表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/129

102.努力……しています

 「大河さん、今日は何処に行くんですか?」

 「まあ良いから、一緒に来いって。」


 週末、デートと称して大河さんに連れ出され、私達がやって来たのは、見覚えのあるお店。咄嗟に断ろうとしたものの、楽しそうな笑顔を浮かべた大河さんに腕を取られ、引き摺られるようにして、最上階のVIPルームに連れて来られてしまった。


 「西条先輩、お久し振りです。」


 大河さんは、ご丁寧に予約までされていたようだ。部屋に入ると、西条さんと岬さんが待ち兼ねていた様子で、嬉しそうに歩み寄って来られた。


 「久し振りだな、天宮君、冴香ちゃん。」

 「お久し振りです、西条さん、岬さん。」

 「いらっしゃいませ。本日はご来店、ありがとうございます。こちらへどうぞ。」

 私達はソファーに案内され、腰掛ける。


 「そうそう、この間は出産祝いをありがとう。咲も喜んでいたよ。」

 「いえ、おめでとうございます。送ってもらった写真見ましたよ。まこと君、凄く可愛いですね。」

 「だろう!? もう可愛くて仕方がないんだ! 我ながら親バカだけどな。今はまだ育児になれなくてドタバタしているけど、落ち着いたら招待するから、顔を見てやってくれよ。」


 大河さんと西条さんがお子さんの話で盛り上がる傍らで、私は岬さんに婦人服のカタログを見せられていた。とは言っても、私は別に今ある服で十分だと思っているし、欲しい服がある訳でもないので、なかなか話が進まない。困っていると、大河さんが横からカタログを覗き込んできた。


 「冴香、気に入った服がないのか?」

 「いえ、そう言う訳ではないのですが……、今ある服で十分なので、必要性を感じないと言うか。」

 ぽろっと本音を零したら、大河さんに睨まれた。


 「お前な! ある服って言ったって、パンツばっかじゃねーか! スカートやワンピースは日を改めて、って言ったのはお前だろ! それに……。」

 大河さんは耳元に顔を寄せて、小声で言う。


 「痣が治ったらちゃんと言えって言っただろうが。とっくの昔に治っている筈なのに、全然言って来ねえし。」

 「言う必要性を全く感じなかったので。」

 私が口答えすると、大河さんは溜息をついた。


 「お前な……。兎に角、お前はもっとお洒落に興味を持て。」

 「そう言われましても……。まあ、努力は、します。」

 私は口を尖らせつつ、頷いた。


 確かに、大河さんに相応しくなるように頑張る、と言った手前、身だしなみにはもっと気を遣わなければならないだろう。せめて、大河さんの恋人として、胸を張って並んで歩けるようになりたいし。

 分からないながらも、これからはファッションの勉強をしなきゃ、と決意した。


 「頑張れよ。そうそう、ドレスも今後必要になってくるから、ついでに見ておくか。」

 「ドレス……ですか?」

 今一ピンと来なくて、ぽかんとしながら大河さんを見上げると、大河さんに呆れたような視線を返されてしまった。


 「俺と婚約したんだから、今後パーティーに出る時とかに必要になるだろうが。」

 大河さんの言葉に、西条さんと岬さんは一瞬目を丸くしたかと思うと、パッと顔を輝かせた。


 「天宮君、婚約したのか!? おめでとう!」

 「ありがとうございます。先輩には、直接ご報告したいと思って。」

 「素敵ですね! 本当におめでとうございます! じゃあ堀下様、本腰を据えて選びましょうか!」

 「は……はあ……。」


 盛り上がった三人に囲まれ、特に岬さんの熱気に押され、私も真剣に服を選び始めた。私に似合う服やコーディネートの仕方等を岬さんに教えてもらったが、慣れないスカートやワンピースには、どうも違和感を覚えてしまう。だが、何故か大河さんが似合うと言っては、次々に購入を決めていく。

 ちょっと大河さん、何着買うつもりですか。もっとお金を大切にしてくださいよ。


 大河さんに抗議はしたものの、さらっと無視されて更なる着替えを要求され、漸く着せ替え人形状態から解放された頃には、私はすっかり疲れ果てていた。最後に、買って頂いたばかりのレモンイエローのワンピースと、白のカーディガンに身を包む。Vネックで胸下切り替えのワンピースは、低身長の私が着ても大人っぽく見えるデザインで、私も気に入った一品だ。


 「大河さん、ありがとうございます。……ところで、本当にこんなに買い込む必要があったんですか?」


 車の後ろに詰まれた服の山を見ながら、大河さんに尋ねる。

 この前来た時よりも量が多いんじゃなかろうか。何だか申し訳ないと言うか、罪悪感が半端じゃない。


 「これくらい普通だろ。次は婚約指輪を買いに行かなきゃな。どんなのが良いか考えておけよ。」

 「まだあるんですか!?」


 ファッションだけでも頭が痛いのに、指輪の事なんてさっぱりだ。先程決意したばかりにもかかわらず、私は思わず項垂れてしまった。

 その後に立ち寄ったブライダルジュエリー専門店で、私よりも大河さんが楽しそうに指輪を選んでいた事は、言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ