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6.上手くやっていけるか不安です

 ぐぎゅるるるー!!


 頭が疑問符だらけになっている私を現実に引き戻したのは、盛大に鳴った私のお腹の音だった。


 「す……すみません。」


 恥ずかしくて顔が熱くなるが、凄い音がするお腹は一向に鳴り止んでくれない。いや確かにお腹はすいているけどさあ、何も大河さんが至近距離にいる今鳴らなくても良いじゃない!


 「すげー音だな。」

 ほら呆れられたー!


 「……朝から水しか口にしていないもので。」

 羞恥のあまり俯きながら言い訳を呟く。


 「は? 水だけ!?」

 「はい。こちらに引っ越した後、お昼前くらいに水道水を飲ませて頂きました。」

 「水道水って……お前、朝も昼も飯食ってねえのかよ!?」

 「はい。朝は異母姉と継母に追い回されて、そのまま食べ損なって。」

 「昼は!? 本城が近所の店とか案内したんじゃないのか!?」

 「お店は色々教えて頂きましたが、お恥ずかしい話、一円も持っていないんです。」

 「マジかよ……。よし、じゃあすぐ何か食べに行くぞ。」


 大河さんが差し出してくれた手を取った私は、急に引っ張られたせいか、ふらついてしまった。思わず蹲ってしまった私を、大河さんが覗き込んでくる。


 「おい、どうした? 大丈夫か?」

 「大丈夫です、すみません。ちょっと貧血気味なだけなので、少し休めばすぐ治ります。」

 私がそう言うが早いか、大河さんは私を軽々と抱え上げてソファーに寝かせてくれた。


 「無理するな。俺が何か買って来てやるから休んでろ。何か食いたい物とか、食べられない物とかはあるか?」

 「すみません……。食べられない物は特にないので、何でも良いです。」

 「分かった。ちょっと待ってろ、すぐ戻る。」


 大河さんをソファーから見送った私は、恥ずかしさと情けなさで消えてしまいたくなった。

 家においてもらえる事になったのは良いけれど、出来れば会ったばかりの人に、痣だらけの身体を見られて、虐待の事を知られる事態は避けたかった。おまけに、お腹と言い貧血と言い、何だってこんな時に。私はこの家に置いてもらう以上、大河さんの役に立たないといけないのに、大河さんをパシらせるなんて論外だ。


 「お待たせ。取り敢えず色々買って来た。起きられるか?」


 戻って来た大河さんがダイニングテーブルの上にビニール袋をドサッと置きながら尋ねた。急いで身を起こそうとした私は、大河さんに窘められ、ゆっくりと起き上がって歩み寄る。


 「随分沢山買って来て下さったんですね。」


 大河さんの手によって、テーブルの上にコンビニの焼き肉弁当、豚カツ弁当、おにぎり、サンドイッチ、お総菜、ペットボトルのお茶と、ビニール袋の中身が豪快にぶちまけられていく。


 「好きなの選んで良いぞ。」

 「ありがとうございます。」


 朝も昼もまともに食べていないから、重そうな物は避けて消化に良さそうな物の方が良いかな、とおにぎりを二つ手に取ると、大河さんに呆れ果てたような顔でダメ出しをされた。


 「そんなんじゃ精が付かねーだろ。お前痩せ過ぎなんだからもっとしっかり食えよな。ほらこれでも食ってろ。」


 私の選んだおにぎりは取り上げられて、大盛りの焼き肉弁当が押し付けられた。

 今好きなの選んで良いって言ったよね? まあ何でも良いんだけど。有り難く頂きます。


 大河さんと向かい合って、黙々と食事を摂る。

 気まずい。何か話した方が良いのかな? でも話題なんて思い浮かばないし。そもそも予想はしていたけど、大河さんがこの婚約を嫌がっている以上、私とはあまり話したくないかも知れないしなぁ。

 ……大河さんと上手くやっていけるのかな、私。


 不安になってちらりと窺うと、眉根を寄せながらピーマンの卵とじを口に放り込んだ大河さんと目が合った。


 「……何だよ。」

 「あ、いえ。随分沢山召し上がるんだな、と思いまして。」


 大河さんが手にしたおにぎりを見て、私は咄嗟にそう言い繕った。私はまだ焼き肉弁当を半分くらいしか食べていないが、大河さんは既に大盛りの豚カツ弁当を綺麗に平らげ、尚且つおにぎりにも手を出している。


 「これくらい普通だろ。お前が少食なだけなんじゃないのか。」

 「そうかも知れませんね。」


 小学生の頃まではお母さんを困らせる程の大食いだった私だが、あの家に引き取られてからと言うもの、量が少ない食事にも、時折それが抜かれる事にも慣れてしまい、今ではすっかり胃が小さくなってしまった自覚はある。


 「それ食い終わったらおにぎりも食えよ。お前のノルマだからな。」

 「無理です。もう結構お腹がいっぱいで、このお弁当を食べ切るのも辛いくらいです。」

 いくら朝も昼も食べていないとは言え、男性向けの大盛りのお弁当を食べ切るだけで精一杯だ。


 「良いから食え。骨と皮しかないお前は早急に肉を付けなきゃ駄目だ。」

 「無理に食べて戻してしまったら元も子もないと思いますが。」


 私が口答えすると、大河さんは顔を顰めて押し黙った。

 すみませんね、不可抗力とは言え、食事中に汚い話をしてしまって。


 焼き肉弁当は頑張って何とか食べ切り、残ったおにぎりとサンドイッチとお総菜は明日の朝二人で食べる事にした。


 大河さんがお風呂に入っている間に、私は食卓の上を片付け、大河さんと入れ違いにお風呂に入る。広々として開放的なお風呂にテンションが上がり、久し振りにゆっくり湯船に浸かるという贅沢を味わわせてもらった。

 幸せな気分でお風呂から上がり、ソファーに凭れてテレビを見ながらビールを飲んでいる大河さんに挨拶して、部屋に戻らせてもらう。ふかふかのベッドに身を横たえると、昼間あれだけ眠ったと言うのに、もう睡魔が襲ってきた。

 今日一日、色々あったからだろうか。それとも日頃の疲れかな……。

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