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20.会社に伺う事になりました

 久々に泣いて、一晩寝たからだろうか。翌朝目覚めた私は、意外と気分がすっきりしていて自分でも少し驚いた。

 うん、何時までも落ち込んでいるなんて性に合わない。ちゃんと頭を切り替えて、やらねばならない事をこなしていかねば。しっかりしろ、落ち込んでいる暇なんてないんだぞ、私!

 両手で両頬を叩いて気合を入れる。今日からは家事をこなしつつ、バイト先を探さないと。大河さんに迷惑はかけられないから、平日の昼間の時間帯で、私にも出来そうなアルバイトないかな。

 そんな事を考えながら朝食の準備をしていると、大河さんが起きてきた。


 「おはようございます。」

 「おう……気分はもう良いのか?」


 眠そうに目を擦りながら大河さんが尋ねてきた。

 大河さん、まだ心配してくれていたんだ。じわりと心が温かくなる。


 「はい。お蔭様で。ご心配をおかけしてしまったみたいですみません。」

 「そうか。なら良い。」

 大河さんは欠伸をしながら洗面所へと向かって行った。


 昨夜は良く眠れなかったんだろうか? かく言う私も実はまだ眠たかったりするのだが。

 大河さんと向かい合って朝食を摂りながら、私は一応大河さんにお伺いを立てる事にした。


 「大河さん、私平日の昼間にアルバイトをしたいと思っているんですけど、構いませんよね?」

 そう切り出すと、大河さんは盛大に噎せてしまった。


 「ゲホ、ゴホッ。……何でだよ? 何か欲しい物でもあるなら俺に言えよ。」


 大河さんが不快そうに声を荒らげた。あれ? もしかしてダメなの?


 「欲しい物がある訳ではありませんが、私今無一文なので、お金を貯めたいんです。何かあった時に、貯金があるのとないのとでは全然違いますから。」

 「それなら住み込みの家政婦に見合った報酬を払ってやる。実際お前は思っていたよりも良くやってくれているしな。」


 え? 良いの!?

 一瞬諸手を挙げてお礼を言ってしまいそうになった。だけどちょっと待て。それは……何か違わないか?


 「……大変有り難いお話ですが、いくら家事全般を引き受けているとは言え、ちゃんとそれと引き換えとして十分過ぎる程衣食住を保障して頂いています。それなのに、更に報酬まで頂いてしまうのは気が引けます。それに、私はまだ社会に出た事がありませんので、アルバイトを通して、社会勉強もしたいんです。勿論、最優先は家政婦業で、アルバイトはその合間にします。大河さんにご迷惑は掛からないようにしますから。」


 大河さんの提案は物凄く有り難くて魅力的だけど、只でさえ必要以上に高価な服や靴だとか、スマホまで買ってもらってしまっているのに、これ以上甘える訳にはいかない。それに、今のうちに社会に慣れておかないと、後々この家を出なければならなくなった時、困るのは私だ。無経験で一から職探しをするよりも、アルバイトを通して何かしらの経験をある程度積んでおいた方が、仕事も見付かりやすいに違いないし。

 とは言え、やっぱり惜しい事をしたかな、と誘惑を完全に振り切れないまま大河さんの様子を窺うと、大河さんは難しい顔をして、暫く無言でご飯を食べていた。


 「……ご馳走さん。バイトの件は、少し考えさせてくれ。」

 「……分かりました。」


 大河さんを送り出した私は、こっそり溜息をついた。

 アルバイト、認めてもらえないのかな。でも何時許可が下りても良いように、探すだけ探しておこう。


 洗濯物を干し、部屋の空気を入れ替えようと大河さんの部屋に入った私は、枕元の棚にスマホが置いてあるのを見付けてギョッとした。充電されているスマホはシルバー。おかしいな、大河さんのスマホは私と色違いの黒だった筈。それに機種も違うみたいだ。……もしかしてこれって、仕事用のスマホなのかな? だとしたらまずいんじゃ!?

 急いで自分のスマホを手にし、大河さんのスマホに電話を掛ける。今は八時二十分。大河さんはいつも八時前には家を出ていて、会社まで車で約十五分だって言っていたから、会社にはもう着いている筈。始業は八時半からだから、今ならまだ繋がるかも。


 『冴香? どうした?』

 数コールで大河さんが出て、私は胸を撫で下ろした。


 「すみません、寝室にシルバーのスマホが充電されているんですけど『ゲッ!? マジで!?』

 大河さんの大声の直後、受話器の向こうから鞄をひっくり返しているような、慌ただしい音が聞こえ出した。


 『……冴香悪い。そのスマホ、会社まで届けてくれ。場所分かるか?』

 「あ、はい。大体なら。」

 『そうか。一応念の為に今から会社の地図を送る。朝一はミーティングがあるから、九時半までに来てくれれば大丈夫だ。その間にそのスマホが鳴っても、下手に出なくて良いからな。じゃ頼んだぞ。』


 電話が切れ、私はやれやれと肩を竦めた。仕方ない、届けてあげますか。

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