることにした。まだ残っている魔物に出会えればという希望と好奇心である。




 ***




 さらに暫く歩いた俺は魔物を発見した。


 砲亀という、甲羅に開いた穴から体に取り込んだ石などを射出してくる危険な魔物である。


 その砲亀が氷漬けになって死んでいる。氷を扱う魔物と争いにでもなったのだろうか?


 その先に進むと、また氷漬けの魔物の死体。さらに進むと氷漬けの魔物の死体が大量に見つかった。まるで魔物の標本が立ち並ぶかのような光景である。


 氷漬けになった魔物の死体には、鉄爪狼の死体もあった。一体どんな強力な魔物がこれをしたというのか。


 鉄爪狼の氷漬けに触れてみる。冷たい。



 ……殺気を感じる。



 頭を右にずらす。



 ガッ!



 さっきまで俺の頭があった個所の氷にナイフが刺さっている。


 どうやって追いついたのか。何か特殊な術でも持っているのか。



「ザトー!」



 上から回転しながらジオが襲い掛かってくる。避ける。



 ガガガッ!



 遠心力を利用した短剣がさっきまで俺の居た個所の氷を削る。ナイフが氷に食い込み、ジオの動きが止まる。



 俺はすぐに魔力の糸を展開し、ジオの手を氷に巻き付ける。


「うっ!」


 ジオのもう一方の手を片手で抑え、鉄の爪をジオの顎に沿わせる。


「ジオ、もう俺を追うのは止めろ」


 綺麗な顔だ。傷つけたくない。


「くっ、くそ!」


 ジオは拘束から逃れようと体を捩る。



 ……艶めかしい動きだ。


 止めろお!



 俺はそのままジオの両手足を糸で氷に巻き付けた。


 口も糸で塞ぐ。



「ンン! ンンー!」



 ……良い眺めだな。


 止めろお! ザトーのバカ!



 周囲に生きている魔物は居ないようだし、放置しても問題なさそうだ。魔力の糸を少し緩めておけば自力で脱出するだろう。


 鉄の爪をジオに向けて言う。


「次は無いぞ」


 次は拘束では済まないぞという警告である。(何がどう済まないというのか)


「ングー!」




 ***




 ジオを拘束した後、さらに歩くと気温が下がってきた。


 その前から氷だらけで気温は低かったが、もはや寒いレベルに気温が低い。


 瘴気だまりの中心までもう少しかというところである。


 目の前に木が密集している。他より明らかに木の密度が高い。瘴気だまりの影響だろうか?


 この奥に瘴気だまりの中心があるはずだ。瘴気だまりの中心には何があるのか?俺はそれを知らない。既に消滅してしまったようだが、何かしらの跡はあるだろう。


 それを見たい。俺は密集した木の中に足を踏み入れようとした。


 その瞬間――



 ピシ、ピシ、パキパキパキ



 密集した木が氷漬けになった。



 バキバキバキ!



 木はさらに凍り、鋭利な氷塊が突き出てくる。


「なんだ!?」


 俺は急いで飛びのき、後ろへと走る。



 ドドドシュ!



 氷塊はどんどん突き出してくる。


「うおおおお!」


 走る。氷塊はすぐ後ろに迫っている。


 ガッ!


 こけた。


 ゴロゴロゴロ


 ガツッ!


 暫く転がった後、岩に激突した。痛い。


 顔を上げると、氷塊は突き出し続け、こちらに迫ってくる。


 まずい。これが自然現象だった場合、乗り移り先が無い。死んでしまう。何者かが行使した攻撃であれば良いが、その場合、俺は何になってしまうのか?


 考えているうちに目の前に氷塊が突き出た。


 次は真下から突き出て俺の体を貫くだろう。



 ――。



 氷塊の突き出しが止まった。助かった……。





 周りを見れば一面氷漬けである。特に俺を狙った攻撃では無かったようだ。


 ジオを拘束した場所からはまだ距離がある。拘束から抜け出せていなかったとしても無事だろう。



 突き出た氷塊の隙間を通れば、瘴気だまりの中心に向かうことはできそうである。


 好奇心に突き動かされ、俺は歩き出した。


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