Part-02 読書で世界を知る。
まずツヴァイに言い渡されたのは、家の巡回警備と家を知る事だった。
当然、マスターの家の構造とかを知る事は必要だったのだが。
今は私服を置いておき、堅い繊維で編み込まれた普段着の上に、革製の鎧を着ている。
なんというか、騎士というよりは傭兵みたいな恰好だけど。
「めちゃくちゃ大きい家・・・というかこれもう屋敷レベルだな・・・。後、至る所にでかい本棚が・・・。」
びっくりしたのは、図書館かと疑うレベルの本棚だ。
高さ4メートルくらいあるだろう大きい本棚が並んでおり、中には歴史書や魔導書、一般の書籍が所狭しと並んでいる。
家の2階は普通の家っぽい構造だったが、やはり屋敷みたいな感じだった。
部屋が10部屋くらいあったが、大半が空き部屋のようで使われている気配はない。
一番奥が、マスターの部屋なようだ。
というか、今までどうしてたのだろう。
あんな中学生くらいの女の子一人で、こんな広大な屋敷を管理できるとは到底思えないのだが・・・。
「本読みで、屋敷の主で、かつ女の子か・・・。すごい組み合わせだなこれ。」
2階を見回った後、再度1階の図書室・・・もとい広大なフロアを見回った。
本には勿論、この世界の事や国の情勢が書かれた本もあるみたいなので、後で許可を取ってじっくりと読みたい。
後、パッと見ただけだが魔物大全という本もあったので、恐らくは魔物とかモンスターとかが居るようだ。
「ツヴァイ、どう?ある程度は家の構造が把握できたかしら?」
いつのまにか、マスターが近くまで来ていたようだ。
黒っぽい服を着ていて、3冊くらいの本を抱えている。
「大体は把握できた。それと、頼みが2つ程。」
「何かしら?」
「えっと、まず1つが読書の許可を。」
「いいですよ、それくらいなら勝手にやっても。」
「恩に着る、それともう一つは、暫くしたら外出の許可を。」
外出の許可、といった瞬間に、口元に手をやって考え込む動作をするマスター。
何か思う所があるんだろうか。
「外出は・・・まだ許可できないわ。危険が多すぎるし、貴方はまだ世界について何もしらないでしょう?」
「ああ、だから世界についてを読書である程度知ってから・・・」
「それでもすぐに許可とは無理ですよ。貴方は私の騎士です。忘れましたか?」
言われて気づいた。
マスターの専属の騎士だ。騎士って名前だから、もちろんこの屋敷の防衛とかもしなきゃいけない。
どこの世界に、無許可で主を置いて外に行く騎士がいるんだ。
「それに、今の貴方は剣術や魔術も知らない。そんな状態では外出はおろか、騎士としての職務も果たせるか疑問ですけどね。」
「・・・」
まあこうなるよな。
思ってはいたが、この世界では剣術とか魔術とかがやっぱりあるようだ。
それをまずは最低限取得しないとどうにもならない訳で。
「ある程度知識を得て、貴方が落ち着いたら剣術や魔術を教えてあげます。貴方なら、すぐに上達すると思いますよ。」
「えっ、魔術はともかく、マスターに剣術なんて使えるのか?」
こんな女の子が剣を振り回す姿なんて想像できない。
雰囲気的に魔術は賢者レベルかも知れないが、剣術なんてやるような体つきもしてない。
「多少は知ってますよ。無論、私自身は使えないですが、魔法で鎧を動かしてやらせます。」
「魔法か・・・わかりました。その時にはよろしくお願いします。」
マスターは本を抱えて歩いて行った。
自分の部屋で読むんだろうが、わざわざ2階まで行くのは面倒じゃないか?と思ってしまう。
それにしても魔法で剣術を教えるっていうのもな。
多分、鎧を操り人形みたいにして間接的に教える、と言いたいんだろう。
本当に魔法って、どこの世界で便利な物だな。
「まあ、マスターから一応の許可が出たし。気になる本でも読んでみるかな。」
まずツヴァイは、適当に『世界を歩く冒険』とかいう名前の本を読んだ。
名のある冒険家が、世界中を自由に歩き回るという本だ。
これで、大体の事が分かった。
この屋敷があるのはガリア王国という国らしく、世界の中でも一番国力がある。
領地も広く、保持する軍隊も一番強力らしい。
周囲を囲むように3つの国があり、オルベール帝国、サンシャルド海運国、エルナス神聖国というらしい。
このガリア王国とオルベール帝国の仲は良いとは言えないらしく、過去にも何回か小競り合いがあったみたいだ。
次に手に取ったのは、さっきもチラッと見た魔物大全。
ゲームの中に出てくるような、スライムやゴブリンから、マッドウルフとかいうオオカミっぽいモンスターとかも居る。
まあつまりは、この世界には魔物が当然のように居て人を襲うのだという事だ。
それが分かっただけでも良しとする。
最後に手に取ったのは、『魔力について』という本だ。
魔力はその辺に漂っているらしいのと、どんな人間も身体に魔力を宿してるらしい。
魔法使いは身体の魔力を駆使して魔法を放ち、騎士や戦士は魔力を引き出して身体能力の強化を行うようだ。
魔物というのも、動物や無機物、単細胞生物が魔力を得て急激に成長したり、進化ものらしい。
この世界において、魔力はかなり重要な地位を占めているようだ。
「ツヴァイ。読書に没頭するのは感心しますが、そろそろ夕食の時間ですよ。」
マスターがいつのまにか傍にいて、そっと声をかけてくれた。
いつのまにか居るので、こっちとしてはいきなり声をかけられてビックリしてしまう。
「ああ、分かった。・・・それにしても、凄い本の数だな・・・全部読むのに何年かかるのやら。」
「多分10年はかかるわよ。全部内容を理解すれば、ですが。」
「頭が痛くなるから止めます。」
ざっと見ても数千冊はあるしな。
もしかしたら5桁いくかも知れない。市民図書館なんて目じゃないし。
火事にでもなったら、それこそ大変な事になりそうだ。
そういえば、この家にはまだマスターしか人を見てない。
もしかしたらメイドとか執事とかがいるかも知れないが、少なくとも自分は見てない。
まあそのうち会えるだろう、と思いつつ、2人で2階にある食堂に向かった。