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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

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75.冴香と俺と、勝手な幼馴染達

74話、大河視点です。

 家に戻った俺は、何をする気にもなれなくて、ソファーに倒れ込んでぼーっとしていた。いつもなら今頃は、冴香と一緒に夕食を摂っている時間だ。腹も減っている。だが俺は起き上がって、何かを食べる気にはならなかった。


 家に冴香が居ない。たったそれだけの事で、こんなにも打ちのめされる。冴香が居ない家は、暗くて、静かで、孤独を感じさせた。冴香が家に来るまでの自分がどう過ごしていたかなんて思い出せないくらいだ。凛は冴香が落ち着くまで、と言っていたが、このまま家に戻って来なかったらどうしよう、という不安が胸を押し潰していく。

 そんなのは嫌だ。冴香、頼むから帰って来てくれよ。


 不安から逃げるように、俺は立ち上がり、冷蔵庫からビールを取り出した。一缶、二缶と空けていくが、いくら飲んでも酔う事が出来ない。このまま冴香が帰って来なかったら、俺は酒浸りになって、ダメ人間になる自信がある。


 何缶ビールを空けただろうか。ふと玄関の扉が開いたような音がして、俺は我に返った。

 もしかして、冴香が帰って来たのか!?

 俺が急いで玄関に向かおうと、廊下に続くドアに手を掛けた時、ドアが開いて冴香が姿を見せた。


 「冴香!!」

 ほっとして冴香を腕の中に閉じ込めた。


 「良かった……もう帰って来ないかと思った。」

 自分でも驚く程、声が震えていた。それだけ冴香の存在が、俺にとって大きくなっていたのだと思い知らされる。


 「ご心配をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした。それに、大河さんのお気持ちが信じられなくて、疑ってしまって本当にすみませんでした。」


 心底申し訳なさそうに謝る冴香。

 いや、謝るのは俺の方だ。俺は片膝を突いて、冴香と視線を合わせた。


 「俺の方こそ、悪かった。俺の気持ちばかり押し付けて、お前の気持ちを全然思い遣れてなかったよな。もう急がねーし、お前のペースに合わせるから、もう何も言わずに逃げ出すのは止めてくれ。」

 「はい。これからは逃げずに向かい合えるように努めますので、これからもどうか宜しくお願いします。」


 冴香の言葉が、本当に嬉しかった。

 冴香が、これからも家に居てくれる!


 「俺の方こそ! これからも宜しくな。」

 俺が満面の笑みで冴香に言った時だった。

 

 「良かったわね。仲直り出来て。」

 ギョッとして声がした方を見ると、凛が冴香の真後ろで、壁に寄り掛かって微笑んでいた。


 「凛! 何でここに!?」

 「何でって、冴香ちゃんを送って来たに決まっているでしょうが。後、私今日からここで寝泊まりする事にしたから。」

 「「ええ!?」」


 立ち上がった俺は冴香と同時に声を上げた。

 凛がここで寝泊まりする!? つまり、凛と一緒に暮らすって事か!? 何でだよ!? 勘弁してくれよ!!


 「何でお前が俺の家に泊まる事になってんだよ!?」

 「そんなの決まっているじゃない。大河君が想いを拗らせて暴走して、まだ完全に落ち着いていない冴香ちゃんを無理矢理襲ったりしないように見張るのよ。」

 「そんな事する訳ねーだろ!! 大体、敬吾はこの事知ってんのかよ!? いくら冴香が居るとは言え、あいつが自分以外の男とお前が同棲するなんて認めるとは思えねえ! 俺あいつに恨まれるのはご免だぞ!」

 「そうね。今から電話するわ。」

 しれっと答えながらスマホを取り出し、電話をかけ始めた凛に脱力して頭を抱える。


 お前、敬吾の彼女のくせに、あいつに何も言っていなかったのかよ!? いくら俺が幼馴染で、冴香も一緒とは言え、お前が他の男と一緒に暮らすなんて事、敬吾がそう簡単に認める訳がないだろうが!


 「やっぱり、敬吾さんと長年付き合っている彼女さんって、凛さんの事なんですよね?」


 冴香が俺を見上げて尋ねてきた。

 そうか、冴香は凛と初対面だった筈。まだ凛が敬吾の彼女とは、知らなかったんだな。


 「ああ。俺や従弟達の遊び相手だった幼馴染同士で、何時の間にかくっ付いていたんだよ。ったく、敬吾があいつを選んだ理由が、俺は今一分かんねえ。」

 「そうですか? 私は分かるような気がしますけどね。」


 まるで尊敬するかのような視線を凛に送る冴香。確かに傍から見れば、凛は面倒見が良くて、下手な男よりも余程男前で、比較的何でも出来る美人なんだろうな、とは思う。だが俺にとっては、ガキの頃から口煩くて、無駄に気が強い、苦手な幼馴染だ。


 暫くして電話を切った凛が、俺の方を向いてにっこりと笑った。

 やべえ、嫌な予感しかしねー。


 「敬吾も今から来るって。私と一緒に、暫く泊まり込むそうよ?」

 「はあ!? 冗談じゃねえぞ!! 何でそうなったんだよ!!」


 俺の抗議は軽く受け流され、凛は勝手に荷物を運び込んで行く。何がどうなっているのかは良く分からないが、厄介事が増える予感しかせず、俺は天を仰いで溜息を吐き出した。

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