表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/129

10.イケメンの先輩はイケメンでした

 仏頂面の大河さんに次に連れて来られたのは、WESTと言う大手アパレルメーカーのお店だった。服飾関係には疎い私でも流石に知っているくらいの、日本を代表する大企業の一つだ。ここで私の服を見繕ってくれると言う。恐れ多い。もっと安価な量販店の服で良いのに。


 「これは天宮様、いらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」


 男性の店員に案内されて、エレベーターで最上階に上がる。通された部屋には重厚なソファーが備わっており、テーブルの上にはいくつも服のカタログがあった。も、もしやこれは噂に聞くVIPルームとやらではないだろうか? 大河さんは慣れた様子でスタスタと入って行くが、私は場違い感が半端じゃない。


 「天宮君お待たせ。久し振りだな。」


 勧められたソファーに座って部屋の中を見回していると、これまた凄いイケメンが入って来た。大河さんに勝るとも劣らない高身長で短い黒髪、はっきりした二重瞼、鍛えられた身体でビシッとスーツを着こなしている。大河さんよりも大人っぽい雰囲気を纏った、魅力的な男性だった。


 「ご無沙汰してます、西条先輩。」


 一緒にソファーに腰掛けていた大河さんが立ち上がったので、私も慌ててその場に立つ。目も眩むようなイケメンが二人……実に絵になるなあ。


 「初めまして、お嬢さん。天宮君の大学の先輩で、当WEST銀座店支配人の、西条明さいじょうあきらです。どうぞ宜しく。」

 「あ……初めまして、堀下冴香と申します。」


 にっこりと笑った西条さんは、ご丁寧に私に名刺を渡してくれ、慌てて恐縮しながら頭を下げる。西条さんがソファーを勧めてくれたので、再び大河さんの隣に腰掛けた。西条さんが向かいのソファーに座ると、先程の男性店員がお茶を持って来てくれた。凄い、至れり尽くせりだ。

 すっかり圧倒されてしまった私は、ギクシャクとした動きで少しずつお茶を頂きながら、親し気な二人の会話にひたすら耳を傾けていた。


 「今日は奥さんはいらっしゃらないんですか?」

 「ああ。さきは今産休中なんだ。」

 「そうなんですね! おめでとうございます!」

 「ありがとう。あと一ヶ月程で生まれる予定なんだ。いよいよ俺も父親かーって、凄く楽しみにしている。咲は生まれた後も育休を取るから、当分店に来られないんだ。今日は冴香ちゃんの服を探しに来たのか? 咲が居れば適任だったんだけど、悪いな。」

 「とんでもない。おめでたなんですし、お大事にしてもらわないと。」

 「そう言ってもらえると助かる。代わりの女性スタッフを呼ぶから、それまで冴香ちゃんはカタログを見てもらっていても良いかな?」


 西条さんは私に婦人服のカタログを勧め、私がペラペラとページを捲っている間に、電話で指示を出していた。暫くして扉がノックされ、長いストレートの茶髪を後ろでスッキリと一つに束ねた、感じの良い女性が入って来た。みさきさんと言うそうだ。


 「冴香ちゃん、何か気に入った服はあった?」

 西条さんに訊かれた私は、戸惑いながらも、シンプルな長袖のシャツやブラウス、パンツを数点ずつ挙げていく。


 「お前、パンツばっかじゃねえか。スカートやワンピースも見てみろよ。」


 大河さんの言葉に、私は硬直した。

 そんな服、今は着れない。今着るならせめて足首まであるレギンスでもないと。


 「……沢山あり過ぎて決められないんです。今日はトップスとパンツだけにして、スカートやワンピースはまた日を改めさせてもらっても良いですか?」

 「日を改めるなんて面倒だろうが。良いからさっさと選んでしまえよ。何なら俺が選んでやろうか?」


 横からカタログを覗く大河さん。駄目だ、遠回しに言っても悟ってもらえそうにない。こうなったら直接言わないと、と大河さんの耳を借りる。


 「腕みたいな痣が足にもあるので今は無理です。」

 「! ……悪い。」


 小声で耳打ちすると、大河さんは顔色を変えて項垂れてしまった。

 え? いやちょっと何で落ち込むの? 西条さんも岬さんも不思議そうな顔で見てるんですけど。


 「今日の所はこれだけでも構いませんか? 他の物はまた次回にさせて頂きたいのですが。」


 妙な空気になってしまった場を取り繕おうと、出来るだけ明るい声で言うと、西条さんは笑顔で頷いてくれ、岬さんは服を取りに行ってくれた。


 岬さんは私が選んだ服だけでなく、お勧めだと言う服も持って来てくれた。数点服を選んだだけなのに、既に私の好みを把握してくださっているようで、流石としか言いようがない。岬さんに促されて、続きの小部屋で服を試着させてもらった。

 新品の服に手を通すなんて久し振りだ。やっぱり体に合っている服って良いな。自然と気持ちが浮き立ってくる。白のフレアブラウスと、紺のパンツに身を包んで、姿見を確認してから小部屋を出た。


 「如何ですか? 堀下様にとても良くお似合いだと思いますが。」

 「はい。凄く着心地が良いですね、この服。」

 「へえ、良いじゃん。似合ってるんじゃねーの?」

 皆さんにおだてられて嬉しくなる。


 「こちらのストライプシャツも如何ですか? 今お召しのパンツにも合いますよ。」

 「あ、でもこれ七分袖ですね。私、長袖の方が良いので、こっちの方を試しても良いですか?」


 調子に乗って色々試着していたら、何時の間にか私が試着した服は、全部大河さんが買ってしまっていて愕然とした。

 ぜ……全部って。何着あると思っているんですか。後でまたそこから絞り込もうと思っていたのに。


 私は慌てて抗議したものの、大河さんは完全スルー。しかもまだ満足していないようで、更に選ぶように勧められてしまった。痣が治った後で改めてスカートやワンピースを選ばせてもらうから、と説得には成功したものの、かなり骨が折れてしまったので、次回は予めもっと絞り込んでから試着しようと決意した。セレブって怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ