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【コミカライズ開始】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
番外編

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冴香さんに懐かれたい

天宮財閥会長、天宮大造視点です。

 良く晴れた休日の昼過ぎ。連絡を貰ってから、待ちに待った人物が到着したと二階堂に知らされ、儂は急いで客間に駆け付けた。


 「いらっしゃい、冴香さん。」

 「こんにちは。お久し振りです。」


 和子と共に出迎えると、大河と共に客間に通されていた冴香さんが挨拶をしてくれた。

 うむ、やはり可愛いな。変わらず元気そうで何よりだ。


 「先日、皆さんと温泉旅行に行って来たんです。良かったらこれ、お土産です。」

 冴香さんは微笑みながら、見慣れた温泉饅頭の箱を差し出してくれた。


 「あら! 気を遣わなくても良かったのに。でも嬉しいわ! ありがとう、冴香さん!」

 「儂もここの饅頭が好きだから、本当に嬉しいよ。ありがとう。」

 「あ、いえ、私からではなくて、皆さんと一緒に買ったんですけれども……。」


 喜色満面でお礼を言うと、冴香さんが戸惑ったように告げる。だが、そんな事はどうでも良い。冴香さんが届けに来てくれた事が嬉しいのだ。

 今日はゆっくり冴香さんとお茶でもしながら、温泉旅行の話を聞かせてもらおう。そう思っていたのに。


 「和子さん、ミイちゃんは元気ですか?」

 「ええ、勿論。そうね、多分庭に居ると思うわ。」


 温泉旅行の話もそこそこに、冴香さんは和子と一緒に、庭に出てしまった。大河と二人、客間に取り残された所で、面白くも何ともないので、儂は二人の後を追って、庭に降りる。


 「ミイちゃん、来たよー!」

 「ミィー。」


 冴香さんが声を掛けると、チョコチョコと近寄って来るミイ。冴香さんに抱き上げられ、満足そうに目を細めて顔を摺り寄せた。


 「相変わらずミイちゃん可愛いですね。少し大きくなりました?」

 ミイを抱いたまま和子を振り返る冴香さんは、楽しそうな笑顔を浮かべている。


 「ええ。ご飯もしっかり食べているから、この間来てくれた時よりも、また少し大きくなったんじゃないかしら。」


 冴香さんに微笑みながら、ミイの頭を撫でる和子。ほのぼのとした、仲の良い祖母と孫娘の光景に見える。

 ……何とも羨ましい。


 「ミイは、冴香さんに良く懐いているな。儂にはあまり懐いてくれないのだが。やはり自分を拾った恩人の事は、良く覚えているのかな?」

 「いえ、ミイちゃんを拾ったのは大河さんですよ。まあ、その大河さんでもミイちゃんに懐かれていないようですけど。」

 儂が話し掛けると、それまでの満面の笑顔から、真顔に戻ってしまう冴香さん。


 うーむ……。気のせいだろうか。どうも儂は冴香さんに、満面の笑顔を向けてはもらえないような……。まあ、冴香さんと大河の仲を取り持つ為に、色々仕出かしてしまった自覚はあるので、多少距離を置かれてしまっていても、仕方ないと言えば仕方ないのだが……。何とも寂しくて堪らない。


 継母と異母姉から虐待を受けていたにもかかわらず、人に手を差し伸べる事を忘れない冴香さんに惚れ込み、冴香さんを救い出す方法を考えて、無理矢理孫の大河と婚約、同棲させたのは儂だ。冴香さんは本当に良い子だから、彼女の人となりが分かれば、女癖の悪い大河も女性に対する考えを改めるだろうし、そのまま二人がくっ付けば尚良し、と思っていた。だが敬吾によると、二人は同居人としては上手くやっているようではあるが、その仲は大して進展はしていないとの事。


 ならば、他の孫達をライバル役に仕立ててけしかければ、少しは恋愛感情が芽生えやしないだろうか。その大義名分を作る為に、予め子供達や孫達に根回しをしておいた上で、冴香さんを跡継ぎにすると宣言すれば、冴香さんに予想以上に反発されてしまった。和子を救った知識や機転、奴隷扱いされても屈しない忍耐力と精神力、学校の成績等を考慮すれば、手塩に掛けて教育したら、将来の天宮財閥を支える器になる可能性を十分に秘めているのに勿体ない。そう思いつつも、まずは半年間だけ様子を見てもらって、その後は彼女の意思を尊重する事にした。

 ……まあその直後、進展していない、と聞いていた割には、冴香さんの首筋に虫刺されの赤い痣がある事に気付き、てっきりキスマークと勘違いして、まさか無理矢理!? と大河を疑って掴み掛かったのは、悪かったとは思っている。


 その後の二人の様子を敬吾に訊いてみると、何とか大河は自分の気持ちを自覚したとの事。ならば冴香さんの方はどうか、と大河との同棲について尋ねてみれば、大河の所に居たいと答えてくれた。これでくっ付くのも時間の問題か!? と喜んだのも束の間。


 「私は今の生活環境に慣れてしまいましたし、大河さんのご自宅がアルバイト先にも近くて便利ですので、今更この環境を変えたいとは思いません。……それに、私が家事を一手に引き受けていますので、私が大河さんの家を出るような事になれば、大河さんの生活環境に不安を覚えますので。」


 大河よ、道はまだ遠そうだぞ。しっかりしろ!


 どうすれば良いものか、と悩んでいると、凛から忠告を受けた。儂の宣言のせいで、冴香さんは跡継ぎの座目当てではないかと、孫達の好意を信じられなくなっているらしい。

 愕然とし、慌てて宣言を撤回して婚約も解消した上で、冴香さんの新しい住居を用意した。冴香さんを身内にし、儂が後見人となって、是非幸せにしてあげたい、と思っていたが、儂のした事は冴香さんを振り回し、傷付けてしまったようだと反省する。


 暫く鬱々とした日々を過ごしていたが、二人が婚約し直した、と敬吾と凛から朗報がもたらされ、儂は歓喜に打ち震えた。改めて冴香さんにお詫びし、許してもらえて心から安堵する。

 これで念願叶って、冴香さんは儂の身内だ!


 これからは冴香さんを可愛がり、満面の笑顔を愛でる楽しい日々が待ち受けている、と期待に胸を膨らませていたが、これまでの行いのせいか、どうも冴香さんは儂には心を開いてくれていないように思えてならない。儂が見たいと望んだ冴香さんの笑顔を向けられながら、仲が良さそうに猫談議で盛り上がっている和子が羨ましくて仕方がない。


 ……取り敢えず、ミイを手懐ける所から始めてみようか。今度、猫じゃらしでも買って来るとしよう……。

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