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結局合流しました

 「へえー、じゃあ、冴ちゃんのお父さんの仕事の関係で知り合って、お互い惹かれていったんだ!」

 「う、うん。まあそんな所。」


 苦笑する私を余所に、青柳家の女性三人は、キャイキャイと盛り上がっている。

 うん、嘘は言っていないぞ。嘘は。


 「美海ちゃん達は? 二人共昔から明るくて人気者だったから、彼氏いるんじゃないの?」

 「えー? 内緒。」

 「私も。」


 顔を引き攣らせたお父さんの方をちらりと見て、美海ちゃんは人差し指を唇に当て、美雪ちゃんは片目を瞑って見せた。

 え、ずるい。私も内緒にすれば良かった、と唇を尖らせる。


 だけど、久し振りの青柳ご一家とのお喋りは、とても楽しかった。大河さんとの事について訊かれるのは閉口したけど、私が元気で過ごしている現状に、安心してもらえたようだった。

 確か、堀下家に引き取られる時は、急な事でバタバタしていたから、落ち着いたらまた連絡する、って言って別れて、それっきりになってしまっていたんだよね……。堀下家の黒歴史のお蔭で、連絡する機会なんて無かったのだけれど、美海ちゃん達の方でも、あれからすぐにお父さんの転勤が決まって、引っ越していたそうなので、どのみち連絡を取り合う事は出来なかったようだ。今日、偶然会う事が出来て、本当に良かった。


 小学校時代の思い出とか、他の友達の現状とか、昔話に花を咲かせていると、何時の間にか夕方になってしまっていた。そろそろ泊まっているホテルに戻らなければならないそうで、私は美海ちゃん達と連絡先を交換して別れた。最後に、今度はちゃんと婚約者の彼の事を紹介してね、と頼まれて、思い切り赤面してしまったが、何とか頷いて約束した。


 そして、大河さんに連絡して迎えに来てもらったのだけれど、何だか大河さんの不貞腐れ具合が更に悪化しているような……?


 「大河さん、お待たせしてしまってすみませんでした。」

 「いや、良い。楽しかったか?」

 「はい、とっても!」


 笑顔で答えると、大河さんは口元を緩ませた。気のせいだったのかな、とほっとしていると、大河さんに手を握られ、恋人繋ぎにされてしまった。


 「冴香、絶対また来ような。今度は二人で、ゆっくりと。」

 「は……はい。また来ましょう。」

 恥ずかしかったけれど、真顔の大河さんの目を見て答えると、大河さんは嬉しそうに笑って、握る手にぎゅっと力を込めた。


 お……おかしいな。大河さんの笑顔は何度も見てきた筈なのに、何だか凄くドキドキする。ついさっきまで大河さんの事について、散々訊かれていたからだろうか? きっと顔が赤くなっていると思うけれど、これは夕日のせいだという事にしておいてもらいたい。


 「そうだ、冴香、夕日が綺麗に見える場所があるんだ。行ってみるか?」

 「あ、はい! 行ってみたいです!」


 大河さんと一緒に、その夕日のスポットとやらに向かっていると。


 「あ! 冴香ちゃああぁん!!」

 後ろから小走りで来た谷岡さんに、いきなり抱き付かれてしまった。


 「た……谷岡さん!? どうされたんですか?」

 顔を真っ赤にし、涙目になっている谷岡さんに、驚きながらも尋ねてみると。


 「た、大樹君が、何だか小っ恥ずかしい事ばかり言ってくるのよ! もう落ち着かないったらありゃしない! お願い、悪いんだけど、今から一緒に行動させて!」

 小声で必死にお願いしてくる谷岡さん。


 ああ、分かる。

 私も以前、大樹さんに何だか口説かれるような事を言われていた時期があったから。大樹さんは外国人なんだと勝手に脳内変換して、大抵お世辞だとスルーでやり過ごしていたけれど。


 「なっ……今度はお前かよ!? それくらい自分で何とかしろ! 頼むからいい加減、冴香とデートさせてくれ!!」

 「何よ! 大河はいっつも冴香ちゃんと一緒に居るじゃない! 偶にはちょっとくらい冴香ちゃんを貸してくれても、罰は当たらないと思うけど!?」

 あ、その台詞、さっきも聞いたような気がする。


 「冴香さん達は、これから何処に行くの?」

 「あ、夕日が綺麗に見える場所があると聞いたので、そこに行こうと思って。」

 追い付いて来た大樹さんに答えると、大樹さんはにっこりと笑った。


 「そうなんだ。俺達も丁度そこに向かう所だったんだ。折角だから一緒に行こうか。」

 「何!?」

 大河さんが大声を上げたが、私は仕方ない、と乾いた笑みを漏らした。


 「大河さん、行く場所が同じなんですから、もう一緒で良いじゃないですか。」

 「……ックソッ!」


 苛立たし気に吐き捨てる大河さん。

 何だか今日は、機嫌が悪くなったり良くなったり。忙しい人だなぁ。


 四人で向かった夕日スポットは、少し高台の開けた場所で、丸太で出来た柵やベンチがあり、展望台のようになっていた。山と空をそれぞれ濃さの違う、オレンジ色のグラデーションに染めながら、沈み行く太陽が美しい。人気の観光スポットのようで、ベンチに座って夕日を眺めるカップルや、写真を撮る親子連れ等、人が多かった。その中に、見知った着物姿の人達を見付ける。


 「あれ、大樹さん達も来たんですね。」

 声を掛けてきたのは、麗奈さんと一緒に居る新庄さん。その隣には、広大さんと雄大さんも居る。


 「ああ。ここからの夕日は綺麗だから、梨沙さんにも是非見てもらいたくて。そうしたら、途中で冴香さん達に会ったから、一緒に来たんだよ。でも麗奈達は兎も角、広大達も来ていたんだな。」

 「ここに来たら、誰かしら居るだろうと思ったからな。」

 「何だ、皆来ていたんだ。」

 違う方向から声がして振り返ると、凛さんと敬吾さんが歩み寄って来ていた。


 「凛さん達も来ていたんですね!」

 「うん。久々にここの景色を見たくなって。」


 結局、全員で一緒に夕日を眺めつつ、思い思いに写真を撮る。私は写真に写るのはあまり好きではないのだけれど、撮ってあげる、と麗奈さんに促され、スマホを渡して大河さんと一緒に写してもらった。夕日に染まる山々を背景に、少し照れながらも微笑んでいる着物姿の私と大河さん。実物よりも綺麗に撮れていて、流石麗奈さんだと感心する。大河さんとツーショットだなんて、何だか気恥ずかしいけれど、やっぱり嬉しくて、気付くと頬が緩んでしまっていた。


 私達が写真撮影を楽しんでいる間にも、夕日は徐々にその光を失っていき、やがて山々の間に完全に姿を消してしまった。ふと気付けば、反対側の山と空は、既に夜の色合いが濃くなっている。


 「さてと、そろそろ旅館に帰ろうか。日が沈んだら、冷える一方だからな。」


 敬吾さんの一声で、皆で連れ立って旅館に戻った。

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