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67.俺と冴香の気持ち

65~66話、大河視点です。

 「冴香さんは今、大河と暮らしてもらっているが、本当にそれで良かったかな?」


 祖母さんの古稀祝いがお開きになった帰り際、祖父さんが冴香に唐突にした質問に、俺は愕然とした。


 「祖父さん、それはどういう意味だよ!?」


 まさか、冴香との今の生活がなくなるんじゃないだろうな!?

 そんな焦燥感に駆られながら、俺は祖父さんを詰問する。


 「うむ。冴香さんを堀下家から脱出させる為に、大河と婚約させて同棲してもらったが、今も尚、無理をしてまで同棲させ続ける必要はないかと思ってな。冴香さんが望むのなら、今からでも、希望に合う環境を用意しようと思ったまでだ。」

 「なっ……!? そんな勝手な「大河。お前には訊いていない。」


 俺の抗議は、祖父さんにピシャリと遮られる。俺を一睨みした祖父さんは、冴香に柔らかい微笑みを向けた。


 「どうかな? 冴香さん。女性の一人暮らしに適した物件でも、何なら他の孫達との同棲でも、すぐに手配させますよ。勿論、冴香さんの希望を最優先しますがね。」


 冴香の見開かれていた目が元に戻る。まだ動揺しているような表情で考え込んでいるものの、その内心までは窺い知る事が出来ない。


 確かに冴香との同棲は、親父が婚約と同時に勝手に決めてきて、無理矢理始めさせられた。最初は嫌で、冴香を追い出そうとすらしたが、冴香の事情を知り、衣食住を保障する代わりに家事をしてもらう約束で、今日まで一緒に暮らしてきた。

 俺にとっては、今では冴香との生活に馴染み過ぎて、冴香が居なくなる事など考えられないし、考えたくもない。いや、俺が冴香を好きだから、今まで通り冴香と一緒に居たい。

 だけど、冴香はどうなのだろうか。冴香は堀下の家を出る為に、婚約と同棲を受け入れた。その相手が偶々俺だったから、俺と今まで同棲してきた訳だが、それは裏を返せば、別に誰でも良かったのではないだろうか。もしかしたら、それは今でも……? 衣食住が保障されさえすれば、俺は居なくても構わないのか……?

 ゾクリ、と背筋に悪寒が走る。頼むから、断ってくれ! と願いながら、冴香の答えを待った。


 「私は……大河さんがお嫌でなければ、今のまま、大河さんの所でご厄介になりたいのですが……。」

 ちらりとこちらを窺いながら、冴香が口にした答えに、俺は心底安堵した。


 「勿論、構わねえよ。これからも宜しくな。」

 「はい。こちらこそ、不束者ですが、引き続き宜しくお願いします。」


 俺と冴香は、顔を見合わせて互いに微笑み合った。

 本当に良かった。やばい、マジで涙が出る程嬉しい。


 「冴香さん、理由を訊いても良いかな?」

 「俺も訊きたい。」

 「僕も。」

 不満げな従弟達が尋ねると、冴香はけろりとして返答した。


 「えっと、私は今の生活環境に慣れてしまいましたし、大河さんのご自宅がアルバイト先にも近くて便利ですので、今更この環境を変えたいとは思いません。……それに、私が家事を一手に引き受けていますので、私が大河さんの家を出るような事になれば、大河さんの生活環境に不安を覚えますので。」


 そんな理由なのかよ!

 俺は少し泣きたくなった。やっぱり冴香は、俺が冴香を想う程、俺の事を想ってはくれていないようだ。分かってはいた筈なのに、落胆が大きい。少しくらいは、俺と一緒に居たいとか、思っていて欲しかった。


 遣る瀬無い思いで家に帰る。冴香が作ってくれた夕食を一緒に食べても、心は癒されなかった。

 冴香は俺の事を、どう思っているのだろう。今すぐにでも聞きたい。何よりも、冴香の気持ちが知りたい。

 居ても立っても居られなくなって、冴香を呼んでソファーの隣に座らせた。


 「なあ、冴香……。お前、俺の事、どう思っているんだ?」

 「どう、と言われましても……。大河さんには、とても感謝しています。家に置いて頂けて、環境も良くしてくださってますし。」

 「そんな事を訊いてんじゃねえ! お前は、俺の事、男としてどう思っているんだって訊いているんだ。」


 俺は思わず冴香の両肩を掴んだ。訊いてから、少しだけ後悔した。何とも思われていなかったらどうしよう。かなり凹む。

 縋る思いで、冴香の返答を待った。


 「大河さんは、男性として、凄く魅力的な方だと思いますよ。イケメンで背も高くて格好良いですし、口は悪いですけど優しくて、困っている人を放っておけない方ですし。大抵の女の人は、大河さんの事を好きになると思います。」


 そうじゃなくて!

 俺は思わず、冴香の両肩を掴む手に力を込めた。

 一般論なんて聞いていない。冴香が、俺をどう思っているのかが知りたいんだ!


 「お前はどうなんだよ。」

 「え……?」

 「大抵の女は、じゃなくて! お前はどうなんだって訊いてんだよ! ……お前は、俺の事、少しも男として意識していないのか? それとも、俺の事、嫌いなのかよ?」


 自分で訊いておいて、自分で凹んできた。

 嫌い……そうなのかも知れない。初対面の時、俺は冴香の事情も知らずに、財産目当ての玉の輿狙いかと勝手に決め付けて追い出そうとした。同棲するようになってからも、大人気なく口喧嘩しているし、しょっちゅう可愛くないとか言ってしまっているし。嫌われても仕方ない事をしてきたかも知れないと、今更ながら後悔する。


 「何言っているんですか? 私が大河さんを、嫌いになる訳がないでしょう!?」

 冴香が即座に否定してくれて、俺は救われた思いがした。


 「じゃあ好きなのか?」

 咄嗟に勢いで尋ねると、冴香は一瞬躊躇って俯き、呟くように、でもはっきりと言ってくれた。


 「……そりゃあ、好きか嫌いかの二択なら、好きに決まっているじゃないですか。」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず冴香を抱き締めていた。

 冴香が俺の事を、好きって言ってくれた!! 嘘じゃないよな!? 聞き間違いじゃないよな!?


 「本当だな、冴香!? 俺の事、好きなんだな!?」

 「……だからそう言っているじゃないですかっ。」


 スゲー嬉しい!!

 俺は暫くの間、幸福感に包まれながら、そのまま冴香を抱き締めていた。そしてふと、冴香には気持ちを言わせておいて、俺は何も告げていない事に気付く。

 しまった! 男として情けないが、俺も早く気持ちを伝えないと。


 「冴香、凄く嬉しい。……俺も好きだ。」

 「へ?」


 冴香に告白したら、何とも間抜けな声が返ってきた。

 そしてあろう事か頭突きされた。ゴチンと良い音がして、一瞬目の前がくらっとした。


 「痛えな! 何で頭突きするんだよ!?」

 「……どうやら熱はないみたいですね。あ、でも今は私も顔が熱くなっているから、参考にならないかな? ちょっと待っててくださいね。今体温計持って来ますから。」

 「またそれかよ!? 必要ねえし! 熱なんてねーから!」


 体温計を取りに行こうとした冴香を、慌てて再度腕の中に閉じ込める。

 折角の告白を、熱のせいなんかにされてたまるか!


 「冴香。俺の言葉が信じられないか?」

 「はい。全く以て信じられません。」

 疑わしげな視線を寄越しながら、即答する冴香にむかっ腹が立つ。


 そこまで信じられないと言うのなら、実力行使で分からせてやる!

 俺は両手でがっしりと冴香の顔を固定し、触れるだけのキスをした。もっと深く、冴香の唇を貪り尽くしたいという欲求に駆られながらも、堪えてゆっくりと唇を離す。


 「これで信じたか?」

 呆然としている冴香に尋ねると。


 「……ええええええええぇっ!?」


 冴香は驚く程の大声を上げ、至近距離にいた俺は、その煽りをまともに食らってしまった。

 くそ、耳が痛い。


 「信じられねーなら、もう一回するか?」

 顔を顰めながらも再度迫れば、冴香は慌てて首を振る。


 「いいえっ! 結構ですっ!!」

 「そうか。じゃあ俺が冴香の事好きだって、信じてくれるんだな?」

 「え? ええ!? 好き!? 大河さんが、私を?」

 「信じられねーならもう一回。」

 「いやあのストップ!! 分かった、分かりましたからっ!!」


 冴香の言葉に、俺はにんまりと笑った。多少強引ではあったが、冴香に俺の気持ちを信じさせる事が出来た。そして冴香は俺の事が好きだと言った。つまり、俺達は両想いだ。

 俺は冴香を抱き締めて、その髪を撫でる。

 やばいな、最高に幸せだ。冴香を愛しいと思う気持ちがどんどん溢れ出てきて止まらない。


 「冴香、好きだ。」


 冴香の耳元で囁きながら、髪を撫で、背中を撫で、額や頬にキスを落とす。冴香は大人しく俺に身を任せてくれていて、ますます愛しさが募っていく。

 もう一度、今度は深いキスがしたいと、冴香の顔を上向かせたら、冴香はすっかり目を回して放心状態でくったりしていて、俺は大いに慌てる羽目になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冴香も大河もそれぞれ、自分中心に世界が回っているように感じます。 特に相手の話を聞いているようでいて、自分に都合の良いように変換できるスキルがあるところが
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