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プロローグ

 皆さま、ご機嫌麗しゅう。

 突然ではありますが、わたくし自身の意志とは関係なく、修羅場の真っ只中に立たされています。


 「ルシエラ=ルーカス=アルフォーヌ!今日この時をもって、貴様と私の婚約を破棄させてもらう!」


 わたくしを真正面から見据えながらそう叫ぶのは、この国のシルベキスタ国王の第二王子、ルシエド=ヨルム=シルベキスタ。

 補足情報を加えますと、この国では珍しくもなんともない金髪碧眼の貴公子で、一応わたくしの婚約者です。まぁ、それもたった今本人から破棄宣言されたのでどうでもいいことですが。


 「つきましては、これまで貴女が行なってきた数々の悪行を白日の下に晒していく所存です」


 ルシエドの側に控えていた男が便乗するかのように笑顔を浮かべながら言葉を紡ぐ。

 彼の名前はデメトリス=ブラッサム。補足情報を教えますと、こちらもこの国では特に珍しくない茶髪に緑眼の持ち主で、彼のお父様はこの国の総務大臣です。つまり、いわゆる『坊ちゃん』ですね。


 「………」


 無言でわたくしを睨みつけてくる彼の名前はジャックス=ワズゥーグ。声こそ出さずとも、わたくしを憎々しげに睨みつけてくる目がありありと言葉以上に語りかけてきます。

 補足情報と致しまして、赤髪赤眼の無口な剣士といったところでしょうか。彼のお父様も、この国に忠誠を誓った誇り高き騎士です。


 「ほーんっと、女の嫉妬は醜いとはよく言ったもんだね〜。ルシエドに振り向いてもらえないからって、こぉぉぉんなに可愛いパティを虐めて、あわよくば亡き者にしようなんてさー」


 徐々にピリピリとした不穏な空気が漂う中、場にそぐわぬ明るい口調でそう言ったのはヒューヴェス=ユニエード。

 補足情報になりますが、濃紺の髪に茶色の瞳をした、噂に違わぬ女誑しです。そんな彼のご両親は大変立派な隣国のご教授なのですが――親が凄すぎて反抗したくなる年頃というやつですかね?別に彼の心境なんて知りたくもなんともないですが。


 「みんな、気持ちは嬉しいけど、そんな殺気だっちゃったらダメだよぉ。話せるものも話せなくなっちゃうし……それに、他の人たちにも迷惑かけちゃうでしょっ?」


 現在進行形で一番迷惑被っているとツッコミたくて仕方がない発言をした彼女の名前はパトリシア=ブリリアント。

 あえて補足情報をあげるとすれば、深緑の髪にピンクの瞳を持った、小柄で可愛らしい少女です。ええ、外見情報だけをあげるとすれば。


 すると、彼女の甘ったるい声に締まりのない口調を聞いた男共は、わたくしから視線を外し、こぞってパトリシア嬢に対して優しい笑みを浮かべました。


 「すまない、パティ」

 「つい感情的になってしまって……」

 「君を怖がらせてしまうつもりは毛頭なかったんだ」

 「それはわかってくれるかい?」


 見目麗しい青年に囲まれ、少し困ったように、でも嬉しそうに頬を薔薇色に染めて笑う少女の姿は本当に可愛らしいと思いますよ、ええ。

 出来ればわたくしのあずかり知らぬところでやっていただきたいものです。


 それにしても、彼らはパトリシアに夢中になり過ぎてて気付いていないのかしら?


 今日は奇しくもシルベキスタ国が誇るシルベーヌ学院の卒業式。

 権力ではなく、あくまで実力主義を謳うこの学院には貴族のみならず、何かしらの才能に秀でた12〜18歳未満の少年少女が通うことが出来る。

 たとえどんなに貧しくても、通常の入学試験とは別に国家試験並みのテストを受け、尚且つ規定の魔力値を所持し、見事クリアできれば学費は免除されるという破格の待遇が約束されている。

 そこに貴族や平民という壁はない。


 つまり何が言いたいのかというと――わたくし達の周りには数えるのも億劫なほど野次馬が集っているわけです。


 しかも今わたくし達が立っている場所は学院でも拓けた校庭。騒ぎを聞きつけた生徒が「なんだなんだ?」と増えていく始末。

 おまけに今日は長いことお世話になった学院に別れを告げる卒業式。

 となれば、当然卒業生の保護者の方もいらっしゃるのです。



 わたくしの気のせいでなければ――視界の端に長年ルシエド様に仕えている老執事が、あまりの展開に気を失い、周りにいた人達から介抱されているようですが?


 それからあれはブラッサム伯爵夫人でしょうか?ご子息のわたくしに対する態度に顔面蒼白で、老執事同様、今にも倒れてしまいそうなご様子。


 ブラッサム伯爵夫人とは対照的に、お顔を真っ赤に染めて怒気を隠しもしない女性はワズゥーグ子爵夫人ですね。遠目からでも全身をブルブル震わせ、すぐにでもご子息を殴りかかりそうなオーラを漂わせています。


 わたくし達から顔を背け、頭を抱える紳士とハンカチで目元を拭うご婦人の姿も見えますね。あれはユニエードご夫妻でしょう。隣国からわざわざ同盟国の我が国のためだけに教鞭を振るってくださり、恐悦至極であります。



 本当に、どうして気付かないのか。

 わたくしよりも自分達のほうが、周りから遥かに侮蔑の目で見られていることを。


 そうそう、申し遅れました。

 わたくし、アルフォーヌ公爵が息女、ルシエラ=ルーカス=アルフォーヌと申します。

 実を申しますとわたくし、いわゆる『転生者』というものですの。

 ふふふふふっ。




 ……はぁ……慣れたとはいえ、このお嬢様口調、めっちゃ疲れるわー……。



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