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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

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77/130

77.胸を占める不安

大河視点です。

 「ハックション!」

 会社に着き、車から降りた瞬間に、俺は盛大なくしゃみをしてしまった。何故か背筋に悪寒が走る。


 「風邪か? 大河。」

 「分かんねえ。何か急に寒気がして……。」

 「俺にうつすなよ。」


 助手席から降り、先を行く敬吾の背中を睨み付ける。昨夜から居候と化したこいつに、宿と飯と通勤の足まで提供してやっている状態だってのに、冷てーじゃねえかこの野郎。


 敬吾の後を追い、並んで営業部に向かいながら、俺は溜息をついた。

 何だって凛の奴は俺の家に転がり込んできたんだか。俺を見張る為だとか言っていたが、俺だってもう冴香に逃げられるのは二度と御免だ。今後はいきなりじゃなくて、ちゃんと冴香の様子を窺いながら距離を詰めていきたいのに、折角の冴香との二人の生活を邪魔されているように思えてしまって、どうにも苛々してしまう。


 苛立ちを仕事にぶつけたお蔭で、午前中は思った以上に仕事が捗った。昼休みになり、敬吾と連れ立って食堂に向かう。


 「午前中ずっとこれが楽しみで仕方なかったんだよなー。」


 弁当箱の蓋を開けながら、敬吾が嬉しそうに呟く。冴香は俺達全員の分の弁当を用意してくれていた。急に押し掛けて来たこいつらの分まで作らなくても良いのにと、能天気な敬吾の顔を見ていると何だか腹が立ってくる。

 いかんいかん、度量が狭過ぎるぞ、俺。


 「あれ? 本城君もお弁当なんて、珍しいね。しかも大河と中身一緒じゃない?」


 するりと隣に座った谷岡が、俺と敬吾の弁当箱を交互に見比べながら指摘した。

 おい、俺達は何時から昼飯を一緒に食べる仲になったんだよ。まあ、どうでも良いんだが。


 「うん。冴香ちゃんが俺にも弁当作ってくれたんだ。」

 「そうなの!? うわー良いなー羨ましい!」

 「念の為に言うが、盗るなよ?」


 無駄に目をキラキラと輝かせて弁当箱を見つめる谷岡に危機感を覚え、俺達は弁当箱を抱えて谷岡から距離を取った。何せ、こいつは前科があるからな。肉団子の恨みは忘れねえ。


 「そんなに警戒しなくても良いじゃない。大丈夫、ちょっとだけだから。」

 笑顔を浮かべて箸を向けてくる谷岡。


 何が大丈夫だ。窃盗にちょっともくそもあるか。

 虎視眈々と弁当箱の中身を狙ってくる谷岡を警戒しながら昼飯を食う。くそ、何故こうなった。


 「それにしても、何で本城君まで冴香ちゃんにお弁当を作ってもらえるようになったの?」

 「ああ、実は訳あって、今俺彼女と一緒に大河達の所に転がり込んでいるんだよね。」

 「そうなの!? 大河、冴香ちゃんとの仲、進展どころか後退していない?」

 谷岡はまるで憐れむような視線を俺に寄越してきた。


 「心配される謂れはない。この間、俺達は両想いだと確認し合ったからな。」

 「「ええ!?」」

 二人が上げた声が大き過ぎて、俺は思わず顔を顰めた。


 「本当かよ!? 何時の間に……。でも良かったな、大河。よし、暫くはお前が冴香ちゃんに手を出さないように見張っておいてやる。」

 「要らんわ! てかさっさと出て行け!」

 「凛が居る限りそれは無理だな。」


 言い合う俺達の傍らで、谷岡は何やら考え込んでいる。


 「……ねえ大河、本当に冴香ちゃんは貴方の事、好きだって言ったの?」

 「ああ。言ったけど?」

 「……それ、本当にそういう意味で、好きって言っていたの?」


 真面目な表情で尋ねてくる谷岡に、俺は言葉に詰まってしまった。

 確か、あの時冴香は……。


 『……そりゃあ、好きか嫌いかの二択なら、好きに決まっているじゃないですか。』

 その言葉を思い出した途端、俺はさーっと血の気が引いていくのを感じた。


 「……怪しいわね。」

 「ああ。怪しいな。」

 「大河、もう一度、冴香ちゃんの気持ちをちゃんと確認した方が良いんじゃない?」


 谷岡と敬吾に訝しげに言われ、俺は段々自信がなくなってきた。

 冴香が俺の事を好きだと思ってくれている事は間違いないだろう。だが、それは本当に、俺が思っているのと同じ『好き』なのか? 考えたくはないが、恋愛的な『好き』じゃなくて、人間として『好き』という意味だったら……? 俺、つい浮かれて、あいつにキスしちまったんだけど……っ。


 徐々に膨らむ疑念に焦りを感じた俺は、すぐにでも冴香に問い質したくなった。だがそれは出来なかった。冴香と二人きりでちゃんと面と向かって訊きたいのに、家に帰っても、冴香の傍にはほぼ常に凛がべったり張り付いている。おまけに敬吾も同じ空間にいるとなれば、とてもじゃないが落ち着いて冴香に尋ねる機会など無い。くそ、こんな時に限って。

 日に日に大きくなっていく不安をどうしようも出来ないまま、二日が過ぎていった。

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