なんか出てきた
さてはて、現状をもう一度確認しましょうか。
今、わたくし達は拓けた校庭のど真ん中に佇んでおり、わたくし、ヒロイン、それからヒロインを囲う攻略対象者達。
そんなわたくし達の周りには多くの野次馬がおり、わたくし達を中心にドーナッツ状態になっていると。
けれどもおかしな話です。
何故ならこのような事態に陥るのは、ルシエラがパトリシアを虐めに虐め抜いた後、はした金で雇った暗殺者にパトリシアの命を狙うように仕向けたストーリーに持ち込まなけれ出来ない状況です。
わたくしは勿論、パトリシアを虐めていなければ暗殺者も雇っていません。
これがゲーム補正というやつでしょうか?
だからといって、わたくしを愛し、育んでくださった家族の為にも、ここで決して崩れ落ちてはならないのです。
身に覚えのないわたくしに対する侮辱は、わたくしを愛してくださる家族への侮辱でもあるのですから。
「お言葉ですがルシエド様、わたくしと貴方様の婚約はお国のため、そしてパワーバランスを保ちつつ互いの絆を結びつける為のもの。とはいえ政略結婚には違いないので、貴方様が婚約を破棄されるというのであれば、それはシルベキスタ国王と宰相であるアルフォーヌ公を含めたほかの大臣も集め、しかるべき場所で話し合いをするのが筋というものではありませんか?なにもこのような大衆の目が集まる場所で好奇の目に自身まで晒すとは、王家の血筋を引く者としていかがなものかと……」
「うるさい!黙れ!そもそも私はお前との婚約に納得などしていなかったのだ!それに、私と同い年でありながら、無駄に落ち着いた物腰も口調も気に入らなかった!まるで爺やが二人いるみたいで息が詰まる思いだった私の気持ちを、お前は知らないだろう!?」
無駄に落ち着いた口調と物腰ですみませんね。
なんせこちとら前世じゃいい歳したゲーマーのオールドミスだったもんで。
わたくしからしてみれば、もう大人の仲間入りをしていてもいい歳のくせに一向に落ち着かないうえ、恋愛脳でお花畑になったお前の方が不思議でたまらねーよ。
おっと……わたくしとしたことが、つい前世の口調に引っ張られてしまいましたわ。
どうせならいっそのこと「若造がこしゃくなこと言ってんじゃねーぞ!!」と怒鳴りつけてやればいいかしら?
呆れ果てたわたくしがそう思った直後でした。
「「「ふざけるなああああ!!!」」」
野次馬の中から突然3人の男性が叫びながら飛び出してきたと思ったら、彼らはなんと、私を庇うようにルシエド様達の前に立ち塞がったではありませんか。
わたくしが呆気にとられている間、ジャックスがいち早く反応し、パトリシアと(ついでに)ルシエド様を守るように前に躍り出ます。
腐っても剣士といったところでしょうか。
ゲームでは決してあり得なかった事態に、さすがの無駄に落ち着いた口調と物腰を持った前世オールドミスだったわたくしも目が点になってしまいます。
これは一体どういうことなのでしょう?
ひとまず黙って事態を見守りましょうか。