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22.無欲過ぎるあいつ

20話~大河視点です。

 冴香の様子が気になって、その夜はなかなか寝付けなかった。だが翌朝顔を合わせてみれば、一晩で切り替えられたのか、けろりと元に戻っているように見えた。人騒がせな、と思いつつほっとする反面、本当に終始頼られなかった事に、一抹の寂しさを感じている自分に内心で驚く。


 朝食を摂っていると、冴香が唐突にアルバイトがしたいと言い出し、俺は盛大に噎せてしまった。

 何でだよ? 欲しい物があるなら俺に強請れば良いだろ。何でお前は俺を頼らない?


 冴香の主張は、貯金がしたい、との事だったので、俺が報酬を払ってやる、と提案したが、断られてしまった。衣食住の保障で十分だし、アルバイトを通じて社会勉強もしたいと。やっぱりこいつは無欲だ。最優先は家事で、俺に迷惑が掛からないようにする、とまで言われてしまえば、頭ごなしに反対する事も出来ない。

 だが、天宮財閥の御曹司の婚約者が、アルバイトをするなんて、あまり世間体が良くないんじゃないか、という点が気になってしまった。俺としては好きにさせてやっても良いが、何故か冴香に肩入れしている祖父さんや親父に知れたら、甲斐性がないと怒られるのは俺かも知れない。


 取り敢えずバイトの件は保留にして出勤する。会社に着くと、スマホに電話が掛かってきた。冴香からだ。家で何かあったのかと急いで出てみる。


 『すみません、寝室にシルバーのスマホが充電されているんですけど「ゲッ!? マジで!?」


 慌てて自分の鞄の中身を確認したが、やはり会社支給のスマホがない。

 まずい、電池が切れそうだったから、昨夜充電したまま忘れて来た!


 九時半まではミーティングがあるので、どのみち電話が掛かってきても出られない。だがそれが終われば、今日はすぐに外回りだ。取引先から緊急連絡が入る可能性もあるのだから、スマホがないと洒落にならない。冴香に持って来てくれるよう頼み、自分のスマホから地図を送って溜息をついた。

 くそ、社会人になってから忘れ物をするなんて初めての事だ。自分が情けない。気が弛んでいる証拠か?


 ミーティングが終わり、外回りの準備を終えても冴香からは何の連絡もない。一旦外に出て、急いで冴香と合流してスマホを受け取るべきか? そう思いながら一階に下りると、受付にいる冴香の姿が見えた。


 「冴香! 悪いな、助かった。」


 ほっとして声を掛け、スマホを受け取ると、冴香は早々に帰ろうとした。あまりに素っ気ない態度に、怒っているのかと思ったが、別にそうでもないらしい。並んで歩きながら首を傾げていると、敬吾が冴香を呼ぶ声が聞こえて足を止める。そう言えばこいつも、今日は朝から外回りだったな。


 「昨日はどうもありがとう。夕飯ご馳走様。凄く美味しかったよ。」

 「いえ、こちらこそありがとうございました。ではお仕事のお邪魔になるかと思いますので、私はこれで失礼致しますっ。」

 そう言ったかと思うと、冴香は走って出て行ってしまった。


 何だあいつ、遠慮していただけなのか? まあいいや、今日は本当に助かった。何処かでこの礼はしないとな。


 敬吾と別れ、外回りを終えて、夕方に帰社すると、受付嬢の女が後を付いて来た。


 「大河……っ! 朝のあの子、一体何なの? 貴方とどういう関係なのよ!?」


 またこいつか。しつこいな。俺は溜息をついて対峙する。


 「馴れ馴れしくするなって昨日言ったばかりだろうが。それに俺とあいつがどういう関係だろうと、お前には何の関係もない。」

 「なっ……! もしかして、あの子と今付き合ってるの!? 何であんな貧相な子と! 私の方が余程「煩い黙れ!!」

 女の言葉に頭に来た俺は、低い声を出して思い切り睨み付けた。


 「いいか谷岡、金輪際俺に纏わり付くな。迷惑なんだよ。分かったらさっさと仕事に戻れ!」


 それだけ吐き捨てると、俺はさっさと身を翻した。鬱陶しい女に纏わり付かれるのはいつもの事だが、今日は何だか凄くムカついた。


 貧相な子、だと? あいつは好きでああなったんじゃねえ! 何も知らないお前なんかが冴香の悪口を言うな! それに私の方が余程、だと? 無欲過ぎる冴香と金の事しか頭にないお前なんかとじゃ、比べ物にもなんねーよ!


 自分のデスクに戻った俺は、何とか気持ちを抑え、仕事を片付けて会社を後にした。

 今日は冴香にすっかり世話になってしまった。何か礼をしないとな。無欲なあいつが望む事なんて全く思い付かないが……。やっぱり、アルバイトを認めてやるのが一番なんだろうか?

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