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59.仲間を増やしたいのですが

 土曜日、総一郎さんが非番だという事で、私はお休みを頂いて、先日に約束した通り、天宮家の方々と一緒に出掛ける事になった。まさか大樹さんの言葉通り、しかもその週のうちに実現するとは思っていなかったので、少し驚いたけれど。


 「冴香さん! こっちこっち!」


 大河さんと一緒に家を出て、待ち合わせ場所に五分程前に着くと、麗奈さんが私達を見付けて手を振ってきてくれた。お兄さんの大樹さんも一緒だ。


 「おはよう、冴香さん。今日は宜しくね。」

 「こちらこそ、宜しくお願いします。」


 挨拶をしながら、大樹さんが手を差し出してきた。握手だと思って私も手を伸ばそうとしたら、私より早く、大河さんが大樹さんの手を握った。


 「今日は宜しくな、大樹。」

 「……こちらこそ。お手柔らかに。」

 固く握手を交わす二人。


 意外だったけど、お二人は仲が良いのかな? その割には、お二人が浮かべている笑顔が何となく引き攣って見えるんだけど、気のせいかな?


 「冴香さん、この間はどうもありがとう。」

 麗奈さんが二人の目を盗みながら、小声で話し掛けてきた。


 「大河君が協力してくれる事になって、凄く心強いわ。来週の件は直也にも話してあるから、金曜日に一緒に伺うわね。直也も是非お礼を言っておいて欲しいって。」

 「私は大河さんにお話ししただけで、お礼を言われるような事は何もしていませんよ。それに、ご家族の方々に認めて頂くのはこれからです。出来る限りお手伝いしますので、一緒に頑張りましょう。」

 「うん、ありがとう! 今まで直也と二人で悩んでいたから、仲間が増えて嬉しいわ。それに、冴香さんは何もしていないなんて事ないわよ。大河君が仲間になってくれたのは、冴香さんが居たからだもの。私達だけじゃ、大河君に相談なんて、考えもしていなかったし。」

 「お前ら、何ひそひそ話してんだ?」

 急に大河さんに声を掛けられ、私達は揃ってビクリと肩を震わせた。


 「この間の事よ。協力してくれるって聞いたわ。ありがとう。」

 大樹さんを気にしながら、麗奈さんが大河さんに耳打ちする。


 「何? 内緒話?」


 大樹さんに話し掛けられて、私は少し焦った。麗奈さんのご家族である大樹さんには、麗奈さんの交際の事を知られる訳にはいかない。


 「え、ええ。大樹さんと大河さんって、仲良いんだなと思いまして。」

 「何でだよ!」


 即座に大河さんに突っ込まれた。だって二人で握手されてましたし、と言うと、何故か二人共頭を抱え出す。


 「お、冴香ちゃん見っけ!」

 「おはよう、冴香ちゃん。もしかして待たせちゃったかな?」

 「いえ、私達も今来た所ですので。」


 広大さんと雄大さんも到着し、皆で映画館へと移動する。

 今日お休みを頂ける事になったと皆さんに連絡した所、こぞって行きたい場所を尋ねられ、特になくて困惑していたら、麗奈さんが、見たい映画があるんだけどどう? と助け舟を出してくれた。何なら貸し切りにしてもらうよ~、と言う雄大さんのラインメッセージには、唖然としながらも全力で遠慮申し上げた。権力って怖い。


 「冴香さん、何か飲みたい物はある?」

 映画館に着くと、笑顔で売店を示す大樹さんに尋ねられた。


 「あ、いえ。大丈夫ですので、お気遣いなく。」

 「大樹君ずりーぞ! 今俺が訊こうと思っていたのに!」

 「冴香ちゃん、ポップコーン食べる?」

 「あ、いやだからお気遣いなく……。」


 広大さんと雄大さんにまで訊かれて戸惑っていると、私の手にポップコーンとアイスカフェオレが乗ったトレーが置かれた。


 「冴香、これお前の分な。要らなかったら俺が食う。」

 「あ、ありがとうございます。じゃあポップコーンの半分以上は大河さんのノルマでお願いします。」

 「お前な……。」


 呆れたような表情を浮かべた大河さんは、私のトレーを取り上げて、手にしていた自分用のアイスコーヒーも乗せた。どうやら持って行ってくださるようだ。大河さんの気遣いが有り難かったけれど、今度は私の頭上で、何故かお三方が大河さんを睨んでいるような気配がする。

 うん、きっと気のせいだろう。


 「あ、冴香さん、もう入れるみたいだよ。行こう!」


 麗奈さんに声を掛けられた瞬間、ゾクリと背筋に悪寒が走り、私は思わず立ち止まった。

 この感覚には覚えがある。誰かが……いや、多分異母姉か継母が、私を敵視するような、蔑むような、そんな悪意のある視線。

 咄嗟に辺りを見回してみたが、人が多くて、知っている顔は確認出来なかった。


 「冴香さん、どうしたの?」

 「あ……いいえ、何でもありません。行きましょう。」


 きっと気のせいだ、と無理矢理自分に言い聞かせて、前売り券を持った麗奈さんの後に付いて行く。

 たとえ気のせいじゃなかったとしても、今は皆さんと一緒だし、人目も多いので、流石にあの二人でも、何か仕掛けてくるとは思えないから、大丈夫な筈。うん、あんな連中の事なんか、一々気にする必要なんてない。気のせいだ気のせい。

 それにしても、今日は気のせいが多いような……きっと気のせいだ。


 既に薄暗くなっているシアター内に入った私達は、麗奈さん、私、大河さん、大樹さん、広大さん、雄大さんの席順で座った。後ろのお三方が若干不満そうにされていたが、早い者勝ちよ、と麗奈さんがぴしゃりと切り捨てる。

 麗奈さんの見たい映画とは、女性向けの恋愛ものだった。人気俳優が主演という事もあってか、女性客とカップルが満席近いシートの大半を占めている。映画はちょっとご都合展開な所はあったけれど、すれ違いが切なくて、じらされて、でも最後はやっぱりハッピーエンドで、私は大いに楽しめた。


 「良かったねー! 私ついつい引き込まれちゃった! 中盤のちょっとじれったい所、私感情移入しちゃったなー。」


 近くのレストランで昼食にしながら、映画の感想を語る。中盤は主人公達が周囲の視線を気にして、お互いが思い悩むシーンだったから、麗奈さんも同じような想いを抱えていたのだろうな、と容易に想像出来た。


 「私もあそこは共感しちゃいました。お互い想い合っているのにって、もどかしかったですよね。大樹さんは、どうでしたか?」


 右隣の麗奈さんの正面に座る大樹さんに話を振ってみる。麗奈さんとの朝の会話を思い出して、麗奈さんのお兄さんである大樹さんにも、仲間になってもらえないかな、と思ったのだ。映画の主人公達に共感してもらえていたのなら、少しは麗奈さんの事を応援してくれるんじゃないかな、なんて少しばかり期待していると、大樹さんはにこりと微笑んだ。


 「俺だったらそんなものは気にせずに、堂々と公表して、反対してくる奴らは全部捻じ伏せてやるのになー、って思いながら見てた。」


 ああ、はい。流石です。捉えどころのない感想をありがとうございます。


 「だから、冴香さんは安心して俺に恋してくれても大丈夫だよ。」

 続いた大樹さんの言葉に、私は危うく飲みかけのスープを噴き出しそうになった。


 「はあ!? 何言ってんだよ! 大樹君抜け駆け禁止!!」

 「良いぞ広大、暫く大樹を黙らせておけ。」

 「冴香ちゃん、大樹君の言う事には耳を貸しちゃ駄目だからね。分かった?」


 隣の席の大樹さんに怒鳴り散らす広大さんを、私の左隣から大河さんが応援し、大河さんの正面から雄大さんが、圧力を感じさせる笑顔を私に向ける。

 分かりました、聞かなかった事にします。


 「ええと……、雄大さんは、映画どうでしたか?」

 「んー、僕は主人公達の気持ちも分からないではなかったかな。でももし僕だったら、大樹君じゃないけど、公表して彼女を守る方を取るけどね。」

 「そうなんですね。」

 雄大さんの返答に、私はもしかしたら仲間になってもらえるかも、と淡い期待を抱く。


 「だから冴香ちゃん、恋に落ちるなら僕にしなよ。」

 「雄大てめえ!」

 「ずりーぞ雄大! 油断も隙もねえな!」

 大河さんが大声を出し、大樹さんに怒鳴っていた広大さんが反転して、今度は雄大さんが怒鳴り付けられている。


 むむ、広大さんにも同じ事を訊きたいのだが、雄大さんにヘッドロックをかけるのに忙しくて、今はそれどころじゃなさそうだ。仕方ない。捉えどころのない回答をした大樹さんと合わせて、推測不能という事にしておこう。

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