第5話 報告の旅、順調
メインダリー包囲網を順に辿って行くラヴィ達。
まずは〔モッタ〕。
首都の〔モッテジン〕に入ると、前に訪れた時のままゲートが2つに分かれている。
豪商の《フチルベ》と騎士団長 《エプドモ》が領主の《ズベート卿》に申し入れた通り、モニュメントと化していた。
それでも町並みは、少しずつ変わっている。
作戦への協力及び成功を直接伝える為、ラヴィ達はズベート卿の屋敷を訪れた。
中では丁度、家臣の《ヘイルゥ》が会議を開いていた。
しかし、王女到着の知らせを受け急遽中止。
出迎える準備をしようとしている所を、騎士の《シリング》がズカズカと歩いて行く。
その後ろを、恐縮気味に付いて行くラヴィ達。
『無理にご案内したのではあるまいな?』と詰め寄るヘイルゥと。
『仰々しいのは反って手間だ』と押し切ろうとするシリングで。
揉め出す。
『申し訳ございません』と前へ進み出るのは、錬金術師の《ジンジェ》。
アンに紹介状を書いて貰ったにも係わらず、それを封印。
どうやら今は、町造りの方が楽しいらしい。
『何時か伺いますから』と耳元でボソッと言われ、思わず『ひっ!』と叫ぶアン。
それをさせない為に、紹介状を書いたのに。
珍しく露骨に嫌がるアンを、ふふふと笑いながらセレナが見ている。
ラヴィはさっさと事を済ませたいらしい。
既にズベート卿との会談に入っていた。
『しっ!』とジンジェに言われ、漸く事態に気付く家臣2人。
『お持て成しをしたかったのに』と、大変残念がる。
話を一通り聞いたズベート卿。
満足気な顔をしていた。
彼の話によると。
フチルベは、市場町〔シウェ〕に戻り。
エプドモは、領内に把握出来ていない住民が居ないかを探索中との事。
余程、〔アップリング〕と名付けられた元〔名も無き村〕の存在が堪えたらしい。
『住民の安寧に努める所存』と、ラヴィに決意の程を語るズベート卿。
曽て隣町の〔ヨーセ〕で引き籠っていた姿は無く、すっかり頼もしい存在となっていた。
それを喜び、モッテジンを後にするラヴィ達だった。
次の領地へ入る前に。
兄が守ったアップリングを訪れたい。
アンがそう申し出た。
元々のルートに組み込まれていた為、すんなり了承される。
村の中に立つ金の塔を見つけると、思わず駆け寄るアン。
塔の周りでは、子供達が遊んでいた。
すぐに、子供達に取り囲まれるアン。
「ねえねえ、あの兄ちゃんは?」
「お礼が言いたいんだけど。」
「一杯人が来てね、調べてったんだー。」
「お陰で俺達も安心だよ。」
遠くに、見覚えの有る親子が居る。
少年 《ノルミン》と、その両親。
こちらへ向かってお辞儀をする。
帰って来れたんだ……。
安心するラヴィ。
メインダリーで、イーソからパラウンドに向かう途中に在った〔仮初の村〕。
リゼ達が居座っていたが、アンの兄がぶっ壊し住民を故郷へ帰した。
その時に居た人達。
無理やり連れて来られ、働かされていた住人。
アップリングへ戻って来れたと言う事は、他の人達の帰還も叶ったと言う事。
こんなに嬉しい事は無い。
《村の長老》が、子供達に連れられやって来る。
そして深々とお辞儀をし、礼を述べる。
「ありがとうございました。漸く存在意義を見出せました。」
「いえ、こちらも力になれて何よりです。」
挨拶を返すラヴィ。
子供達は皆笑顔。
それが一番のご褒美。
それだけで満足だった。
名残惜しそうに見送る、アップリングの人達を背に。
進むラヴィ達。
次はモッタの西隣にある〔レンド〕。
何日も掛けて歩いていた、往きとは違い。
馬は本当に早い。
上下にうねる坂も何のその。
要塞都市〔ロウム〕には、あっと言う間に到着した。
それは、一回通った経験が有るからかも知れない。
帰路は比較的、遠くへ進んでいた頃よりも早くなっていた。
領主の《リーフ卿》は体調がすっかり良くなって、ロウムから本来の首都である〔ユーメンダ〕へと移ったらしい。
町の人達に話を聞いたら、皆そう答えた。
そして同じ位、『弟の前領主は、すっかり人が変わったよ』との噂を耳にした。
無事に更正出来たらしい。
まあ、いざとなったらまた変わるかも知れないが。
良い方向に向かってるのは確か。
話により、ユーメンダへと向かうラヴィ達。
意外とユーメンダにはすぐ着いた。
前は連行される体を取っていた為、自力で歩いていない。
馬車に揺られて半日程で着いたのだから、馬ならあっと言う間。
早速リーフ卿と面会。
「あの時はお世話になりました。」
すっかり元気な事を、殊更にアピール。
もう心配ご無用。
そう訴えかけている様に。
ラヴィも礼を言う。
「包囲網の件での協力、感謝致します。」
「いやや!それが義務ですから。」
民の為に動くのは、治める身分として当然。
そう言いたいのだろう。
その思いに頭が下がる、ラヴィだった。
リーフ卿への報告も終えて。
ユーメンダを発つ3人。
途中で、西隣の領地〔サファイ〕まで直ぐの村〔トッスン〕を通るが。
村代表の《ヤンク》は、あちこちを駆け回っているらしい。
リーフ卿の民を思う心を村民に伝えた後、『もっと村を良くしたい』と勉強の旅に就いたとの事。
何処かでヤンクとすれ違うかも知れない。
ヤンクには結局、身分を明かしていない。
向こうはまだ、行商人だと思っているだろう。
本当の事を知ったら、腰を抜かすかも知れない。
それを想像すると、顔がにやけるラヴィだった。
包囲網を形成した最後の領地、サファイ。
初めて訪れた時の首都〔ルビア〕は、混乱に満ちていた。
セントリアからの避難民と元からの住民の間で、押し問答が繰り広げられていた。
しかし今は、全くその様な風には見えない。
住民に話を聞くと、『セントリアへの攻撃が止んで平穏を取り戻したらしく、皆自然と故郷へ戻って行った』との事だった。
町の平穏に一役買えた事を、誇りに思うラヴィ達。
あいつが聞いたら、喜ぶだろうな……。
ふと思い出すラヴィ。
ガティを離れて、結構な日数が経っている。
訪れる町ごとに歓迎されては、幾ら馬で機動力を確保しても多少は遅れが出てしまう。
予定よりかなり押している。
急がないと。
そう言うラヴィの思いとは裏腹に。
ここでも歓迎ムードで待っている人達が。
サファイの領主、《エレメン卿》の屋敷。
娘の《ダイアナ》が満面の笑みで迎える。
そして頻りに『泊まるよね?ねえ、泊まるよね?』と聞いて来る。
旅の話を聞きたいらしい。
『うーん』と考えるラヴィ。
そこを『旦那様がお会いになりたいと仰ってますので』と、お守りの《ケリー》が連れて行く。
『またねー!』と言うダイアナの笑顔に根負けし、今夜はここに泊まる事にしたラヴィだった。
一夜明けて。
報告も終わり。
眠そうな顔のラヴィ。
ダイアナが話をせがむので、一睡もしていないのだ。
『寝かせてやろうか?』と〔バクバックンのキーリ〕が出しゃばって来そうだが。
あれは夢の住人。
乗馬までは出来ない。
それにロッシェと別れた後も、アンはラヴィの後ろに引き続き乗っている。
急に乗り換えられると、乗り方が変わってしまい反って遅くなるからだ。
そこを無理して、馬に乗るラヴィ。
『ごめんね……』と小声で謝るダイアナ。
『気にしないで』と、これ以上心配しない様に精一杯笑うラヴィ。
逆に痛々しくて、泣きそうになるダイアナ。
それを慰めるセレナ。
涙を我慢するダイアナ。
元気に手を振って見送ってくれている。
その隣には、付き添いのケリーの姿も。
手を振りながら、ラヴィ達も馬を走らせた。
そしてとうとう。
サファイの南に位置する、妖精の森〔シルフェニア〕の前まで戻って来た。
さて、どうしよう?
前は、あいつのお陰で中へ入る事が出来た。
今はあいつ不在。
そしてここから一緒に旅する事となった、妖精の《エミル》も居ない。
通して貰えるかなあ。
そう呟いた時。
向かい合う森から声がした。
『この中へ入れる事は出来ません。』
『その声は、《エフィリア様》!』
叫ぶアン。
エミルの母で、現在の妖精王。
それが拒否したのだ。
なら、遠回りするしか……。
考え出すラヴィ。
しかし、エフィリアはこう続けた。
『中に入れる事は出来ませんが、入り口同士を繋げて通してあげましょう。』
「あ、ありがとうございます!」
感謝の言葉を述べるラヴィ。
目の前が『キュイイイイン!』と言う音と共に光り出す。
『繋がりました。さあ、お行きなさい。』
「感謝します!」
光の中へ突入するラヴィ達。
すると、目の前がすぐに街道となった。
慌てて止まるラヴィ達。
振り返ると、光が鈍くなって行く。
『エミルを頼みましたよ』と言う言葉と共に。
静かに頷き、再びラヴィ達は走り始める。
包囲網を抜け。
迷いの森を抜け。
次に辿り着くのは。