カフェを手伝いました
「わあー! 冴香さん可愛い!!」
メイド服をお借りし、空き教室で着替えていた私の様子を見に来てくださった麗奈さんが歓声を上げた。
「あの……、へ、変じゃないですか? こんな格好をしたのは初めてなので……。」
私は羞恥を覚えながら、麗奈さんに恐る恐る尋ねる。
この教室には鏡が無いので、メイド服を着た自分がどう見えるのか、今一良く分からない。麗奈さんや悠奈さんのようにスタイルが良くない私には、メイド服は似合わないのではないだろうか。膝上までしかないミニスカートは何だか心許ないし、足もスースーするし……。と、色々な事が気になって、空き教室を出るに出られないでいたのだ。
「変じゃない! 良く似合っているし、凄く可愛いよ!! これで私達とお揃いだね!」
麗奈さんが嬉しそうに私の傍に来て、両手を握ってくださった。変じゃない、と言ってもらえて、私は少し胸を撫で下ろす。
お揃い、か。
確かに、一人でこの格好をするのは超絶恥ずかしいけれど、麗奈さんと悠奈さんも同じメイド服を着ている訳だし。慣れない格好だけれども、皆さんの仲間になれたようで、ちょっぴり嬉しいかも。
「あ、そうだ! 何なら論より証拠って事で!」
麗奈さんがスマホを取り出し、ツーショット自撮りしてくださった。早速写真を見せて頂く。
麗奈さんは写真でも可愛いな。美女は写真写りも良いのか。そして私は……、確かに、似合っていない訳ではない、かな? いつもと全然違う格好は、何だか面映い。
忙しい中、様子を見に来てくださった麗奈さんに感謝しつつ、これ以上時間を取らせる訳にはいかないので、思い切って一緒に廊下に出る。行列に並んでいる人々の視線を感じつつも、麗奈さんの後に続いて、スタッフ専用の後方の扉からカフェの教室に入った。
「わあ! 可愛いよ、冴香ちゃん!!」
「本当、良く似合ってるぜ!!」
「あ……ありがとうございます。」
衝立から顔を覗かせた雄大さんと広大さんにも褒めて頂けて、私は顔を赤らめた。
「冴香ちゃん、ジュエルの時みたいな感じで大丈夫だからね。男性のお客さんは『ご主人様』、女性のお客さんは『お嬢様』で、教室に入って来たら『お帰りなさいませ』、帰られる時は『行ってらっしゃいませ』。違いはそれくらいだから。基本的に男性のお客さんを担当してもらって良いかな?」
「分かりました。頑張ります。」
雄大さんにアドバイスを頂いて、いよいよだ、と私は気合を入れた。自分から手伝うと申し出たのだから、もう格好が気になるとか言っていられない。たとえ変でも似合っていなくても、どうせ自分の格好は自分で見られないもんねー、と開き直る事にした。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
この言い回し、慣れないなー。
そんな事を思いながら、ジュエルで培った営業スマイルを浮かべて、お客様を案内する。する事は基本的にジュエルと同じだ。お客様をお出迎えして、ご注文を取り、裏方のスタッフに伝え、出来た物を運ぶ。お客様が帰られる時は、お会計をして送り出し、テーブルの後片付け。私はすぐに慣れる事が出来た。うん、アルバイトしていて良かったよ。
「ありがとう、堀下さん。助かるわ。今日休んじゃった子が小柄で、服のサイズが合う子が居ないから、接客の人手が足りなくて困っていたのよ。」
一緒にテーブルを片付けていた悠奈さんが話し掛けてきた。
「そうだったんですか。お力になれて良かったです。」
「悠奈さん、冴香さんが居てくれる今のうちに、悠樹さんと休憩に行って来てください。この分だと、まだお客さん、途切れそうにないですから。」
「あら、麗奈ちゃん達は良いの?」
「大丈夫です。私達は後で頂きますから。」
「そう。じゃあ、お言葉に甘えようかな。すぐに戻ってくるわね。」
悠奈さん達を送り出した私達は、次に入って来た男性客に笑顔を向ける。
「「お帰りなさいませ「冴香!?」
男性客は大河さんだった。目を見開いて顔を赤くした大河さんは、わなわなと震え出す。
「お前、何してんだよ!?」
「何って、見て分かりませんか? カフェのお手伝いですよ。」
「まあそうだろうな。じゃなくて! だからって何でそんな格好してんだよ!?」
「え、似合わないですかね……。皆さんは可愛いって言ってくださったんですけど……。」
「いや可愛いし似合っているけど……ってそうじゃねえ!! スカート短過ぎるだろ!!」
「そうなんですよ。何だか心許ないし、足がスースーするんですよね。」
何故か慌てた様子で大声を上げている大河さんに答える。ふと気付くと、広大さんはお腹を抱えて大笑いしていた。雄大さんと麗奈さんも、肩を震わせて笑いを堪えているようだ。
何故だろう? 今の会話で笑う要素、何処かにあったかな?
「兎に角、すぐに着替えて来い!!」
「え、嫌ですよ。今皆さんお忙しそうなので、もう少しお手伝いしたいです。せめて皆さんが休憩を終えられるまで。」
「お前な……! お人好しにも程があるだろ!」
「先程までコロッケのお店を手伝われていた方の言う事とは思えませんね。あ、そうだ! 大河さんも手伝ってくれませんか!?」
良い事を閃いた、とばかりに大河さんにお願いすれば、大河さんはより一層声を大きくした。
「はあ!? 俺が!?」
「幸いにも、男性陣は皆さん背格好が似ていらっしゃいますから、執事服は休憩に行かれる方の服を借りれば良いですし。……駄目ですか?」
渋い表情をしている大河さんに困ったように問い掛ければ、大河さんは少しの間動揺し、やがて諦めたように溜息を吐き出した。
「……仕方ねえな。皆が休憩を終えるまでだぞ?」
「ありがとうございます!」
私は顔を綻ばせた。だが私の後ろでは、何故か広大さんだけでなく、雄大さんと麗奈さんも堪え切れずに笑い出している。
折角お手伝い要員を確保したと言うのに、何故だろう? 私、何か変な事したかな?




