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茶番はどうぞ人様のご迷惑にならないところでお願いします


 エルフ族と思わしき男性の言葉に、『え、そうなの?』と、その事実を知らない野次馬+取り巻き4人組は思わずパトリシアへと視線を向けた。

 当然、パトリシアはあわあわと弁解をし始める。


 「ち、違うのっ。ぶつかってしまったのは本当にこけたからだし、わざとじゃないのっ。そ、それに、礼儀作法の授業は……お隣にルシエラ様がいた方がお手本になると思ったからだし、制服のことは勿論謝ったとこ、みんなは見てたでしょっ?それからそれからっ……バ、バケツのやつは、モップを探しに行ったの!でも戻った時はすでに片付けられててっ……!本当なの!嘘じゃないの!お願い、みんな信じて!あなた達も!」


 彼女は瞳に涙を溜め、うるうると周囲の野次馬に同情を引こうとした――かと思えば、「あなた達も信じて!」と言って、わたくしの目の前に立つ男性3人組に向かって頬を赤く染めながら訴えかけます。



 はい、そのあからさま過ぎる態度だけでわかりました。



 わたくしに背を向けて立つ彼らは、とても美しい容姿をしているのでしょう。

 パトリシア(彼女)の男好き(ただしイケメンに限る)は、取り巻きの4人組以外、学院生の間ではとても有名なお話ですし。

 取り巻き以外の見目の良い男性にもちょっかいをかけて、他の女子から嫌われているというに。

 どうして気付かないのかしらね。


 「でもさぁ、暗殺者の件は覆らないよ?なんてったって免れようのない証拠があるんだからね」


 そう言いながらヒューヴェスが懐から徐に取り出したのは、ビニール袋に入れられた一振りの短剣。

 鞘のない剥き出しの刃には、わずかに赤い何かが付着しています。


 短剣に付着した赤いものとくれば、それが何なのか容易に想像できます。

 それに気付いた周りのギャラリーの中から「きゃあああっ!?」と女性達の甲高い悲鳴が飛び交います。


 そうですよね、驚きますよね。

 何故ならこの学院に通う多くの女性は、血生臭いことに無縁の淑女ばかりですから。

 騎士学専攻でなければ驚かない方がおかし―――――あっ。


 ルシエド様の口元がニヤリと醜く歪んだ気がします。


 「この短剣は先日、パティ……パトリシア嬢が実家に帰ったその日の夜に、彼女の寝室に忍び込んだ暗殺者が残していった物だ。この短剣にはご覧の通り、血液が付着している。鑑識の結果、短剣に着いた血はパトリシア嬢のものだと判明しており――尚且つ、この短剣の柄にはアルフォーヌ公爵家の家紋が彫刻されている!」


 ルシエド様が高らかにそう言い放つと、野次馬のざわめきがより一層強くなった。

 そのことに満足げな笑みを浮かべながら、デメトリスが更にわたくしに向かって声をかける。


 「ルシエラ嬢、貴女は先程、この血液が付着した短剣を見ても眉一つ動かしませんでしたね?真の淑女ならば、ちょっとした血を見ても気を動転させるのが普通ではありませんか?」


 なるほど……彼らの意図に気づくのがちょっと遅かったですね。


 確かに彼らの言う通り、普通の淑女ならば声をあげるなり顔色を変えるなり、何かしらリアクションをとる。

 にも関わらず、わたくしにはそれがなかったと。そのことを公衆の面前で示すことにより、わたくしを『常識外れの女』という認識にさせようという魂胆ですか。偽の短剣まで用意して。

 いえ、短剣を用意したのはパトリシア自身でしょうね。


 まったく……どうあってもわたくしを悪役令嬢に仕立て上げたいのですね。

 自分で自分を傷つけることも厭わないくらいに。


 だからといって、こんな茶番にいつまでも付き合ってあげるほど、わたくしの心は広くありません。


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