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【3/1電子コミック1巻発売】ひねくれた私と残念な俺様  作者: 合澤知里
番外編

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猫と九官鳥とあいつと俺と

大河視点です。

 その日は、朝から雨が降っていた。

 会社からの帰り道、マンションの地下駐車場に入る直前に、俺は入口付近に小さな塊があるのを視界の端に捉えた。何だろう、と車を停めてから歩み寄ってみると、茶トラが蹲っている。まだ仔猫のようだ。衰弱したような様子で、ミィィ、とか弱く鳴く姿を見てしまった以上、そのままにしておく訳にも行かず、俺は仔猫を連れ帰る。


 「大河さん、お帰りなさい。あれ? その仔猫どうしたんですか?」

 出迎えてくれた冴香に、俺は仔猫を手渡した。


 「マンションの入り口で拾ったんだ。弱っているようだから、面倒見てやってくれ。」

 「分かりました。わあ、可愛い! 人懐っこいですね、この子!」


 タイミング良く、ミィ、と鳴いて冴香に擦り寄る仔猫。目を輝かせて笑顔を浮かべる冴香に、俺は思わず目を見開いた。

 ……可愛いのはお前だろ。


 兎に角お腹が空いているようだ、と冴香はすぐにコンビニに行って、キャットフードやミルクを買って来てくれた。


 「猫ちゃん、ちょっと待っててね。すぐご飯準備してあげるからね。」


 仔猫に笑い掛けながら、いそいそとキャットフードを準備する冴香。

 あれ、俺の夕飯は?


 「あ、大河さん、夕食殆ど準備出来ているので、お先に召し上がっていて頂けますか?」


 俺は猫より優先順位が低いのかよ! ……まあ、あの猫は弱っているみたいだから仕方ないか。


 その後も、冴香は夕食そっちのけで、猫がキャットフードに有り付く様子を、にこにこしながらずっと見守っている。

 いつもなら、一緒に食事しながら他愛無い会話の一つや二つはしているのに、俺が話し掛けても上の空だ。冴香を猫に取られたような気がして面白くない。


 「猫ちゃん、お腹一杯になったかな? ちょっと撫でさせてね。わあ、気持ち良い! 後で一緒にお風呂入ろうね~。」

 猫が餌を食べ終えた後も、猫の背中を撫でながら、猫に構いまくっている冴香。


 くそ! 冴香の奴、俺には憎まれ口しか叩かないのに、何でそいつには猫撫で声出しているんだよ! ずっとそいつに構ってばっかだし、俺より待遇良くないか!? しかも一緒に風呂とか、猫が羨ま……ムカつく!!

 この時点で、俺は絶対にペットは飼わないと決めた。


 「冴香、あまり情を移すなよ。そいつは里親を探すんだからな。」

 「ええ!? 飼わないんですか!? こんなに可愛いのに!」

 「飼わないし可愛くない!」

 抗議する冴香にピシャリと言ってのけると、その後、冴香は不機嫌そうにずっと頬を膨らませていた。


 祖母さんが動物好きだった事を思い出して連絡を取ってみると、案の定、是非引き取りたいと言ってきた。その事を冴香に伝えると、少し機嫌が直ったようだったのでホッとする。仔猫は明日、冴香がアルバイトに出掛ける前に、祖母さんに取りに来てもらう事にした。


 だが翌日、俺は会社から帰宅してギョッとした。食卓には、ピーマンとベーコンと玉葱の中華風スープ、炒飯、青椒肉絲、酢豚、八宝菜が並べられている。しかも全てにピーマンが大量に入っていた。


 「……冴香。これは何かの嫌がらせか?」

 「そうですよ。猫ちゃん可愛かったし、飼いたかったのに。」


 膨れっ面で答える冴香。どうやら仔猫を飼わないし可愛くない、と言った事が気に入らなかったらしい。


 「嫌そうな顔をされても駄目です。ちゃんと何でも食べないと、大きくなれませんよ。」

 「お前の目は節穴かよ。俺は十分背も高いし、体格も良いだろうが。」

 「私は人としての器の事を言っているんです。大河さんの外見は確かに優れていますが、人としての器はそれに反比例して小さいですよね。嫌いな食べ物を我慢して食べれば、少しは器も大きくなるんじゃないですか?」

 「そんなんでなる訳ねーだろ!」


 冴香の言葉にムッとしたが、口喧嘩をしていても仕方がないので、頑張って食べる事にした。俺はピーマンの独特の苦味と青臭さが嫌いなのだが、冴香の料理は苦味が抑えられていて、今まで食べてきたものよりは格段に食べやすいように思えた。冴香に尋ねてみると、ピーマンはヘタの部分が六角形のものの方が甘く、縦に切ったり油通しをしたりすると、苦みを感じにくくなるらしい、との事。


 「へえ。嫌がらせにしちゃ、随分手が込んでいるな。」

 「和子さんが引き取ってくださる所までは、大河さんがちゃんと手配してくださったので、その分は負けておきました。」

 「そ、そうか……。まあ、確かにこれなら食べられるかな。」

 「それなら良かったです。少しは器が大きくなったようですね。」


 無表情で答える冴香。そろそろ機嫌を直して欲しい。

 取り敢えず、次に冴香が週末に休みを取れた日に、祖父さんの家に連れて行ってやる、という事で手を打ってもらった。


 そして週末、早速俺達は祖父さんの家へと足を運んだ。ミイと名付けられた猫を中心に、俺の目の前で楽しそうに猫談議に花を咲かせる冴香と祖母さん。そして 何故か祖父さんまでもがそれに加わっている。

 くそ、面白くない。どうせなら冴香とデートしたかった、と俺は半ば不貞腐れながらその光景を眺めていた。


 勧められるままに祖父さんの家で夕食を摂って、俺達は家路に就く。


 「ミイちゃん、相変わらず可愛かったなー。会長と和子さんにも、可愛がって頂けていて良かったですね。」

 笑顔で話し掛けてくる冴香。漸く二人きりになれたのに、冴香の口から出る言葉は猫の事ばかりだ。


 「……大河さん、どうかしたんですか? 先程からずっと仏頂面されていますが。」

 「別に。」

 「折角のイケメンが台無しですよ。大河さんの唯一の取り柄なんですから、もう少し笑ってみたらどうですか。」

 「唯一って何だよ! 唯一って!」


 俺が抗議しても、しれっと窓の外に視線を背ける冴香。

 くそ、家に帰ったら覚えてろよ。あまり俺をほったらかしにしておいたら、狼になるって教えてやるからな。


 「あれ……? 大河さん、ちょっと止めてください!!」

 冴香の焦ったような声に、俺は慌ててブレーキを踏む。


 「どうした? 冴香?」


 助手席を見ると、冴香は素早くシートベルトを外して、車を降りて行ってしまった。何事かと思っていると、すぐに腕に黒い鳥を抱えて戻って来る。どうやら九官鳥のようだ。


 「この子、怪我していて飛べないみたいです。足輪があるから、迷子じゃないかと思うんですけど……。」

 心配そうに鳥の背を撫でる冴香に、俺は溜息をついた。


 「仕方ないな……。迷子なら、警察に届けてみるか?」

 「でも怪我していますし、先に動物病院に行った方が良いんじゃないでしょうか?」


 二人で頭を悩ませていると、突然九官鳥が喋り出した。

 「キュー、チャン。キュー、チャン。」

 「へえ、キューちゃんって言うの? お家は何処かな?」

 「シンジョーシンリョーショ。」


 俺と冴香は、思わず顔を見合わせた。

 それってまさか、新庄診療所の事か?


 早速新庄君に連絡を取ってみると、案の定、実家で飼っている九官鳥が迷子になっていて、探している所だったらしい。もう乗り掛かった船なので、このまま届けに行く事にした。


 「良かったね、キューちゃん。もうすぐお家に帰れるよ。」

 猫の時と同様、冴香はずっと九官鳥に優しく話し掛けている。


 やっと二人きりになれた所だったのに。そして猫と言い九官鳥と言い、明らかに俺より待遇が良くないか? もう動物が嫌いになりそうだ。


 「ったく、傍迷惑な九官鳥だな。後で飼い主に文句を言ってやる。」

 「大河さん、何で機嫌悪いのか知りませんけど、八つ当たりしないでください。」

 「キゲンワルイ、ヤツアタリ。」

 「お前、そいつに妙な言葉を教え込むなよ。」

 「この子が勝手に学習しているだけですよ。私が教えているんじゃありません。」

 「カッテ。」

 「そう。大河さんは勝手だよねー。」

 「タイガ、カッテ。」

 「冴香、そろそろその辺で止めておけ。もう着くから。」


 九官鳥を新庄診療所に引き渡し、怪我をしている様子だと伝えて、俺達は漸く家に帰った。

 何だか、今日は酷く疲れた気がする。


 後日、新庄君の実家に遊びに行ったと言う麗奈から電話があった。


 『大河君、まさかとは思うけど、冴香さんに辛く当たったりしていないわよね?』

 「はあ? 何の話だよ。」

 『この間迷子になっていた所を、保護して届けてくれた、九官鳥のキューちゃんは覚えているかしら? その子が、タイガ、カッテ、キゲンワルイ、ヤツアタリ、って繰り返しているのよ。もしかしてDVとか……。』

 「する訳ねーだろ!!」


 思いっ切り怒鳴り付けて、電話を切った。

 やっぱり俺は動物が嫌いだ。関わると碌な事が無い。

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