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92.冴香が居ない生活

91話、大河視点です。

 「……が……大河……大河!!」

 ハッと気付くと、目の前には敬吾と凛が居た。二人共心配そうな顔で俺を見ている。


 「大丈夫か、大河? 電気も点けずに、こんな所で座り込んで。何があった?」

 「……冴香が、出て行った。」

 敬吾に腕を掴まれて立たされながら俺が答えると、二人は目を見開いた。


 「冴香ちゃんが出て行ったって……どう言う事なの!?」

 慌てた様子の凛に問い詰められ、俺は祖父さんにされた話を二人にした。


 「そうだったんだ。それで、そんなにショックを受けていた訳ね。」

 「会長も酷いな。今度は勝手に婚約解消だなんて、何を考えているんだよ。」

 二人共苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、目を伏せていた凛は、諦めたように溜息を一つつくと、真剣な表情になった。


 「こうなった以上は、後は大河君次第ね。大河君は、このまま冴香ちゃんと別れてしまって良いの?」

 「良くねえよ!」

 「だったら、きちんと冴香ちゃんと話をした方が良いんじゃない?」

 「言われなくてもそうするさ!」

 凛に尻を叩かれる形になってしまったが、漸く当初の目的を思い出した俺は、無我夢中でスマホに手を伸ばした。


 「大河、冴香ちゃんから何か連絡はきていないか? いくら急にこんな事になってしまったとは言え、律儀な冴香ちゃんが、このままお前に何も言わずに、黙って出て行くとは思えないけど。」


 すぐにでも冴香に電話を掛けようとしていた俺だったが、敬吾に指摘されて確認してみると、確かに冴香からラインがきていた。内容は、やはり直接会って、今までの礼が言いたいので、時間を作れないかとの事。

 何だよ、今までの礼って!! まるで最後の別れみたいじゃねーか!!


 瞬時に冴香に問い詰めようとしたものの、電話を掛けても繋がらない。居ても立っても居られずに何度も何度も掛け直し、何回掛けたかも忘れた頃、漸く電話が繋がった。


 「冴香!? やっと出た……。お前、今まで何していたんだよ!?」

 開口一番、思わず今までの苛立ちをぶつけてしまった。


 『すみません。ラインを送ってから、ずっと大河さんからの連絡を待っていたんですが、待ち切れなくなってしまって、先にお風呂に入っていたので出られませんでした。』


 平然とした冴香の声が返ってきて、俺は思わず溜息をついた。冴香の言い分はもっともだ。これに関しては、俺が全面的に悪い。落ち着け、俺。


 「悪い。けど冴香、お前、何で出て行っちまったんだよ? ……祖父さんの婚約解消の話、本当に了承しちまったのか?」

 頼むから否定してくれよ。そう祈っていたのだが……。


 『すみません……。ラインでも送ったのですが、もし良ければ後日、改めてお会いして、直接お話しさせて頂けないでしょうか?』


 冴香の返事は、謝罪だった。つまり、婚約解消を了承した、と言う事なのだろう。

 心に、ぽっかりと穴が開いてしまったような気がする。

 色々あって訊けなかったし、何よりも俺自身が、時間が経つに連れ確認するのが怖くなっていたのだが……、やはりあの時、冴香が『好き』と言ってくれたのは、恋愛的な意味ではなかったようだ。


 「……分かった。」

 がっくりと肩を落として返事をしながらも、俺は何とかして冴香に思い直してもらえないかと、気持ちばかり焦っていた。


 「後日って何時だよ? 俺は明日朝一で出張なんだ。金曜まで帰って来れない。もう遅いけれど、今からでも会えないか?」

 暫くの沈黙の後。


 『今日はもう遅いですし、大河さんも明日朝早いのなら、もうお休みになられた方が良いのではないでしょうか? ……私も、今日は色々あって、疲れてしまいました。』


 俺は思わず、溜息を漏らしてしまった。だが仕方がない。冴香は今日引っ越しをしたのだから、疲れていて当然だ。週末まで会えないのは辛いが、冴香に無理をさせる訳にはいかない。それに、お互いに起こった事を整理して、これからの事を考える時間が必要なのかも知れない。


 「……そうか、分かった。じゃあ、金曜で良いか?」

 『はい。大河さんがお疲れでなければ。』

 「分かった。また連絡する。」

 電話を切った俺は、項垂れて頭を抱えたまま、暫くの間動けなかった。


 こんな状態のまま、一週間も過ごせって? 無理だ。

 すっかり気落ちしてしまった俺だったが、凛と敬吾に宥めすかされながら、何とか出張の準備をする。こんな時に思うのも何だが、二人が泊まってくれていて本当に良かった。俺一人だったら、どうなっていたか分からない。


 翌朝からの俺は、何かに取り憑かれたかのように、ひたすら仕事をこなしていたらしい。らしい、と言うのは、俺がその一週間を殆ど覚えていないからだ。何処にいても、何をしていても、心は空虚なままで。俺にとって、冴香がどれ程大きな存在になっていたか、と言う事を、ただただ思い知らされただけの一週間だった。

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