異世界における他殺死ガイド13
ドーツに着くと、俺は気配察知でアリエスの無事を確認した。アリエスはまだ宿屋に居た。部屋の中でジッとしている様子だ。
鉄爪狼に乗ってあれだけ早く走っても、刺客に追いつかれて殺されそうになったのだから、逃げても無駄だと絶望して自殺してたりしないか心配だったが、それは無かったようで安心した。
「ザトー、道案内をお願いできますか」
「承知した」
俺はアリエスがちゃんと安心するまではウルス達と同行するつもりである。ウルス達を宿屋へと案内した。
カランカラン
宿屋の扉を開けるとドアベルが鳴った。シロを膝に抱いた女将さんがこちらを見て言う。
「あらまあ、団体さんかしら?」
「はじめまして僕はウルスと申します。こちらに僕の妹のアリエスが宿泊していると伺ってやってきました」
「アリエスちゃんの? あらあ、お兄さんも美形なのねえ」
女将さんはすぐに俺達をアリエスの居る部屋まで案内してくれた。顧客情報の管理とか、色々ガバガバだが、こんなものだろう。
「ああそうだ、アリエスには僕が来たことを内緒にしてくれますか? 驚かせたいので」
「ええ、わかったわ」
コンコン
「アリエスちゃん、お知り合いの方が見えたようよ」
……。
部屋から返事はない。
気配察知ではアリエスはベッドに腰かけて目を瞑っている。
「寝ているのかしら? アリエスちゃん?」
女将さんがドアノブを回すと扉が開いた。施錠していなかったようだ。
キィ
扉が開く。
「アリエスちゃん?」
ウルスが部屋の中へと入り、アリエスに話しかけた。
「やあ、アリエス」
アリエスの目が開いた。上を向き、ウルスと目を合わせる。
「兄上、お久しぶりです」
アリエスの目からは何かの決意を感じる。
「ああ本当に、久しぶりだね」
ウルスは嬉しそうだ。
だがアリエスは悲愴な面持ちで言った。
「兄上自ら、私に引導を渡しに来られたのですね。毒に侵された私が何故助かったのか理由がわかりました」
「……」
ウルスは何も言わない。何故だ。
「兄上、私と決闘していただけませんか」
「決闘?」
「はい」
決闘とはお互い生命を賭して戦うことを指す。
「アリエスは剣の稽古の模擬戦で僕に勝てたことは一度も無いよね?」
「このまま刺客の手にかかって死ぬくらいなら、兄上の手にかかって死のうと思います」
アリエスの言葉を聞き、ウルスの顔が邪悪を感じる表情に変わった気がする。
「本気かい?」
「私もゴルト家の剣士です。決闘で敗れて死ぬなら本望です」
暫く見つめ会う二人。
「わかった。決闘を受けるよ」
「ありがとうございます」
なんだと。
***
俺達はドーツから少し離れ、見晴らしの良い場所へとやってきた。
ウルスとアリエスの決闘のためである。
どうしてこうなった。
ウルス、まさか本気でアリエスを殺すつもりではあるまいな……。
アリエスとウルスがお互いに剣を携え、十歩ほどの距離で向かい合っている。
警護兵のリーダーらしき男が決闘を仕切ることになったようだ。
「お二人とも、覚悟は良いですか?」
「いいよ」
「良い」
「では、始め!」
ウルスの真意をどうやって確認しようか考えているうちに決闘が始まってしまった。
二人は剣を構え、向かい合ったまま動かない。
このまま動かないまま決闘が終わるのではないかと思い始めた瞬間、アリエスが動いた。
ウルスへと上段から切りかかる、ように見えたと思ったらウルスの後ろから横薙ぎしていた。
ウルスが切られたと思ったら、ウルスはさらにアリエスの後ろに回り込んでおり、一閃。
バシュッ
アリエスの右肩にあった金属プレートが吹き飛んだ。
吹き飛んだあとには白く美しい肩と首元、鎖骨のラインが見えている。
「くっ!」
体勢を崩していたアリエスは転がりながらウルスの方へと向き直る。
ウルスが迫る。
キキキン!
見えない剣閃。アリエスは受け切れているようだが、何が起こっているのか俺にはわからない。
ハラリ
いつの間に切られていたのか、アリエスの左腕の袖口がぱっくりと開き、二の腕が見えている。
「ハア、ハア……」
アリエスの息はすでに荒い。
剣閃は見えないが、かなりの実力差があることはわかる。
「アリエス、そんなものかい?」
「ハア、まだ、まだっ」
シュキキキン!
再び見えない剣閃。
パラリ
今度はアリエスのズボンの右太ももが切られており、白い太ももが見えている。
だんだんボロボロになっていくアリエスだが、傷ついているのは防具だけで、紙一重に皮膚などは傷ついていない。
これは……。
狙ったか! ウルス・ゴルト! 体は闘争を求める。
ウルスが狙っていたのはアリエスの服だった。
決闘にかこつけてなんというクズ兄であろうか。
すぐに止めなくては。
だがこの見えない剣閃の中、俺は止めに入っていけない。
下手をして死んだらアリエスと血が繋がってしまう。またはアリエスになってしまう。
見守るしかない。仕方が無い。仕方が無いのだ。
キン!
「あうっ!」
大丈夫かアリエス! 今度はどこが切られた!?
アリエスのズボンの左脚の後ろ側の布が無くなっており、膝裏が見えている。
うおおおお! ※クズ




