前世のあたし、今のわたくし
わたくしの前世は、地球と呼ばれる惑星にある国のひとつ、日本という島国に住むごくごく普通のオールドミスでした。
友人も少なく、人付き合いよりも自分の娯楽を最優先させていた『あたし』は、気づけばいい歳こいてゲーマーになってた。
人気のRPGから格闘ゲーム、謎解きパズルゲームに巷で噂になったクソゲーと呼ばれるものまで、ありとあらゆるジャンルに手を出した。
そして、ついにゲーム実況者として華々しくデビューを飾ったのが恋愛シミュレーションゲーム、通称乙女ゲームと呼ばれるものだった。
リアル喪女の『あたし』は、ゲーム内でも攻略対象者とのラブストーリーを楽しむより、わざとハズレ選択肢を選ぶことで視聴者の色んな反応を楽しむ方に専念した。
中でも好評だったのは悪役のライバル令嬢が絡んでくるシナリオで、視聴者から「ヒロインの方が悪役に見える不思議w」とか、「こいつライバル令嬢に罪を着せやがったwww」とか、悪役よりも悪役らしい立ち振る舞いをしたり、攻略対象者をわざと貶してバッドエンドまっしぐらなクソプレイが結構ウケたのは『あたし』自身不思議だったけど。
まあ『あたし』も楽しくプレイ出来たのはいい思い出。
そのプレイした数々の乙女ゲームの中で、中世のヨーロッパをモデルにした世界観に、エルフ族や龍族、獣人族といった亜人種がいて、さらに魔法が使えるファンタジー要素満載の恋愛シミュレーションゲーム【夢でキスを終わらせない】という、まぁまぁサブイボを覚えずにはいられないタイトルの乙女ゲームがありまして。
このゲームは男爵令嬢のヒロイン――つまりパトリシア=ブリリアントがシルベーヌ魔法学院に入学する前日の夜、突然夢渡りの能力に目覚めてしまうところから始まり、夢渡りの能力を使って現実世界と夢世界を交互に利用しながら攻略対象者を着実に落としていくというシステム。
で、パトリシアに惹かれていく婚約者と、彼女を持ち上げる貴公子達が許せなくて、逆恨みよろしくパトリシアをあらゆる手段を使って追い詰めてやろうとするのがライバル令嬢のわたくし、ルシエラ=ルーカス=アルフォーヌというわけです。
ラノベでありがちな異世界転生ものにいざ自分がなってみると、案外面白いものですね。
前世の『あたし』の性格ゆえか、わたくし自身はそんなに気落ちしたり悲しんだりすることはありませんでした。
前世でどうして自分が死んだのか、死んだ直前の記憶も心当たりも全くないのです。
だからこそと言いましょうか、思い悩んでも仕方ないのでこの世界で自分の人生を謳歌しようと思い至った次第であります。
わたくしの前世において、親兄弟姉妹はおろか、愛する旦那様も子どももいなかったのが不幸中の幸いでしょうか。特に子どもがいたとなれば、置いていってしまった後悔と自責の念に駆られてさっさと自殺してしまっていたところです。
そんな訳で、わたくしは今生で大事にしてくださるお父様とお母様、そして自慢のお兄様達の恥にならないよう、アルフォーヌ公爵家の誇れる娘として品行方正の淑女として振る舞ってきた所存であります。