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冴香の誕生日

大河視点です。

 二月二十二日。

 この日は、冴香の誕生日だ。今年は生憎平日ではあるが、俺達が出会って初めての誕生日なのだから、盛大に祝ってやりたい。それこそ最高の思い出として、一生記憶に残るくらいに。


 「と言う訳で、冴香に新しいドレスを買ってやって、夜景が綺麗な高級ホテルのレストランに連れて行って、そこで婚約指輪をプレゼントしたいと思っているんだけど、どう思う?」


 週末、冴香がアルバイトに出掛けた後、俺は敬吾の家に転がり込んで、敬吾と凛に相談していた。


 「へえ、大河にしちゃ、女心を理解した、良い計画だな。」

 「そうね。凄く素敵なシチュエーションだと思うわ! だけど……。」

 一旦は誉めてくれた二人だが、そこで言葉を止めて顔を見合わせる。


 「「冴香ちゃんが、それで本当に喜んでくれるかな……?」」


 俺と同じ懸念を口にした二人に、俺は溜息をついた。

 やっぱりそうだよな。あいつなら、ドレスを用意した時点で目を剥いたまま固まりそうだし、高級ホテルのレストランだと、緊張して味が分からないとか言いそうだ。この間、『偶には何処かに連れて行ってやろうか?』等と言いつつ、幾つか候補に上げていたうちの一つのレストランを提示したら、見事に硬直して辞退されてしまったし。

 外食が嫌いな訳ではないが、高い店は気が引ける。その線引きが難しい。


 「だとしたら、指輪は兎も角、ドレスとレストランは却下か……。」


 婚約指輪だって、一生に一度しかないと言うのに、高価な物は身に着けないと言い張っている。悠長に話し合いをしていたら何時までも逃げ回られそうだから、誕生日にプレゼントと言う形を取れば、受け取ってもらえるんじゃないかと考えた。全く、あいつは一筋縄ではいかなくて困る。


 「どうせなら、誕生日会を開いて、皆で一緒に祝ってあげるのはどう?」

 「却下だ。そんな事をしたら、俺が冴香とゆっくり過ごせなくなるだろうが。」

 凛の提案を即座に拒否すると、凛は不満げに頬を膨らませた。


 「まあまあ。それなら、冴香ちゃんが喜びそうな事を考えてみたらどうだ?」

 「冴香が喜びそうな事、ねえ……。」

 俺達は揃って首を捻る。


 あいつが確実に喜んでくれそうな事と言えば、モンブランと俺の肉じゃが、くらいしか思い付かない。取るに足らない些細な事で、凄く喜んでもらえたかと思えば、良かれと思ってした事で、困惑されてしまう事もある。

 まあ、取り敢えず分かっている事は、高価過ぎる物は厳禁、と言う事だけだ。


 「モンブランと肉じゃがか……。なら大河、次はカレーでも作ってみないか?」

 「はあ!?」

 敬語の提案に、俺は思わず大声を上げた。


 「肉じゃがとカレー、具材としてはそう変わらないから、後は市販のルーさえあれば、多分大河でも作れるだろ。」

 「いやいや待て待て、何で俺が作らなくちゃいけないんだよ!?」

 「たとえ下手でも、お前の手料理なら、冴香ちゃんは喜んでくれると思うぞ?」


 そう言われると、ぐうの音も出ない。実際、お世辞にも美味いとは言えない出来になった肉じゃがでも、冴香は喜んで食べてくれるのだ。


 「冴香ちゃんがアルバイトから帰って来た時に、お前がカレーを作って待っていてくれたら、きっと嬉しいんじゃないかと思うけどな?」

 「一食分作らなくても良いって言うだけで、凄く助かるものね!」

 ニヤニヤと笑う敬吾と凛。こいつら、絶対楽しんでいやがる。


 だけど冷静に考えてみたら、確かに二人の言う通り、悪くない提案だ。だけどそれは、上手に作れたら、の話であって。

 それに、この計画には致命的な欠点がある。


 「その日は俺も仕事だぞ。頑張って定時で上がれば、バイト後に買い物をする冴香よりも早く帰れるとは言え、そんな短時間で俺がカレーなんて作れるかよ?」

 「なら有休取れば良いだろ。お前、入社してから全然取った事なかったよな? しかも休日出勤の振休も有ったんじゃなかったっけ? この間、振休は早く取れって、総務から社内メールが来ていただろうが。」

 「そ……それはそうだけど……。」


 冴香の誕生日に、振休を取って、一日がかりでカレーを作る。

 俄かに現実味を帯びてきてしまったが、家事の苦手なこの俺が、本当にカレーなんて作れるのか?


 「心配なら今から作るか? 今日一緒に練習しておけば、少しは安心だろ?」


 立ち上がり、冷蔵庫の中の材料を確認していく敬吾。凛も敬吾が買い置きしていたカレールーを何処からか取り出して来た。料理はどうしても尻込みしてしまうが、ここまでしてもらっておいて、引き下がる訳にはいかない。


 「分かった、頼む。ありがとうな、二人共。」


 良い幼馴染を持った、と、俺は二人に心から感謝した。

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