異世界における他殺死ガイド14
くっ、鎖骨二の腕ふとももに、膝裏だと!
ウルス、なんと言う男か。俺のフェチを的確に突いてくる。
だが、俺は別にアリエスの腋を見たいなんて思っていないぞ!
キキン!
ガギ!
「くぅ」
アリエスはウルスの上段を受け止めた。腕が上がったので、金属プレートが外れた方の白く綺麗な腋が露になっている。
\ワキだー!/
そそそ、素数だ、素数を数えるんだ。2,3,5,7……えーと? 素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。だがその素数達の傍らには必ず1が居るんだ。1は素数達の前ではこう言うんだ。1「お前は一人じゃない、俺が居るだろ?」素数「1さぁーん!」~ハーレム状態~ ※これでタグにハーレムって入れても問題無いですね。
はあ、はあ、落ち着いた。危なかった。
ウルスは余裕の表情でアリエスに語りかける。
「流石はアリエス、僕の剣を紙一重でよく避けますね」
しらじらしい! え、そうなの? アリエスが紙一重で避けてるの? どうなの?
ギィン!ヒュ!
アリエスはウルスの剣をはねのけ、剣を横に薙いでウルスを下がらせた。
「やはり兄上は強い。しかし、これで終わるつもりは無い」
アリエスの構えが中腰から低い構えに変わった。
「フゥゥ」
空気が変わる。アリエスが何かするつもりだ。
ヒィィィィィン…
空気の振動する音が聞こえる。
アリエスの周りに風が吹き始めた。魔力による推進力強化だろうか?
アリエスのボロボロになった服が風に煽られ、色々と見えてしまう。素数!(素敵!)
目を瞑り、アリエスが呟く。
「クロ、力を貸して」
承知した。頼まれたし、聞かないわけにはいかないだろう。
スルル…
魔力の糸を気づかれないようにウルスの足元へ這わせる。
「行きますよ兄上」
「おいで、アリエス」
ウルスが身構える。
グッ
「ん?」
ウルスの足が糸に触れ、一瞬の隙が生まれた。
ィィィィィ……ィイン
空気の振動音が揺らぐ。アリエスが消える。
シュ……キン!
アリエスがウルスを通り抜けた、と思った瞬間、ウルスの体は真っ二つ、にはならず吹っ飛んだ。車田飛びだ。
「ぐはあー!」
ウルスはドシャアと地面に落ち、動かなくなった。まずい。余計なことしたかもしれない。
「あ、兄上!?」
アリエスがウルスのもとへと駆け寄り、助け起こし、膝に寝かせた。
「強く、なったねアリエス……」
「兄上……どうして?」
「実はアリエスを狙っていたのは僕の母上だったんだ。これは母上のやったことの償いだよ」
「そ、そんな!」
だがウルスには特に出血の様子が無い。こいつ、今度はアリエスの膝枕が狙いか!
ウルスはアリエスの顔に手をやり、愛おしそうに撫でる。
「母上を許してやってく……れ」
ガクッ
アリエスの顔を撫でていた手が力を無くす。
「あ、兄上ー!」
ガバッ
ハグである。ウルスの顔にアリエスの胸が押し付けられている。
ああ、ウルス出血してた。鼻血出てた。クズ兄ぃー!
***
ドーツの町、宿屋。
なんとか一命を取り留めた体のウルスがベッドに寝かされている。
顔がつやつやしている気がする。
「ということで、もう大丈夫ですよアリエス。母上は今後一切アリエスに危害は加えません」
カトリーヌがアリエスの暗殺を企てていたことや、アリエスに危害を加えないという契約を結んだということをウルスは話した。
俺はそれを部屋の外で聞いている。
「私は愚かだ。兄上が私を殺そうとするわけがないのに」
黒ローブへの依頼書に押されていた印はウルスのものだった。やや権限の弱かったカトリーヌが、ウルスに別の書類へと押印させ、暗殺依頼へと換えたらしい。
そんなものを持っていたら依頼者がばれるじゃないか。黒ローブは馬鹿なのか、とか思ったのだが、大事な契約書だし、家持でなければ自分で保管しておくしかないし、この世界では普通なのだろうと思い直した。
「アリエス……」
「兄上、兄上のことを信じきれなかった私をどうか、許してほしい……」
潤んだ目でウルスを見つめるアリエス。可愛い。凄い。
ああこれはアリエスが悪い。ウルスが歪むのも納得である。
「許すも何も、世界で一番愛しているよ、アリエス」
ウルスはアリエスを抱きしめた。
***
俺がアリエスの傍にいる理由はなくなった。
ウルスが心配だが、俺が色眼鏡で見ていただけで、別に変なことはしていない。(本当に?)
アリエスと一緒にいたい気持ちはあるが、今はザトーである俺が「俺はクロだ」とか言いだしてもただの変人としか思われないであろう。
今後のアリエスの幸せを願いつつ去るのみである。
ウルスとアリエスはまだ宿屋の部屋で話し合っている。積もる話もあるだろう。邪魔してはいけない。
俺は今ウルスの警護兵のリーダーらしき男と話している。
「本当にウルス様の庇護下に入らなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫だ問題ない」
俺は暗殺者ギルドから見れば仲間を殺した裏切り者である。依頼者を裏切ったことはウルスによって帳消しとなったが、仲間殺しの罪は消えない。暗殺者ギルドから追っ手が差し向けられ、俺は消されるだろう。
ウルスはアリエスの危機を教えてくれた俺を庇護すると提案してくれたが、俺はそれを蹴った。面倒になるよりさっさと殺されたほうが良いという判断である。俺もこの能力に慣れたものだ。
「ではな」
俺は宿屋から出た。




