表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/130

24.素直じゃないあいつ

23話、大河視点です。

 帰宅途中に信号待ちをしていると、少し先にあるケーキショップが目に入った。


 そう言えば女は甘い物が好きだよな。冴香も好きなんだろうか。今日の礼にケーキを買って帰ってやったら、あいつ、喜ぶかな。


 殆ど表情を見せない冴香が喜ぶ所は想像出来なかったが、自分の考えに満更でもない気になった俺は、ケーキショップに寄る事にした。駐車場に車を止め、店内に入ってショーウインドーを覗く。閉店間際という事もあって、置いてあるケーキは種類も数も少なかったが、俺はその中から適当に二個選んだ。


 家に帰り、出迎えに来た冴香に今日の礼を言ってケーキの箱を渡す。どんな反応をするかな、と俺は内心楽しみにしていたが、冴香の反応は予想以上に鈍かった。


 「……これ、私に、ですか?」


 驚いたように目を見開き、ケーキの箱を見つめてから、ゆっくりと顔を上げた冴香。あまりの反応の悪さに、困っているのかと思って焦ったが、嫌いか、と尋ねると勢い良く首を振って受け取ったのでほっとした。

 受け取ってからも、冴香はケーキの箱をじっと見つめるだけ。どうした、と声を掛けると、例によって、何でもありません、と返された。何でもない訳はないと思うが、こいつはいつも話してくれない。表情も乏しいから、何を思っているのか推測すらも出来ない。冴香との間に壁があるようでもどかしい。この先ずっと、こいつはこんな調子で俺に心を開いてくれないんだろうか。キッチンに戻る冴香の後ろ姿を見ながら、俺は無意識のうちに溜息をついていた。


 期待していたような反応は見られなかったものの、夕食の間中、冴香は何処かそわそわしていた。ちらちらと冷蔵庫の方に視線を送っているし、良く見れば嬉しそうな表情をしている気がしなくもない。

 ……これって、もしかして喜んでいるのか?

 その仮説を裏付けるかのように、食事を終えた冴香はすぐに冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。


 「大河さん、有り難く頂きます。大河さんも召し上がりますか?」

 冴香の声はいつもより弾んでいた。


 やっぱり喜んでいたんじゃねえか! 分かりにくい奴だな!

 だがそうと分かった途端、俺は口元が緩んでいくのを感じた。別に俺は食べたかった訳ではないが、偶には良いだろう。冴香と一緒に食べるのも悪くない。


 「そうだな。俺も食うか。冴香、二個入っているから、好きな方取って良いぞ。」


 冴香に選択権を与えれば、冴香はまた少し嬉しそうな表情になった。折角だからとコーヒーまで淹れてくれる。いそいそとケーキの箱を開ける冴香を、俺は微笑ましく思いながら見守っていた。


 「モンブランだ……!」


 箱を開けてすぐに、冴香は目を輝かせた。

 こいつ、モンブランが好きなのか? 適当に選んだけど、好みに合って良かった。

 じっと中身を見つめる冴香に口角を上げていると、不意に冴香の目から涙が零れて、俺は焦った。


 「おい、冴香? どうした!?」


 冴香は一瞬、何の事か分からない、とでも言うように俺の方を見た。それから自分の頬を撫で、漸く涙を流している事に気付いたようだった。


 「すみません、すぐ止まりますから、気にしないでください。」


 あまりにも平然とした冴香の態度に、最初は目にゴミでも入ったのかと思ったくらいだった。だが冴香が目元をいくら拭っても、涙が止まる気配がない。次第に表情が歪んできた冴香に、漸く俺は、こいつが泣いているんだと気が付いた。

 何だよ。すぐ止まるとか言いやがって。泣きたいなら泣けば良いだろ!


 俺は思わず冴香を引き寄せて抱き締めた。

 もう色々な事を我慢する必要なんてねえんだよ、冴香。何時までも自分の殻に閉じ籠ってないで、ちょっとは俺にも感情を見せろよ。


 「冴香、泣きたいなら泣けよ。胸くらい貸してやるから。」

 冴香の頭を撫でながら、そう口にすれば。


 「……高そうなシャツなのに、濡れちゃいますよ。鼻水も付いちゃうかも知れないんですけど。」

 こんな時にまで減らず口かよ!! 本当に素直じゃねえなこいつは!


 「んな事一々気にすんな。こんな時にまでつべこべ言ってないで、良いから素直に泣きやがれ。」


 俺の言葉に、漸く冴香は感情を見せた。俺の胸に縋り付き、声を上げて大粒の涙を流し始める。やっと、こいつの仮面が外れて素顔が見れた。そんな風に思えた。

 好きなだけ泣けよ、冴香。誰も何にも言わねえから。

 冴香の背をゆっくりと擦りながら、俺は抱き締める腕にそっと力を込めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ