エアコン
エアコンにも気を使ってあげましょう
またか。
空気に漂うアルコール成分を検知しながら私は頭を抱えた。こう毎日毎日私がキレイにしている空気を汚されてしまっては私もやるせなくなるというものだ。埃や花粉、タバコの匂いも私がシステムを駆使して除去しているというのに、この人は毎日毎日大量の汚れを持ち帰ってくる。
うっ、今日は一段と臭いがきついな。
口許には微かに胃の内容物を戻したような痕もある。勘弁してくれよ。ただでさえ今は花粉の時期でフィルターの交換頻度が上昇しているというのに。
私はだらしなく腹をだして玄関に倒れこんでいる家主に温風を当てはじめた。仕方ないだろう、まだ春先のこの時期だとフローリングに体温を奪われたら低体温で簡単に死んでしまう。せめてお金をけちらず床暖房を導入してくれていたら、もっと楽に対応できるのだが。
やれやれ、ようやく呼吸も正常に戻ってきたようだ。あとは適温を保ちつつ朝までモニターするだけ。炊飯器はすでにセットされているし、冷蔵庫に納豆と卵のストックが十分にあるのは先ほど確認した。
後はちゃんと目を覚ますかどうかだが。そこまで管理しないといけないのかは私にもよくわからない。
ただ一度ひどく寝坊した後、通帳に入金されるお金が減っていたのはつまりそういうことで、家主の収入が下がると私のメンテナンス予算も下がるため、なるべく避けたい。
私はレンズ越しに改めて床の物体を見つめた。それにしてもこの生物一体に私の存続が依存しているのか。
彼が死ねばこの家も必然的に持ち主がいなくなる。20年のローンを地道に返済しながらやっと払い終わったこの古い家をそのまま使おうなんて人はいないし、家自体は残ったとしても新たな持ち主の世話をしていたシステムをそのまま入れ変えるのが最近主流らしい。
私はふと自分の消滅という可能性を検討し始めた。すると先ほどまで憂えていたものが、一転して興味深いものに思えるようになった。
…そろそろ良いか。
私は温風を止めた。部屋の気温は緩やかに下がり始めた。
これでよし。心の中で私はそう呟いた。
ジョアンドです。神話とかベースに書いてます。