乙ゲーのキャラは美形揃い、これ定石
「お言葉ですがルシエド様、残念ながらわたくしにはまったく身に覚えのないことばかりでございます。それにその短剣、本当に我が公爵家の物かしら?」
「はっ……!この期に及んで言い訳しようと?さすが、性根の腐った貴様は」
「血液は鑑識に出されたようですが、その家紋自体の証明はまだではなくて?」
まだ何か言い募ろうとしていましたが、わざわざ最後まで聞いてあげる必要はないので、少々マナー違反ではありますが、セリフの途中で強引に言葉を被せます。
わたくしの指摘に彼らの眉がほんの少しだけピクッと動いたのを見逃しません。
ああ、図星ですか。
ふーん?
わたくしは目の前に立ち塞がる中央の男性に声をかけます。
「失礼、ちょっとよろしくて?」
「駄目だ。貴女をあんな馬鹿達の前に晒したくない」
前に出ようとするわたくしでしたが、中央の彼から片腕でやんわりと押さえつけられました。発せられた声色は低くも耳心地よく、見た目細いのになんだか逞しく印象です。
「大丈夫です。今日という今日はその馬鹿達に目に物を見せて、喧嘩を売った相手を間違えたのだと後悔させてやりますから」
わたくしがそう言うと、3人は揃って振り返りました。
あ、イケメンです。
3人共すっっっごいイケメンです。
わたくしの語彙力では到底表現することは敵わないほど、とっっっても見目麗しい殿方ばかりです。
パトリシアが媚を売ろうとするのがわかります。
左側の男性は立派な体格から見て獣人族かしら。
襟足まで伸びた灰色の髪は太陽にあたると銀色のように煌めき、瞳は血潮のように紅く鋭い。ひと睨みされたら足が竦んでしまうに違いありません。
ですがちっとも怖くないと感じるのは、彼がわたくしの身を案じてくださる様子がありありと伝わってきているからでしょう。
右側の男性はやはりエルフ族の方でしょう。尖ったお耳が何よりの特徴ですし。実際エルフ族の方を見るのは初めてですが。
長くて淡い水色の髪を肩のあたりで組紐でゆるく括り、水晶のように透き通った水色の瞳はちょっぴり冷たい印象を覚えてしまいそう。
そして中央の男性は――残念ながら種族までわかりませんが、おそらく人族でないことは間違いないでしょう――バターブロンドの髪に菫色の瞳を持った、なんだかとても神秘的な殿方です。
首にやや色褪せた白いリボンを括っていますが、あれはオシャレなんでしょうか?
乙女ゲームの世界だからでしょうか、攻略対象者も含め、この世界には目鼻立ちの整った方が老若男女問わず沢山いらっしゃいます。
かくゆうわたくしも、ライバル令嬢の立場のくせにそこそこ綺麗な容姿をしています。
おかげで目が肥えます。しかし慣れとは恐ろしいもので、あまり美形に囲まれて生活していると、ちょっとやそっとの美形を前にしても始めの頃のドギマギした気持ちが薄れてしまうのです。
なので、その中でも飛び抜けた容姿を持ったのが攻略対象者という訳ですが――わたくしの目の前にいる彼らも引けを取りません。
こんな状況でなければ、芸術品の域を遥かに達した彼らをしばらく眺めていたいものです。