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96.帰って来た冴香

95話、大河視点です。

 翌日の土曜日、漸く冴香が帰って来た。この一週間が凄く長く感じられたが、冴香の気持ちも確認出来たし、何よりも俺達の意思で婚約し直す事にしたので、結果としては良かったのだと思う。

 これでもう、誰にも文句は言わせない。正真正銘、冴香は俺の婚約者だ。


 俺達の仲を気にしてくれていた敬吾と凛にラインで報告すると、二人共祝福してくれ、冴香の引っ越しの手伝いにも来てくれた。まあ、あの短時間で俺の家から引っ越して行ってしまったくらいなので、冴香の荷物は割と少なく、二人が役立った事と言えば、冴香の家の冷蔵庫の食材の片付けくらいだったが。


 冴香の荷物を部屋に運び入れると、漸く欠けていたピースが埋まったような心持ちになった。充足感を感じつつ、食卓を囲んで久し振りに冴香の手料理を味わう。今なら敬吾の皮肉も気にならない。

 ってか、二人共何時までいるんだよ。引っ越しを手伝って頂いたお礼にご馳走します、と冴香が引き留めたのだから仕方がないが、さっさと帰らせて二人きりになりたいぜ。


 漸く二人が帰って行って人心地が付いた。冴香を抱き締めると、叫び声を上げられて、こっちが吃驚してしまった。


 「急に抱き付かれたら、誰だって吃驚するじゃないですか。驚かさないでくださいよ。」

 「悪い。じゃあ急にじゃなければ良いんだな?」


 冴香を再び抱き寄せてキスすると、相変わらず身体を固くしていたが、やがておずおずと胸元に縋り付いて来てくれた。

 やばい、滅茶苦茶可愛い。

 調子に乗って深く口付けて舌を入れ、冴香の舌を絡めて吸い上げる。片手で冴香の脇腹や背中、小振りな尻を撫で上げていたら、じたばたと暴れ始めたので、仕方なく唇を離す。


 「何で抵抗するんだよ。」

 「あのっ、えっとですね! こういう事は私、初めてなので、ちょっと刺激が強過ぎまして! 何と言いますか、そう、まだ心の準備が出来ていなくてですね!」


 焦った様子でしどろもどろに説明する冴香。

 あー、やっぱりか。こいつ、男に免疫なんてねえもんな。まあ、そういう所も可愛いんだけど。


 「あー、もう、仕方ねえな。」


 俺は溜息をつくと、冴香を抱き上げた。そのまま俺の寝室へと運ぶと、冴香が身を強張らせて息を呑んだ。


 「大丈夫、お前の嫌がる事はしねーから。」


 青褪めた冴香に出来るだけ優しく声を掛けてやり、ベッドに寝かせて、その横に寝転ぶ。冴香を抱き締めて、ゆっくりと頭を撫でてやると、少しずつ落ち着いてきたようだった。


 「本当は、お前を早く俺のものにしてしまいたいけどな。嫌がる女に無理強いする趣味はねえし、お前の気持ちが追い付くまで待つよ。まあ、俺も何時までもつか分かんねえし、慣れる努力はしてもらうけどな。」


 髪や頬にキスを落とし、まだ身を固くしている冴香に語り掛けながら考える。

 早く冴香を抱きたいけれども、恋愛初心者の冴香にいきなりがっついて襲い掛かる訳にはいかない。以前のように構い倒した結果、逃げられてしまうのはもう御免だからな。ここはやはり、少しずつ段階を踏んでいくしかないだろう。……俺の理性が何時までもつかは分からないが。

 抱き締めるのは大丈夫そうだ。頭を撫でられるのは寧ろ好きらしい。キスはまだぎこちないけれども、徐々に受け入れようとしてくれている。身体を触るのはまだ駄目、か。さて次は何に慣れてもらおうかな……。


 そんな事を考えていると、冴香がそっと身を寄せてきた。思わず目を遣ると、顔を赤らめて、上目遣いに見上げてきている。

 うっわ、可愛い……。あ、やばい、息子が反応しちまったっ。

 だが、このまま冴香を襲う訳にはいかない俺は、懸命に本能を押し止め、動揺を悟られないように微笑む。


 「そうだ、折角だし、このまま一緒に風呂に入るか?」

 「全力でお断り致します。」


 半分冗談、半分本気で言ってみれば、案の定、冴香は即座に無表情に戻って否定し、するりと俺の腕の中から抜け出して部屋を出て行ってしまった。その後ろ姿を見送りながら、身を起こした俺は苦笑する。


 本当、気紛れな猫みたいな奴だよな。可愛がろうとすればそっぽを向かれ、撫でようと思えば威嚇され、懐いたと思ったら逃げられる所とか、何だかそっくりに思えてくる。

 だけど、最初と比べたら、表情が豊かになったし、相変わらずツンデレではあるけれど、デレの部分が多くなってきているのは確かだ。さっきも無表情ではあったけど、何処か拗ねているみたいだった。あいつの色々な表情を、もっと見てみたい。そんな風に思うくらいには、俺はあいつに惚れ込んでいるらしい。


 俺も冴香も風呂を済ませ、就寝の挨拶を交わす。思い付きで、一緒に寝るか、と誘ってみると、当然の如く即答で拒否された。膨れながらも顔を真っ赤にして自分の部屋に戻る冴香に、俺はまた苦笑いを浮かべるのだった。

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