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似ているのでしょうか

 代わる代わる誠君を抱かせてもらいながらお喋りしていると、あっと言う間にお昼時になった。今日は咲さんの提案で、一人一品料理を持ち寄って来ているのだ。咲さんが誠君の授乳で別室に行かれている間に、台所をお借りして皆で昼食の準備を始める。私は電子レンジをお借りして、タッパーに入れて持って来た料理を温め直した。


 「わあっ、そのパン、怜さんが作られたんですか!?」


 持って来た紙袋の中身を取り出す怜さんを目にして、私は思わず歓声を上げた。ツナとコーンのパン、ベーコンとマヨネーズのパン等、色々な種類の美味しそうなパンが、所狭しと並べられていく。


 「いえ、一人ではなく、司さんと一緒に作りました。元はと言えば、咲さんにパンの作り方を教えてもらったんですよ。」

 「パン作りは咲の趣味なんだ。今は誠がいるから、作る時間なんてないだろうけど、偶には食べたいんじゃないかと思ってな。」

 「わあ、嬉しい!! 二人共ありがとう!!」

 丁度戻って来られた咲さんが、嬉しそうに目を輝かせる。


 「これを、最上先輩が……? 凄いですね。以前は自炊なんてされていませんでしたよね?」

 お店に並んでいそうな出来栄えのパンに、大河さんが感心しながら最上さんに尋ねる。


 「ああ。今も相変わらず下手くそだけど、少しずつ怜に教えてもらっているんだ。大変だけど、意外と楽しいぞ。」

 「でも、最初の頃に比べれば、大分腕を上げられましたよね。」

 「そうかな? だと良いけど。」


 仲が良さそうに見つめ合って微笑む最上さんと怜さん。

 きっと最上さんが料理を始めたのは、怜さんの影響なんじゃないかな? なんて推測してしまった。何処かの誰かさんに、爪の垢を煎じて飲ませたい……いや、大河さんも、以前は全くしなかったけど、今はちょっぴり出来るようになっているから、まあ良いか。


 西条さんが温めていた具沢山のコンソメスープを、咲さんが取り分ける。すると西条さんは、冷蔵庫からシーザーサラダを出して来た。どうやらスープは咲さんが、サラダは西条さんが作られたようだ。皆さん揃って料理上手のようで、並べられていく料理は、どれもとても美味しそうだ。つい横目でちらちらと見てしまいながら、私は電子レンジで温めた、私の肉団子と大河さんの肉じゃがを、お借りした大皿に盛り付けた。洋風と和風が入り乱れているけど、これも持ち寄り料理の魅力の一つだと思う。最も、和洋中等細かく指定された所で、大河さんは肉じゃがしか作れないのだけれども。


 「これ、もしかして天宮君が作ったのか?」

 煮崩れて不格好になっている肉じゃがを見て、西条さんが目を丸くした。


 「あ、はい。見た目はアレですけど、味付けは冴香にも見てもらったので、多分……そこそこは、食べられると思いますよ。」

 「へえ! 天宮君は家事全般が苦手だったから、俺はてっきり何か買って来るかと思っていたよ。君も料理するようになったんだな!」

 「まあ、俺はまだこれしか作れないんですけどね。」

 何処か嬉しそうな最上さんに、苦笑する大河さん。


 だけど、少しばかり誇らしげにしている大河さんに、私の唇は弧を描いた。まだ慣れない料理に四苦八苦しながらも、何とか自分で料理を作った努力が認められて、達成感を味わっているようだ。これに味を占めて、大河さんも最上さんのように、少しずつでも良いからレパートリーを広げていってくれたら嬉しいんだけどな。


 皆で食卓に着いて料理を頂く。パンもサラダもスープも、どれもとても美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう。私の肉団子と大河さんの肉じゃがも好評で、お褒めの言葉を頂いてしまった。


 「ところで、二人は婚約したって言っていたけど、指輪はまだなの?」

 二つ隣の席に座る咲さんが身を乗り出し、私の左手を見ながら尋ねてきた。


 「あ、はい。少々意見の相違がございまして。」

 正面から軽く睨んでくる大河さんの視線を感じつつ、目を逸らして答える。


 「意見の相違って?」

 「大河さんが勧めてくる指輪は、私が目を剥くようなお値段の物ばかりなんです。そんな高価な物を身に着ける気になんて、とてもなれなくて……。」

 「ああ、分かります。金銭感覚が違うと、結構大変ですよね……。」

 何処か遠い目をしながら、実感たっぷりに同調してくださったのは、私の隣の席の怜さんだ。


 「……もしかして怜さんも、高価な服や靴を身に着けるのは気が引ける派ですか?」

 「はい。既に手持ちの物で十分だと常々申し上げているのに、頻繁にプレゼントだと称して買って頂くのは、未だに慣れなくて……。」

 「分かります! これ以上買って頂いても、箪笥の肥やしになるだけだと、どれだけ言っても聞いてくれないですし、こちらは碌にお返し出来ないしで、正直困っちゃいますよね!」

 「冴香さんもですか? 私と同じ意見の方に、初めてお会いしました!」


 思わず怜さんと、両手でがっしりと固い握手を交わしてしまった。

 いや、だって麗奈さんや凛さんや谷岡さんに愚痴っても、『気にせずに貰っておけば良いのよ!』とか、『愛されている証拠よ!』なんて返事が返ってくるだけだったものだから。


 「ハハハ! やっぱり、怜ちゃんと冴香ちゃんって似てるな!」

 「確かにそうだね!」


 楽しそうに笑う西条さんと咲さん。最上さんは苦笑し、大河さんは不満げな表情を浮かべている。

 私と怜さんが似ている? いやいやそんな訳ないでしょう。美人でスタイルも良くて頭も良さそうな怜さんと私だったら、月とすっぽんも良い所だと思うんですけど。


 「皆、そろそろデザートは如何?」


 咲さんと西条さんが立ち上がり、怜さんも手伝うと席を立った。私も腰を上げかけたけれど、『冴香ちゃんはお客様だから。』と断られてしまい、仕方なくそのまま腰を下ろす。お三方が持って来てくださったのは、ショコラモンブランとチョコアイスの乗ったお皿だ。


 「冴香ちゃんはモンブランが好きだって聞いて、買ってみたの。」

 「ありがとうございます! 嬉しいです!」

 「とか言いつつ、自分が好きなチョコレートもしっかり取り入れているよな。」

 「でも司さん、私が好きなアイスクリームも取り入れてくださっていますよ。しかもハーゲンダーツです!」


 嬉しそうに声を弾ませながら、再び席に着く怜さん。

 どうやら怜さんは、ハーゲンダーツがお好きなようだ。だけど、私も大好きなモンブランを前に、負けないくらいの笑顔になっている自信がある。


 「「美味しいです!」」

 ショコラモンブランを一口食べた私は、チョコアイスを口にした怜さんと、同時に声を上げていた。


 「良かった~!! 怜さんも冴香ちゃんも可愛い!! やっぱり二人って、何だか似ているよね!!」

 「そうだな。どちらかと言うと表情があまり変わらない方だけど、笑うと可愛い所とか、考え方とかは似ているよな。」


 満面の笑顔を浮かべる咲さんに、最上さんが同調する。私は怜さんと顔を見合わせ、二人揃って首を傾げた。

 いや、だから怜さんと私じゃ月とすっぽん……。だけど、そんな風に言われると、怜さんに親しみを覚えてしまう。何時か内面も、怜さんみたいな素敵な人になれたら良いな。


 食事の後も、誠君の成長の様子とか、皆さんの馴れ初めだとか、話題は尽きず、気付いた時には夕方近くになっていた。最初は気後れすらしていたけれど、皆さんのお蔭で、凄く楽しくて充実した時間を過ごす事が出来た。何よりも、皆さんと親しくなる事が出来て、とても嬉しい。


 「冴香ちゃん、私が育休明けて復帰したら、また是非WESTに来てね!! 今度は私が冴香ちゃんをコーディネートしてあげるから!!」

 「あ、ありがとうございます。その時は宜しくお願いします。」

 「絶対よ、絶対!! 凄く楽しみにしているから!!」


 玄関にまで見送りに来てくださった咲さんの勢いに若干押されつつも、再会を約束して、西条さんのご自宅を後にする。最寄り駅の改札口で最上さんご夫妻とお別れすると、大河さんが溜息を吐き出した。


 「大河さん、どうかしたんですか?」

 「いや、お前は相変わらずだなって思って。」


 その後も小声で、人たらしがどうだとか、あの三人だけでも面倒臭いのにライバルがまた増えそうだとか、ぶつぶつ呟く大河さん。私はその独り言の意味が分からず、首を傾げるしかなかった。

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