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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

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66/130

66.キャパオーバーです

 天宮会長達に見送られ、ほっとした気持ちで帰路に就く。だけど隣の大河さんは、ずっと浮かない顔で運転していた。


 どうしたんだろう? ……もしかして、あの場は取り繕ったけど、やっぱり私との同棲は、本当は嫌だったのかな……?


 そんな不安に襲われるが、問い質す勇気なんて到底ない。もし肯定されてしまったら、私は出て行かなければならなくなる。好きな人に迷惑は掛けられないもの。だけど、そうなったら私には行く場所がない。

 ああ、今なら会長に相談したら何とかなるかな? でも折角構わないって言ってもらえたんだもの。大河さんと一緒に居たいな……。


 そんな事を考えて落ち込みながら、私達は終始無言で家に帰った。夕食の時になっても、気まずい雰囲気のままで食が進まない。何とか食べ終えて後片付けを終えると、大河さんに話があると呼ばれて、隣り合ってソファーに腰を下ろした。

 うう、話って何だろう。やっぱり同棲は迷惑だって言われてしまうのかな。


 「なあ、冴香……。お前、俺の事、どう思っているんだ?」


 予想外の質問に、私は目を見開いた。大河さんは真剣な表情で私をじっと見つめている。


 「どう、と言われましても……。大河さんには、とても感謝しています。家に置いて頂けて、環境も良くしてくださってますし。」

 「そんな事を訊いてんじゃねえ! お前は、俺の事、男としてどう思っているんだって訊いているんだ。」


 大河さんに両肩を掴まれて、私はますます当惑した。

 何で、大河さんは、こんな事を私に訊いてくるんだろう?


 「大河さんは、男性として、凄く魅力的な方だと思いますよ。イケメンで背も高くて格好良いですし、口は悪いですけど優しくて、困っている人を放っておけない方ですし。大抵の女の人は、大河さんの事を好きになると思います。」

 何を今更、と思いながら、本人も分かり切っているであろう事を返答する。


 「お前はどうなんだよ。」

 「え……?」

 掴まれたままの両肩に、力が込められるのを感じた。


 「大抵の女は、じゃなくて! お前はどうなんだって訊いてんだよ! ……お前は、俺の事、少しも男として意識していないのか? それとも、俺の事、嫌いなのかよ?」


 大河さんの顔が辛そうに歪んだ。

 え? いやいやいや、ちょっと待って!


 「何言っているんですか? 私が大河さんを、嫌いになる訳がないでしょう!?」

 「じゃあ好きなのか?」


 大河さんの質問に、一瞬たじろいだ。だけど、答えなんて決まっている。


 「……そりゃあ、好きか嫌いかの二択なら、好きに決まっているじゃないですか。」


 多分今、私の顔は真っ赤になっている事だろう。そう思いつつ、恥ずかしくて俯きながら呟くように告げると、大河さんにぎゅうっと抱き締められた。


 「本当だな、冴香!? 俺の事、好きなんだな!?」

 「……だからそう言っているじゃないですかっ。」


 こんな恥ずかしい事、二回も言わさないでくださいよ!

 好きだなんて言わされた上に、大河さんに抱き締められて、心臓がバクバクしっ放しだ。暫くして腕の力が緩められ、漸く大河さんが離してくれる気配がしたと思ったら、至近距離に大河さんのドアップが迫っていた。嬉しそうな笑顔を浮かべる大河さんの目が、今まで見た事もない程、熱を帯びていて艶っぽくて、ああ、男の人の色気って、こういう事を言うんだな、なんてどうでも良いような事を、頭の片隅で思っていた。


 「冴香、凄く嬉しい。……俺も好きだ。」

 「へ?」

 何とも間の抜けた声が、私の口から零れ落ちた。


 え? 今大河さん何て言ったの? 私の事好きって言ったの? いやちょっと待って何それ有り得ない!!

 私は咄嗟に、大河さんの顔に両手を添えて、大河さんの額と自分の額をくっ付けた。と言うよりも、勢い余ってぶつけてしまった。ゴチン、と良い音がしたが、今はそれどころではない。


 「痛えな! 何で頭突きするんだよ!?」

 「……どうやら熱はないみたいですね。あ、でも今は私も顔が熱くなっているから、参考にならないかな? ちょっと待っててくださいね。今体温計持って来ますから。」

 「またそれかよ!? 必要ねえし! 熱なんてねーから!」


 大河さんの腕から抜け出して体温計を取って来ようとしたが、必要ないと大河さんに否定され、私は再び抱き込まれてしまった。


 「冴香。俺の言葉が信じられないか?」

 「はい。全く以て信じられません。」


 当たり前だろう。大河さんならどんな絶世の美女だって選びたい放題なのに、何処をどう間違えて、こんな背が低くて可愛げのない、ひねくれた小娘に告白してくるんですかね?

 きっぱりと即答すると、眉根を寄せて不機嫌面になった大河さんに、両手でしっかりと顔を固定される。大河さんの顔が急に眼前に迫って来たと思った瞬間、唇にふにっとした何かが押し当てられた感触がした。


 ……え?

 ドアップになっていた大河さんの顔が、ゆっくりと離れていく。


 「これで信じたか?」


 再び焦点のあった大河さんの眼差しは、真剣そのもので。

 えーと、ちょっと待って、今のって……キス?


 「……ええええええええぇっ!?」

 私は自分でも吃驚する程の大声を上げた。


 え、ちょっと待って、何が起こったの!?


 「信じられねーなら、もう一回するか?」

 私の大声に顔を顰めながらも、大河さんが再び迫って来て、私は慌てた。


 「いいえっ! 結構ですっ!!」

 「そうか。じゃあ俺が冴香の事好きだって、信じてくれるんだな?」

 「え? ええ!? 好き!? 大河さんが、私を?」

 「信じられねーならもう一回。」

 「いやあのストップ!! 分かった、分かりましたからっ!!」


 私が必死に叫ぶと、大河さんはにんまりと満足げな笑みを浮かべた。再びぎゅっと私を抱き締めて、私の髪を撫でながら耳元で囁く。


 「冴香、好きだ。」

 私の髪や背中を慈しむように撫でながら、時折思い出したように、額や頬にキスを落としていく大河さん。


 いやあの何これ有り得ない。お願いだから、誰か何がどうなっているのか教えて。えーと、あ、これは夢だ。うん、きっとそうだ。

 大河さんの腕の中で、完全にキャパオーバーを起こした私は、思考を停止して硬直したまま、大河さんにされるがままになっていた。

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