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異世界における他殺死ガイド11

 

 とある山のとある崖の下、大きな魔物の死体が横たわっている。


 魔物の死体は全身がドス黒く変色している。


 その魔物の死体の上に、亜人の女性が覆いかぶさるように倒れており、亜人の女性の体、魔物に触れている手や頬の部分もまた、ドス黒く変色していた。


 亜人の女性はまだ息がある。だが息は荒く、苦しそうである。



 そこに、赤黒いフードを被った男が現れる。


 女性の体を助け起こすと、魔物の死体から離れたところに寝かせ、なにやら懐から瓶を取り出し、その中身を女性に飲ませた。


「う……うぐ……」


 男は今度は魔物の死体に近づき、また懐から瓶を取り出し、中の液体を魔物に向かって振りまいた。そして、腕に装備している鉄の爪で火花を起こした。


 チリッ ボッ


 魔物の死体が炎に包まれる。


 男は燃えていく魔物の死体を寂しそうな目で見ていた。




 男は魔物の死体が燃え尽きたのを確認し、女性の容態を確認する。


 女性の手や頬のドス黒い変色は引いており、元の綺麗な白い肌になっていた。


 荒い息ではなくなったが、女性は目を覚まさない。


 男は女性の胸元に目をやる。


 そこには決して豊満とは言えないが、形のよい胸が鎮座していた。


 男は女性の胸元に手をやり、なにやらまさぐる。


「ん……」


 破廉恥である。



 チャラ



 男が女性の胸元から取り出したのはペンダントであった。


 男は女性の首からペンダントを外し、そして自分の懐からはペンデュラムを取り出した。


 二つを手からぶら下げ並べると、ペンデュラムはペンダントの方向へと傾いた。


「ふむ……」


 男はペンデュラムとペンダントを懐に入れ、女性を背中に背負った。



 ***



 ドーツの町、宿屋。


「ニャーニャー」


「シロ、どうかしたかい?」


 宿屋の外で飼い猫がうるさくするため、女将さんが外へ出ると、そこには亜人の女性が倒れていた。


「あらまあ、大変」


 宿屋の女将さんが人を呼び、亜人の女性は宿屋の中へと運ばれていく。


「……」


 離れた所からそれを確認した赤フードの男は、何も言わず去っていった。







 とある屋敷のとある部屋の中。


 台の上に大小さまざまな刃物が置かれている。中には何に使うのか分からない抜歯用ペンチみたいなものもある。部屋の壁にはフラスコやらビーカーの実験器具。


 部屋の真ん中、大きな台の上に、岩のように頑強な体を持ち、熊のような姿をした岩熊という魔物が横たわっている。四肢は鎖で固定され、くい込んだ跡が痛々しい。


 岩熊の横たわる台の横に、白衣の女性の姿がある。


 女性は岩熊の腹に手を当てると、なにやら呪文を唱え出す。


 女性の手が光ったかと思うと、岩熊は目を見開き、うめき声を上げる。


「グガアアアア!」


 岩熊は鎖を引きちぎろうと暴れるが、鎖は切れそうに無い。


 やがてうめき声は止んでいき、部屋は静かになる。


 白衣の女性が岩熊の腹から手を放すと、一瞬、悪魔の顔のような紋が浮かび上がり、消えた。


 女性は岩熊の四肢を固定していた鎖を外していく。


「さあ、今度はうまくいったかしらね」


 女性は岩熊の目の前に手の平を出して言う。


「お手」


 岩熊は動かない。


「じゃあ、前足」


 岩熊は動かない。


「うーん、駄目かしら?」


 女性は岩熊の目の前で掌をひらひらさせる。


 ガジ


 岩熊はその掌に噛み付いた。


「いだだだだだ!」


 女性は近くの台からハンマーを手に取った。


「こんの馬鹿熊が!」


 ゴスン


「キュウ」


 岩熊は気絶した。


「ハア、ハア、失敗ね……」




 コンコン


 ノックの音。誰か来たようだ。女性は乱れた白衣を整える。


「ゴホン、入りなさい」


 部屋の扉が開き、執事めいた男が入ってくる。


「カトリーヌ様、ザトー様がお見えです」


「あら、良い報告だといいけれど」


 女性は白衣を脱ぎ、部屋を出て行った。






 部屋の中、カトリーヌの向かいに、机を挟んで赤フードの男が座っている。


「それで、例の件の報告かしら」


「そうだ。ところで、黒いローブの男にも同じ依頼をしていたな?」


「ああ、そうね。念には念を入れておこうと思って。文句があるの?」


「あの男は死んだ」


「なんですって?」


 それを聞いてカトリーヌの顔色が変わる。


「貸してあげた鉄爪狼は?」


「さあ、知らないな。とにかく、あの男は死んだ」


「まさか……あの娘が鉄爪狼を撃退したとでも言うの?」


 机に目をやり、カトリーヌは爪を噛んだ。


「それであなたは何の報告に……」


 カトリーヌが向かいの椅子に目をやると、座っていたザトーが居ない。



 ガギギ



 カトリーヌの首の横には鉄爪がある。


「ザトー様、これは戯れですかな」


 執事めいた男がザトーの鉄の爪を剣で止めていた。


「ああ、戯れだよ」



 ギイン!



 ザトーは鉄の爪で剣を跳ね上げ、距離を取った。


「これはどういうことなのリヤノフ」


 カトリーヌは冷たい目で執事めいた男を見る。


「申し訳ございません、カトリーヌ様。私の知る最も信頼の置ける男を選んだつもりだったのですが」


 リヤノフがザトーを睨む。


「ザトー様、もはや長くは生きられませんぞ」


 ザトーは肩を竦めて言う。


「戯れだと言っただろう? まあ、長く生きられそうには無いが」


「それはどういう」


「今回の依頼内容をあの娘の兄に話した」


「なっ!?」


 カトリーヌが青ざめる。


「嘘ですな。ザトー様は契約内容を他に漏らすことが出来ません。契約魔法によってそれだけは確実に守られます」


「この部屋の外に誰が居ると思う?」


「ま、まさか!」


「カトリーヌ様! この場を逃げるための嘘ですぞ! 騙されてはなりません!」



 ギィィィ



「ハッ!」


 カトリーヌの後ろにある扉が開いていく。


 扉からゆらりと、長身の美男が姿を現す。


「ウ、ウルス!?」


 カトリーヌはこれ以上無い位に焦っている。


「母上」


「ヒッ!」


 ウルスと呼ばれた男の顔は形容しがたい。なんとも恐ろしい表情をしていた。


「彼から話を聞いた時は耳を疑いました。危うく彼を殺してしまうところでしたよ」


 ザトーは肩を竦めた。


「ウルスこれは……」


「おかしいと思ったんです。大事にしていたペンデュラムが無くなるなんて。リヤノフに盗ませたんですね?」


 チャリ


 ウルスの手にはペンデュラムが下げられている。


「ウルス違うのよ……」「ウルス様……」


「まさか、これがアリエスの暗殺のために使われるとは思いませんでした……」


「わ、私はあなたのためを思って……」


 スラリ


 ウルスは剣を抜いた。


「ウルス様! カトリーヌ様の話を聞いては頂けませんか!」


 リヤノフが割って入る。


「リヤノフ、僕の本気の剣を、受けきれますか?」


「カ、カトリーヌ様、私のうしろへ!」


 リヤノフはうしろにカトリーヌを庇い、ウルスから離れる。


 部屋の空気が張り詰める。



 ーーー。



「……冗談ですよリヤノフ」


 キン


 ウルスは剣を収めた。


「ただ、怒っていることはわかって貰えたと思います。リヤノフ、契約の準備をしてください」


「ウ、ウルス……何を?」


 震えながらカトリーヌが聞く。


「契約魔法で母上を縛ります。アリエスに危害を加えられないように。……嫌とは言わせませんよ?」


「ヒィ!」


 ウルスの顔は形容しがたい。なんとも恐ろしい表情をしていた。


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