98.俺の元カノと従弟
大河視点です。
「おっ、居た居た。谷岡、ここ空いてるよな?」
週明けの昼休み。少し遅れて食堂に来た俺と敬吾は、四人掛けのテーブルに一人で座って食事を始めている谷岡に声を掛けた。
「ちょっと大河! 貴方の従弟、何とかしてよ!」
涙目で顔を赤らめながら、いきなり噛み付いてくる谷岡に、吹き出しそうになりながら腰を下ろす。
「良いじゃねーか。俺は良い組み合わせだと思うぜ?」
ニヤリと笑いながら、今までの分まで、ここぞとばかりに揶揄ってやる。
昨夜、冴香からジュエルでの出来事を聞いた時には、腹を抱えて大笑いしてしまった。大樹は無駄にプライドが高いから、全く相手にされなかった挙句、笑顔が胡散臭いだなんて指摘をしてきた女に対して、何とか振り向かせてやろうとムキになっている、って所だろうか。だけど谷岡もそう簡単には落ちない、良い性格をしている。この二人の組み合わせは凄く面白そうだから、当分は楽しめそうなんだが。
「でもまあ、俺の可愛い婚約者からお願いがあったし、俺自身もお前には何かと世話になったから、力にはなってやるよ。取り敢えず、昨日ジュエルを出てから何があったか、聞かせろよ。」
半分は真面目に、半分は興味本位で、谷岡に話を促す。
「無理矢理、一緒に食事に行く約束をさせられたのよ。断固拒否して振り切りたかったんだけど、断るなら直接会社に来るなんて言うんだもの。もしそんな事になったら、一瞬で変な噂が広まるに決まっているじゃない。勘弁して欲しいわよ、全く。」
大きな溜息をつく谷岡に、敬吾が口を開く。
「一つ訊きたいんだけど、谷岡さんはどうして大樹君は駄目なんだ? 大樹君も天宮財閥の御曹司だし、イケメンで頭も良いし、大河よりもずっと誠実で真面目だと思うけどな。」
「敬吾、さり気なく俺を貶すな。」
「確かにそうかも知れないけど、性悪な人は嫌なのよ。まあ、大河が言っていただけだし、私自身も彼の事はまだ良く知らないから、それだけで決め付けるつもりはないんだけど……、何だか彼、笑顔の下では何考えているか分からないって言うか、腹に一物も二物も抱えていそうな気がするのよね。だから、あながち間違いじゃないんだろうな、って思っているわ。」
「「あー……。」」
俺と敬吾は同時に声に出していた。
谷岡の言う事は分からなくもない。大樹はいつも、当たり障りのない笑顔を浮かべて会話をしながら、何時の間にか自分の望む方向に話を持って行く奴だから。
「でも、今はまだ、そんな気がする、って言う程度なんだろ? どんな人なのかも良く分かっていないんだったら、一度くらい食事に行って、もう少し知ろうとしてみても良いんじゃないか?」
「確かにそうだけど……。」
敬吾が勧めても、谷岡はまだ渋っている。
「谷岡が本当に嫌なら、こっちで何とかするぞ。あいつは冴香と、あいつの妹の麗奈の言う事なら多分聞くだろうから、冴香達に協力してもらえば、今後お前に関わらせない事は出来ると思う。最悪、祖父さんを引っ張り出せば済む話だ。まあ、少し勿体ないとは思うけどな。大樹は条件だけなら最高の物件だぞ。」
言いながら、ちらり、と谷岡の様子を窺ってみると、箸を止めて迷うような素振りを見せた。
実際、本当に悪い話ではないと思う。大樹は基本的に真面目で勤勉な男だ。頭も顔も人当りも良いし、話題も豊富に持っている。確かに笑顔の下では何を考えているか分からないような不気味な奴ではあるが、あいつが紳士の仮面を外すような事は滅多にない。俺が奴を性悪だと言ったのは、紳士的な言動で相手の心を掴みつつ、気付いた時には自分の思い通りに事を運んでいたり、敵と見なした相手に情け容赦ない手段を取ったりするからであって、味方でありさえすれば、何の問題も無く、寧ろ心強い男なのだ。
「ねえ、私が本当に嫌だって言ったら、大河達は協力してくれるの?」
暫くの間黙っていた谷岡が、ちらりとこちらを窺いながら尋ねる。
「ああ。お前には借りがあるからな。」
「じゃあ、あまり気は進まないけれど、一度ご飯に行くくらいなら良いかな……。最初から偏見を持つのも、どうかと思うし。」
「そうか。じゃ頑張れよ。またどうなったか、聞かせてくれよな。」
まだ浮かない表情をしている谷岡だが、俺は思わずほくそ笑んでいた。これで、暫くは退屈しなさそうだ。この二人がどうなるか、今から楽しみで仕方ない。まあ、なるようになるだろうけどな。




