彼岸花とエリカ
彼岸のあたり、コスモスとか彼岸花とか秋の花が咲いている。花月中の中庭の温室でエリカが咲いている。日はまだ落ちかけてない。
「中原ちゃんや、彼岸花はどうかね」
柊エリカはエリカの鉢植えを眺めながら孫に話しかけるように言った。ただでさえ、特に苦手なタイプの人間と共に植木鉢の花の手入れをしなくてはならないんだと行き場のない怒りを抑えていた、中原麗羅は余計にエリカ嬢に腹が立った。
「別に、あんな花。気味が悪い」
と素っ気ない。
「へえ、君らしいな。あの花は君そっくりなのに。同族嫌悪って奴かな」
飄々と笑うエリカ嬢。麗羅は、余計に腹が立った。嫌いな奴と似ている、そう言われたら腹が立つ。通りだ。
「うるさいな、お前は」
麗羅の声には怒りが宿っていた。そうにも関わらず、エリカはいつものように飄々と嵐前の静けさをまとっていた。
「はいはい、言われたことはもう終わりましたよ。帰りましょう」
エリカはいつの間にか言いつけられた水やり草むしりを終わらせ、カバンを背負っていた。
「よし、部活には間に合うね」
エリカはそう呟き、それでは、と麗羅に手を振り、まだ夕焼けで赤く燃えていない体育館の方へ行った。
エリカが去ってから、麗羅は温室の植木鉢を見た。大量に、パッと見て百をこえる植木鉢がこの温室にはある。柊はこの短時間で全てに水をやったのか?
「あいつ、サボったか」
驚き、適当な植木鉢を手に取り土に触れると湿っている。他にも2、3個植木鉢の土に触れたがいずれも湿っていた。
「人間のできることじゃない」
麗羅はそう呟いた。寒気がした。どこかで誰かが見ているような。