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74.同居人が増えました

 「勿論よ! 冴香ちゃんから言ってもらえるなんて、光栄だわ!」


 何故か大荷物を抱えた凛さんのバイクの後ろに乗せてもらい、大河さんの家まで送ってもらっている最中、凛さんに友達申請を快く了承してもらえた私は、安堵と嬉しさで表情を緩ませた。


 「ありがとうございます! ご迷惑をお掛けする事もあるかと思いますが、これから宜しくお願いします。」

 「こちらこそ宜しくね。冴香ちゃんは迷惑とか気にしないで、どんどん頼ってくれて良いからね。」

 「はい。ありがとうございます。」

 凛さんの腰に回す手に、少しだけ力を込める。有り難さで胸がいっぱいになった。


 「本当に頼ってよ? 冴香ちゃんは、昔の私と似ているから少し心配なんだ。何でも一人で抱え込み過ぎて、自分でも気付かないうちに、自分を追い詰めてしまうんじゃないかって。」


 信号待ちで止まった時に、凛さんが振り返って苦笑し、私は凛さんを見上げた。


 「以前の凛さんと、私が、似ているんですか?」

 「うん。私も、色々抱え込んじゃうタイプだったからね。年上なんだから、皆の面倒を見なくちゃとか、将来の事を考えれば、これくらいの事は出来るようにならなくちゃとか、色々溜め込んで、何時の間にか自分で自分を追い詰めてしまっていたのよね。自分ではどうしようもない事があって、精神的に参ってしまった事があったんだけど、その時に敬吾が、俺も居るんだから、って。同じ立場なんだし、一つ年下だから頼りないのかも知れないけど、俺を頼れよって言ってくれて。その時に、人に頼る事を覚えて、私は凄く楽になれたの。」

 凛さんはそう語ると、少し照れたように笑った。


 「私と同じ過ちを、冴香ちゃんにはして欲しくないのよ。だから、色々頼りにしてもらった方が、私は嬉しいわ。」


 凛さんがそう言って片目を瞑って見せた。美女がすると様になっていて格好良い。思わず見惚れていると、信号が青に変わり、バイクが音を立てて再び走り出した。私は凛さんの言葉を反芻しながら、もう一人じゃない嬉しさを噛み締めると共に、これからはちゃんと人に頼る事を覚えていこうと思った。


 凛さんのバイクはあっと言う間に大河さんのマンションに着き、私は凛さんと二人で大河さんの部屋の前まで移動した。迷惑をかけてしまった手前、何となく入りづらいが、意を決して玄関に踏み込む。廊下からリビングに続くドアを開けた瞬間。


 「冴香!!」


 いきなり大河さんに抱き締められて、私は狼狽えた。


 「良かった……もう帰って来ないかと思った。」

 大河さんの声は震えていて、息はお酒の匂いがした。


 「ご心配をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした。それに、大河さんのお気持ちが信じられなくて、疑ってしまって本当にすみませんでした。」

 精一杯の気持ちを込めて、大河さんに謝罪する。大河さんは腕の力を緩めると、片膝を突いて、私と視線を合わせた。


 「俺の方こそ、悪かった。俺の気持ちばかり押し付けて、お前の気持ちを全然思い遣れてなかったよな。もう急がねーし、お前のペースに合わせるから、もう何も言わずに逃げ出すのは止めてくれ。」

 「はい。これからは逃げずに向かい合えるように努めますので、これからもどうか宜しくお願いします。」

 私が頭を下げると、大河さんは嬉しそうに破顔した。


 「俺の方こそ! これからも宜しくな。」

 「良かったわね。仲直り出来て。」

 振り向くと、凛さんが真後ろの壁に寄り掛かって微笑んでいた。


 「凛! 何でここに!?」

 大河さんは凛さんの存在に今気付いたようだ。


 「何でって、冴香ちゃんを送って来たに決まっているでしょうが。後、私今日からここで寝泊まりする事にしたから。」

 「「ええ!?」」


 思ってもみなかった凛さんの発言に、私と大河さんは同時に声を上げた。凛さんが手にしている大荷物は、そういう事だったの?


 「何でお前が俺の家に泊まる事になってんだよ!?」

 凛さんに食って掛かる大河さんの顔色は、心なしか青褪めている。


 「そんなの決まっているじゃない。大河君が想いを拗らせて暴走して、まだ完全に落ち着いていない冴香ちゃんを無理矢理襲ったりしないように見張るのよ。」

 「そんな事する訳ねーだろ!! 大体、敬吾はこの事知ってんのかよ!? いくら冴香が居るとは言え、あいつが自分以外の男とお前が同棲するなんて認めるとは思えねえ! 俺あいつに恨まれるのはご免だぞ!」

 「そうね。今から電話するわ。」


 凛さんはスマホを取り出して耳に当てる。その間に、私は呆れたように頭を抱えている大河さんに確認した。


 「やっぱり、敬吾さんと長年付き合っている彼女さんって、凛さんの事なんですよね?」

 「ああ。俺や従弟達の遊び相手だった幼馴染同士で、何時の間にかくっ付いていたんだよ。ったく、敬吾があいつを選んだ理由が、俺は今一分かんねえ。」

 「そうですか? 私は分かるような気がしますけどね。」

 敬吾さんと思われる電話相手と会話している凛さんを振り返る。


 美人で、強くて、優しくて、誰かの為に骨身を惜しまない凛さん。私は憧れちゃうんだけどな。

 暫くして電話を切った凛さんは、大河さんににっこりと笑って見せた。


 「敬吾も今から来るって。私と一緒に、暫く泊まり込むそうよ?」

 「はあ!? 冗談じゃねえぞ!! 何でそうなったんだよ!!」


 騒ぎ立てる大河さんを軽く受け流して、凛さんは荷物を運び込んで行く。何がどうなっているのかは良く分からないが、私はお二人が加わるこれからの生活が、楽しみに思えて胸をときめかせていた。

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