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何故それを知っている?


 「何だ、お前達は?」

 「これ以上、彼女を侮辱するのを許さない」


 わたくしの前に立ち塞がる彼らに胡乱げな眼差しを向けながら問いかけるルシエド様に、わたくしから向かって左に立った男性――やけに体格が良さげです――が、ルシエド様達に対して“キッ!”と鋭く睨みつけ、短くそう発しました。

 身分を問わない学院内だからまあ許されるかもしれませんが、相手はどんなにボンクラでもこの国の第二王子です。

 通常なら不敬罪に問われるべきなのでしょうが、この異様な空気に当事者を含め多くの人が飲まれている為気付いてはいない様子。


 「侮辱ですって?そこにいるアルフォーヌ公爵令嬢は権力を笠に着て、こちらのパトリシア嬢に数々の嫌がらせと暴言を吐くに飽き足らず、先日はついに金で暗殺者を雇って命を狙った罪人です」


 デメトリスの発言にほんの一瞬だけ周囲の野次馬がざわめきたちます。


 ルシエラのパトリシア暗殺未遂は、このゲーム内における最大の断罪イベントですね。

 パトリシアを亡き者にしようとしたルシエラが暗殺者を雇うものの、ルシエラの行動を怪しんだルシエド様がパトリシアに内緒で【聖なる加護】をかけた為、パトリシアに危害を加えようとした暗殺者はその場で【聖なる加護】によって廃人になってしまい、パトリシアは間一髪のところで危機を逃れるといった流れです。


 ですが、今度は私の右側に立った男性――淡い水色の髪からのぞく尖った耳から察するにおそらくエルフ族の方でしょうか――が、腕を組みながら「ふっ…」と鼻で一笑しました。

 わたくしの位置だとお顔まで拝見できませんが、雰囲気からありありと馬鹿にした表情を浮かべているのだろうと予想はつきます。


 「ルシエラ様ほど高潔なお方が、何故わざわざそんなことをせねばならん?数々の嫌がらせをしてきたのはむしろそちらの男爵令嬢の方ではないか。ルシエラ様の行く先々に出没してはわざとこけてルシエラ様を思いっきり突き飛ばしたり、全院生徒を集めた礼儀作法の授業でいそいそとルシエラ様の隣に座ったかと思えばカップを落としてルシエラ様の制服を汚したり、掃除の時間にバケツの水を前から歩いてきたルシエラ様の目の前で零して進路を塞ぐなど……しかもその水浸しになった廊下はそのままに立ち去った挙句、何の関係もないルシエラ様に後始末させたんだぞ!ここが身分を問わぬ学院でなければ、そちらの男爵令嬢は速攻で首を刈り取られていてもおかしくない無礼の数々を、ルシエラ様はその広い御心で許され続けた!その恩を仇で返すなど、言語道断!恥を知るがいい!」


 「わたくしを庇ってくださるのは大変嬉しいですが、水浸しになった廊下は掃除係のマルガリータさんを呼んでやってもらったので、実質わたくしは何もしておりませんよ」


 聞き入れてもらえるかどうかはさておき、マルガリータさんの存在が蔑ろにされるのは嫌なので一応口出ししておきます。ちなみに御年62歳の元気で茶目っ気たっぷりある可愛らしいおばあ様です。

 彼が言った事は全て本当にあったこと。実際はもっと他にも色々やられましたけど。


 そう、パトリシアは必要以上にわたくしに絡み、わざとわたくしを怒らせようとしていました。

 これはわたくしの予想なのですが、おそらく彼女もわたくし同様、転生者なのでしょう。

 ゲーム内だとルシエラの虐めや妨害によってパトリシアと攻略対象者の絆がより深まるシステムですから、きっと彼女はわたくしをわざと怒らせ、ゲームのように恋愛イベントを発動させようとしていたに違いありません。


 ですが残念ながら、わたくしは前世で婚期を逃して一人孤独死を迎えるのを待つだけのオールドミス。

 小娘一人の嫌がらせなど、前世の職場で妻子ある男性と不倫していた勤務年数が長いだけのイヤミったらしい無能女に比べれば、仔猫がミーミー鳴きながら爪を引っ掻いてきた程度の可愛いもの。


 命に関わることではないので放置しました。彼女の目的はわたくしを怒らせることが見え見えだったので、それにいちいち乗っかってやる義理はありませんでしたしね。


 しかし……制服汚しの件は全院生徒が知ってるところだからいいとして、何故このエルフ族の方は突き飛ばしの件と廊下水浸しの件まで知ってるのかしら?

 あの時周囲には誰もいらっしゃらなかったはずなのに……ぶるっ。

 おっと、今一瞬鳥肌が立ちましたわ。

 ずっと外にいるせいかしら?

 こんなに暖かい天気ですのにねぇ。


 早くこの茶番から解放され、学院内に入りたいばかりです。


どうして彼が誰も知り得ないことを知っているのか。

その真実は彼の正体ゆえに。

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