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俺の愛妻と後輩の婚約者

WEST銀座店支配人、西条明視点です。

 「フンフンフーン♪」


 朝から鼻歌を歌いながら、ご機嫌で家事をしている、俺の愛妻の咲。俺は誠の世話をしながら、その様子を微笑ましく見守っていた。


 「ねえあーくん、その冴香ちゃんって言う子、本当に怜さんに似ているの?」

 「どうだろうな? 俺は何となくそう思ったんだけど。」

 「えー、楽しみだなー。早く会いたいなー!」


 今日は誠のお披露目と称して、大学の後輩の天宮君と、その婚約者の冴香ちゃん、ついでに咲の兄夫婦である、司と怜ちゃんを家に招待している。約束の午前十一時まで後一時間はあると言うのに、咲は朝からずっとそわそわしっ放しだ。

 まあ、咲がこれだけ首を長くして待っているのには、訳がある。


 初めて冴香ちゃんが俺達の店に来てくれた日の夜の事だ。WEST銀座店で副支配人を務める咲は、やはり休職中も店の事が気になるらしく、その日も夕食の席で今日の出来事を尋ねてきた。


 「今日は面白いお客様が来たよ。俺の大学の後輩の天宮君、咲も知っているだろ?」

 俺の問いに、咲はこくりと頷く。


 「あの来る度に違う女性を連れていた、イケメンの上得意様でしょ。何? 今日もまた違う女性を連れて来たの?」

 「そう。その子、堀下冴香ちゃんって言うんだけど、今までと全然違うタイプでさ。しかもどうやら天宮君の本命っぽいんだよな。」

 「え? どうしてそんな事分かるの?」


 咲は目を丸くした。俺は今日の天宮君の様子を思い出して、口元を緩めながら答える。


 「彼、いつも女性が服を選ぶ時、全然興味なさそうだっただろ? 意見を求められても、何処か冷めた目で答えていたし、買う服も精々一、二着程度だったし。でも今日は自ら意見したり、試着中も彼女の事を気にしていたり、上から下まで各十着以上、靴まで買って行ってくれたんだ。」

 「へえー、そうなんだ! 確かに、今まで無かった事よね。それで、そのプレイボーイの彼を射止めた堀下さんとやらは、どんな人なの?」

 「それが、どう上に見ても高校生くらいなんだよなー。」

 「え……!?」

 流石に咲も驚いたらしい。俺は彼女の事を思い出しながら続ける。


 「身長は百五十より少し低めかな? 痩せていて、表情が乏しい女の子だったよ。ああ、丁度初めて会った時の怜ちゃんみたいな感じだった。」

 「怜さんみたいな子……?」

 咲は目を見開く。


 俺達の義姉に当たる怜ちゃんは、今でこそ表情が豊かになっているが、初対面の時はほぼ無表情だった。その事を思い出し、身近で具体的な例を挙げれば咲も想像しやすいだろう、と思って口にしたのだが、実の姉同然、いやそれ以上に慕っている義姉に似ている女の子、と聞いて、咲は俄然興味を持ってしまったらしい。


 「怜さんに似ているんだったら、私も会ってみたかったなー! きっとその子、怜さんみたいに、笑ったら凄く可愛いんじゃないかな!? うっわ~私がコーディネートしたかったな~。それでその子に笑顔になってもらいたかった! 今日は岬さんがコーディネートしたの?」

 「ああ。冴香ちゃんも満足した様子だったよ。彼女も優秀だからな。また来てくれるような事を言っていたから、もしかしたらまた会えるかも知れないな。」

 「そうなの!? それは確かに本命っぽいね! 彼、同じ女性を二度連れて来た事なんてないもの。良いなー、彼女に会えるあーくんが羨ましい! 私が育休明けて復帰するまで、二人が続いていてくれないかな!?」

 「さあ、流石にそこまでは分からないな。」


 表情を明るくして目を輝かせ、希望を口にする咲に苦笑する。咲は女性を自分の手でコーディネートして、魅力を引き出し、笑顔にするのが何よりも楽しいそうだ。咲の望みは何でも叶えてやりたいが、こればかりは俺がしゃしゃり出る訳にも行くまい。それに、天宮君もいずれちゃんと説明してくれると言っていたのだ。天宮君に期待しつつ、果報は寝て待つ事にした。


 そして再び天宮君達が来店した時、冴香ちゃんと婚約したと朗報を聞かされ、それを咲に伝えると、驚く程狂喜乱舞し、冴香ちゃんに会えるこの日をずっと楽しみにしてきたのだった。


 「後二十分か。早く十一時にならないかなー?」


 先程から時計と睨めっこしては、後四十五分、後三十分と、カウントダウンしている咲。どうやら相当待ち遠しいようだ。

 時計の針が漸く午前十一時を指した時、ピンポーン、とチャイムが鳴った。


 「あ、来た! 怜さんかな? 冴香ちゃんかな?」


 ぱあっと目を輝かせ、待ち兼ねたように急いで出迎えに行く咲に苦笑しながら、俺も咲の後を追った。

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