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65.一緒に居たいです

 和子さんの古稀祝いがお開きになり、皆が帰り支度を始める。


 「冴香さん、今日はどうもありがとう! また是非遊びに来て頂戴ね!」

 名残惜しそうな和子さんと、軽く握手を交わす。


 「こちらこそ、今日はお招きいただいてありがとうございました。後、麗奈さん達にお力添えしてくださって、とても感謝しています。」

 「何を言っているの。お礼を言うのはこちらの方よ。孫娘の力になってくださって、本当にありがとう。それから、クッキーも本当に嬉しかったわ! あまりにも美味しそうだったから我慢出来なくて、さっき一枚頂いちゃったの。とても美味しかったわ!」

 「本当ですか? 気に入って頂けて良かったです!」

 和子さんに、美味しい、と喜んでもらえて、私も肩の荷が下りた。


 「冴香さん、大河君、今日は本当にありがとう!」

 「お二人共、本当にありがとうございました。」

 嬉しそうにお礼を言いに来てくれた麗奈さんと新庄さんに、思わず顔が綻んだ。


 「私は大した事はしていません。お礼なら大河さんに言ってください。」

 「別にどうって事ねえよ。まあ、精々仲良くな。」

 「勿論です。」

 私の隣に立つ大河さんに、はっきりと答えた新庄さんは、麗奈さんと顔を見合わせて微笑み合った。


 「……小さい頃は、『パパのお嫁さんになる』って言っていたのに……。」

 「もう、貴方ったら。何時の話よ。」

 涙目で呟く貴大さんを、困り顔の麗子さんが宥める光景に、私達は顔を見合わせて苦笑する。


 「冴香さん、一つ訊きたい事があるのだが。」

 急に背後から声がして、吃驚して振り返ると、何時の間にか私の後ろには、天宮会長が立っておられた。


 「冴香さんは今、大河と暮らしてもらっているが、本当にそれで良かったかな?」

 「え……?」

 突然の会長の申し出に、私はすぐにはその意味を理解出来なかった。


 「祖父さん、それはどういう意味だよ!?」

 私の代わりに、大河さんが即座に問い返してくれた。


 「うむ。冴香さんを堀下家から脱出させる為に、大河と婚約させて同棲してもらったが、今も尚、無理をしてまで同棲させ続ける必要はないかと思ってな。冴香さんが望むのなら、今からでも、希望に合う環境を用意しようと思ったまでだ。」


 会長の説明に、私は動揺した。

 それって……私は大河さんの家を出た方が良い、っていう事なんだろうか?


 「なっ……!? そんな勝手な「大河。お前には訊いていない。」


 大河さんの抗議は、会長にピシャリと遮られた。大河さんをじろりと一睨みした会長は、今度は私に視線を移して微笑んだ。


 「どうかな? 冴香さん。女性の一人暮らしに適した物件でも、何なら他の孫達との同棲でも、すぐに手配させますよ。勿論、冴香さんの希望を最優先しますがね。」


 私の希望を優先してくれる、と聞いて、私は少し安心した。だけど、どうしてそんな事を仰るのだろう、と戸惑う気持ちの方が大きい。


 私の気持ちを優先してもらえるのなら、今まで通り大河さんと一緒に生活したい。今の環境にも慣れたし、それに……何よりも、大河さんの事が好きだから。

 だけど、大河さんの方はどう思っているんだろう。大河さんとの婚約と同棲は、天宮会長と将大さんが、大河さんの意思を無視して進めた事だ。だから最初は嫌がられたし、追い出そうとすらされたけれど、私の事情を理解してもらって、家事を引き受ける代わりに、家に置いてもらうという約束で、今日まで一緒に暮らしてきた。

 いずれは大河さんの家を出なければならないとは分かっているけれど、私はその日が来るまでは、大河さんと一緒に居たい。だけど、大河さんは……? もしかしたら、今でも私の存在を疎ましく思っているのだろうか? だから、会長はこんな事を言い出してきたのかな?


 不安になって、ちらりと大河さんの方を窺う。大河さんは、思い詰めたような表情で私を見つめていた。その表情をどう捉えたら良いのか分からない。私は、今まで通り大河さんの家に居ても良いのだろうか。それとも……嫌がられているのだろうか。

 どうせ分からないのなら……、会長のお言葉に甘えて、希望を口にしてしまっても、良いかな……?


 「私は……大河さんがお嫌でなければ、今のまま、大河さんの所でご厄介になりたいのですが……。」

 大河さんの表情を窺いながら、恐る恐る口にすると、大河さんはほっとしたように口元を緩めた。


 「勿論、構わねえよ。これからも宜しくな。」

 「はい。こちらこそ、不束者ですが、引き続き宜しくお願いします。」


 私と大河さんは、顔を見合わせて互いに微笑み合った。

 良かった、構わないって言ってくれた! 心の底からの安堵で胸がいっぱいになる。


 「冴香さん、理由を訊いても良いかな?」

 「俺も訊きたい。」

 「僕も。」


 納得が行かない、とでも言いたげに、眉間に皺を寄せた大樹さん達が尋ねてきて、私ははっとした。

 これって、もしかして理詰めで説得しないといけないパターンなのかな!?


 「えっと、私は今の生活環境に慣れてしまいましたし、大河さんのご自宅がアルバイト先にも近くて便利ですので、今更この環境を変えたいとは思いません。……それに、私が家事を一手に引き受けていますので、私が大河さんの家を出るような事になれば、大河さんの生活環境に不安を覚えますので。」


 咄嗟に思い付いた理由を並べながら答えると、皆さんは苦笑混じりに頷いておられたり、憮然とした表情で頭を抱えたりされておられた。だけど誰も何も言わない所を見ると、どうやら納得して頂けたらしい。

 良かった、と私は胸を撫で下ろした。

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