49.やっぱり子供なのでしょう
食事会がお開きになり、皆さんと別れ、私と大河さんは電車で帰る。
「凄く楽しかったですね。お料理も美味しかったですし。次に皆さんにお会いするのが楽しみです。」
満員、とは言わないまでも、帰宅ラッシュでそれなりに混んでいる車内で、吊り革に掴まった私は、隣に立つ大河さんを見上げた。
皆さんとは、今度、私が休日にお休みを頂けた時に、一緒に出掛ける約束をした。マスター達に出来るだけご迷惑をお掛けしたくないので、この前みたいに総一郎さんの非番の日が重なった時にお休みを頂くつもりだ。
大樹さんは、近いうちに出掛けられると思うよ、と言っていたが、大樹さんは警察官のお仕事についてお詳しいのだろうか? ……まさか裏で変な圧力が、なんて事はあったりしないよね? まさかね。流石にないよね、うん。
「能天気だな、お前は。最初は乗り気じゃなかったくせによ。」
不機嫌そうな大河さんの声が上から降ってきた。大河さんは食事会の時から、ずっと面白くなさそうな仏頂面をしている。
どうしたんだろう? お料理が口に合わなかったのかな? 美味しかったと思うんだけどな。あ、でもそう言えば、ピーマンが入っていたお皿があったな。もしかしてそのせいなんだろうか?
「確かに最初は少し気後れしていましたけれど、お話ししてみると、凄く良い方々だったので。色々気遣ってくださって、お話しするのも楽しかったですし、あんな素敵な方々が、お友達になってくださったなんて凄く嬉しくて。」
新たに友達と呼べる方々が増えた事が嬉しくて、私の声は自然と弾む。
「お前、詐欺に遭うタイプだな。」
「何でですか。」
「何でもだ。」
意地悪を言ってくる大河さんにムッとする。私はどちらかと言うと用心深い方だと思うし、大丈夫だと思うんだけど。でも、そう思っている人こそ詐欺に遭いやすい、という事なのかな?
どちらにせよ、大河さんのご機嫌が斜めなので、私はそれ以上話し掛けるのは止めた。そして窓の外を見ながら、先程の事に思考を巡らせる。
帰り際、麗奈さんと一緒にお手洗いに行った時に頼まれたのだ。明日の昼、麗奈さん達が通う大学に来てくれないか、と。何やら相談事があるらしく、真剣な表情の麗奈さんに一も二もなく頷いたけれど、考えてみれば会って日もない、友達になったばかりの私に相談事というのは一体何なんだろう。私とは違って、麗奈さんは友達が多そうだし、ご両親もお兄さんもいらっしゃるから、相談相手には事欠かないと思うんだけどな。
そんな事を考えていたら、気付いた時には電車は家の最寄り駅に着いていた。慌てて降りようとするものの、人が多くて動きづらい。焦っていたら、大河さんが私の手を掴んで外に引っ張り出してくれた。
「すみません、ありがとうございます。」
「ったく。逸れんなよ。」
大河さんは私の手を引いたまま階段を上がっていく。もう大丈夫なんだけどな、と思いながらも、周りに人が多いからだと言い訳をして、大きくて温かい手を少しだけ握り返した。改札口で一度手は離れたものの、通り抜けると再び手を繋がれて、心臓がドキリと音を立てる。駅を出て人が少なくなっても、大河さんは手を握ったままだった。
「大河さん、手……もう大丈夫ですよ。」
私は恐る恐る大河さんに声を掛けた。正直、まだ繋いでいたい気持ちはあるが、恥ずかしさの方が先に立つ。この様子を傍から見ると、まだまだ子供な妹の手を繋いで、逸れないようにしているお兄さん、という図式にしか見えないだろうから。
だけど、大河さんは私の言葉に反して、更に手に力を込めてきた。
「お前、歩くの遅いし。」
大河さんの言動を嬉しく思いながらも、私は複雑な気持ちになった。
大河さんから見たら、やっぱり私は子供なんだろうな。だからこうして手を繋いで、逸れないようにしてくれている。決して、そこに特別な想いがある訳じゃない。
せめて、私がもう少し背が高かったら。もう少し女性らしい体型をしていたら。ほんの少しくらいは、私の事を子供じゃなくて、女性として見てくれていたのだろうか。
……って、そんな訳ないか。あんな美人な谷岡さんでさえ、大河さんは振ってしまったのだ。私の見目が多少良くなった所で、大河さんは振り向く事すらないだろう。
そんな事を考えて気落ちしながら、家に帰り着くまで、手を繋いだまま、ずっと無言で歩いていた。




