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2.婚約と同棲が決まりました

 お見合い当日の日曜日。

 普段は異母姉が着なくなった流行遅れの古い服ばかりを着させられている私だが、流石に今日は先方に失礼がないように、と着飾らせてもらえた。色とりどりの小さな花模様が刺繍された、赤い綺麗な振袖を着て、ショートボブもどきの髪にウイッグを付けて整え、初めての化粧も施してもらうと、自分でも多少は見れるようになったと少しばかりは気分が浮き立つ。

 だが、元が元なので相手に気に入られるかは大いに不安だ。何しろ、向こうは美女を飽きる程見てきている筈。時折食事を抜かれるお蔭で、小柄で痩せぎすで幼児体型の私が、いくら振袖で体型を誤魔化した所で、気に入ってもらえるとは思えない。

 このお見合いが失敗すれば、また奴隷の日々に逆戻りだ。何としても成功させないと、と意気込んではみるものの、悲しいかな、どうすれば良いのか見当も付かない。せいぜい粗相のないように、出来るだけ笑顔を保つように、と心がけるくらいだろうか。でも私、六年、いや七年近くになる奴隷生活のお蔭で、基本表情筋死んでいるんだよね……。


 そんな訳で、ガチガチに緊張してお見合いに臨んだ私は、肩透かしを食った。


 「本当に申し訳ありません。父が急に入院する事になりまして……。」


 待ち合わせ場所のホテルのラウンジに現れるなり、申し訳なさそうに父と私に頭を下げた男性は、天宮財閥の主要企業の社長であり、私のお見合い相手の天宮大河あまみやたいがさんのお父様である、天宮将大あまみやまさひろさんだ。髪に白いものが混じってはいるものの、精悍な顔付きのダンディーな紳士で、とても五十代の方とは思えない程若々しく見える。

 天宮社長曰く、つい先程、天宮財閥の会長であり、大河さんのお祖父様である、天宮大造あまみやたいぞうさんがここに来る途中で持病の心臓発作を起こしてしまったらしい。そんな大変な事があったにもかかわらず、電話一本で済まさずにわざわざこちらに足を運んで下さるなど、本当に頭の下がる思いだ。


 「それは大変ですね。さぞかしご心配でしょう。こちらの事はお気になさらず、どうぞお大事にしてください。」


 恭しく頭を下げる父に倣って、私も深く頭を下げる。

 今日はもうお見合いどころではないな、また後日仕切り直しかな、と酷くがっかりしたような、でも少しだけほっとしたような、そんな心境でいると、すぐにでも病院に向かうだろうと思っていた天宮社長が、お話だけでも、とソファーを勧めてきた。

 え、貴方も病院に行かなくて良いんですか? こんな所で油を売っている場合じゃないと思いますが。


 「今回のご縁ですが、こちらとしては非常に喜ばしいものと思っておりますので、そちらさえ良ければ、すぐにでもお話を纏めさせて頂きたいのですが。」


 唐突な天宮社長の発言に、私は目を剥いた。

 本当に良いんですか!? 当の本人来てませんけど!?


 「こちらとしても異論はございません。喜んでお受け致します。」

 お父さんも平然と答えないでよ!


 ……って、私は反対しないけどね。あの家出たいし。

 それにこちら側としては、断るという選択肢自体があってないようなものだ。父は私を売らないと、天宮財閥からの援助は受けられないのだから。


 「それは良かった。では大変急で申し訳ありませんが、冴香さんには早速、愚息と生活を共にして頂いても宜しいですかな? 父の入院で暫くバタバタする事になると思いますので、只でさえ生活力に乏しい愚息の力になって頂きたいのですが。」

 「え……?」


 私は開いた口が塞がらなかった。

 いきなり同棲ですか!? 何この急展開!? いやあの家をすぐ出れるのは凄く嬉しいんですけれども!


 「問題ありません。不束な娘ですが、何卒宜しくお願い致します。」


 私の代わりに当然のように答える父に、今度はもう突っ込む気も起こらなかった。

 うん。こっちには選択権ないし。もう勝手にしてよ。


 こうして、唖然とする私を余所に、天宮社長と父によってあっと言う間に話が纏め上げられ、私は五日後の金曜日に、大河さんの家に引っ越して、同棲を開始する事が決定してしまった。

 私にとっては確かに待ち望んでいた展開だけど、いくら何でも早過ぎません? 何だか裏がありそうに思えて怖いんですが……。

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